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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十二章 続『水卿エリア』での冒険

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693 大物?小物?

「私たちはジェミニ侯爵の護衛として雇われた冒険者です。現在魔物からの襲撃を受けており、それに伴い互いの安全のためにあなた方の身柄も拘束させていただきます。なお、要人警護の手順に従い武装を解除して腕は後ろ手に縛らせてもらいますのであしからず。反抗や逃亡の恐れがあると判断すれば最悪歩けないように傷を負わせることもあり得ますので、言動には十分に注意してください」


 タマちゃんズに意識を持っていかれてそれどころではないかもしれないけれど、三人の男たちには捕縛する理由を伝えておく。

 こういうことは手順や決まりに(のっと)って行動した、という事実が重要になるからね。面倒であっても完全に省いてしまう訳にはいかなかったりするのです。


 そしてミルファのサポートに〔人化〕で変身したトレアが、ネイトには護衛を兼ねてリーヴが、そしてボクにはチーミルとリーネイが付く。

 まずは目に見える長剣や短剣を男たちの体から引きはがす。

 次に破れかぶれになって暴れられても困るので、両腕を後ろで縛って抵抗力を大きく低下させておく。この際、どこで見聞きしたのか定かではない怪しい知識を動員して、両手の親指の付け根同士を追加で拘束しておきます。


「何をしていますの?」

「こうしておくと、身動きが取り難くなるんだってさ」

「……本当に意味がありますの?」


 胡散臭いものを見る目でミルファが問うてくる。まあ、出どころ不明の怪しい知識だからねえ。ボク自身本気で効果があると思ってはいないしね。

 ただ、


「逃げようとする時に余計なひと手間くらいにはなるでしょ。その時間の分だけこちらは戦う準備ができたり人を呼ぶことができたりする訳だから、決して無意味ということではないよ」


 要は時間稼ぎになればそれでいいのだ。

 それに今はタマちゃんズの影響か戦意を喪失しているけれど、再び牙を向けてこないとは限らないからね。後悔しないためにも打てる手は全て打っておくべきだと思う。


 さらに持ち物の没収を進めていると、革袋に入れられた不気味な粉末を発見です。

 いや、もう、何が不気味なのかと言いますと色が悪過ぎる!蛍光色の紫とか、パッと軽く見ただけでも目が痛くなりそうだよ!

 当たりだろうなと思いつつも〔鑑定〕で確認してみたところ『魔操の粉末』なる名称が浮かび上がった。うちの子たちもどことなくソワソワしているみたいだし、これが例の薬だとみて間違いなさそうだ。


 ちなみに、あちらは実物を見た訳ではないので、カウントダウン二十代のおじさんが使用していたものと同じかどうかは不明です。


 それにしても……、コソコソと動き回っていたからてっきりシーフやシーカーといった職業に就いている人たちなのだろうと想像していたのだけれど、この連中どこからどう見てもバリバリの接近戦メインなファイター系統だわね。

 薬を利用するとはいえ、あちこちに生息(ポップ)している魔物をかき集めるためには、体力が必要だったということなのかもしれない。


「後は彼らがどこまで事情を知らされていたのか、ですね」

「これほどあっさりと捕らえることができましたもの。期待薄ではなくて」


 辛辣(しんらつ)な物言いだが、ミルファの意見は正にその通りなのだよねえ。

 仮に敵の内情を一から十まで知っている者であれば、捕らえられた時点で一派や組織が詰み確定という意識を持っているはずなので、それこそ死ぬ気で抵抗を行ったことだろう。

 それがなかった時点で、お察し程度の情報しか与えられていない、それこそいざとなれば切り捨てることに躊躇しないトカゲの尻尾に過ぎないと証明されてしまっていた。


 切り捨てると言えば、こういう時には情報の漏洩を防ぐためにどこからともなく致死級の攻撃が飛んできて、口を止めるどころか息の根そのものを止めるというのがある種の定番なのだけれど……。そういった兆候は見られないね。

 そういう意味でも、やはりこいつらは下っ端ということなのだろう。


 まあ、いい。どうやって情報を聞き出すかを含めてこの三人をどう扱うのかはジェミニ侯爵たちの領分だ。

 ボクたちの仕事は彼らのところまで連れていくこと、もしくは彼らがやって来るまで男たちの身柄を確保し続けることだ。


「と、頭の中でフラグを立ててみたのだけれど……。何も起こらないね……」


 こっそりと使用していた〔警戒〕の技能にも、それらしき反応は見受けられない。


「また急に訳の分からないことを言い始めましたわね」

「ミルファの辛辣な言葉の矛先がこちらにも!?……実は、この連中を囮にしてボクたちをおびき寄せて、口封じも兼ねて全員一網打尽にする、なんて展開があるかもしれないと思ってさ」

「……相変わらずあなたの発想は突飛な上に物騒で凶悪ですわね」

「失敬な!常に最悪の事態を想定している、と言ってもらいたいところだよ」

「言いたいことは分かりますが、よくそれだけ物騒な展開を想像できるものですね……」

「今度はネイトに呆れられた!?」


 時には知恵と知識と想像力で絶体絶命のピンチを切り抜けるといったプレイヤーを引き立てるためなのか、『OAW』の人々は妙なところで素直というか正直というか、生真面目な部分があるのだよね。

 そんな彼ら彼女たちからしてみれば、リアルでちょっとばかり物語が好きだとか、歴史に興味を持ち始めたばかりの人物が聞きかじった有名どころの策略、そのほんのさわりの部分だけであっても、とんでもなく恐ろしい作戦のように見えてしまうらしい。


「エッ君たちテイムモンスターたちや、座敷童たちが素直に育ってくれているのだけが救いですわね」

「有用であることは理解できますから、恐ろしい考えをするのを止めろとは言いません。ですが、テイムモンスターたちの教育によろしくないかもしれないことには留意してください。アコの迷宮が攻略できない理由が「悪辣過ぎるから」なんてことにもなりかねませんよ」


 ぐぬぬ……。うちの子たちを引き合いに出されては反論もし辛くなってしまう。

 確かに、有名な策略の中には目的のためには手段は問わないといった類のものや、敵側の仲を裂いたり疑いあるように仕向けたりと、えげつないものも少なくない。

 勝てば官軍ではないけれど、目的達成のために非道だと思えるようなことに手を染めるようでは本末転倒のいいところだ。


 ここしばらく仕掛けられる側にいたことで、どこか余裕をなくしていたのかもしれない。


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