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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第六章 美味しい仕返し

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68 『カツうどん』を作ってみよう

 ボクの提案に頭を抱えるシュセン組合長とボッターさんをその場に残し、ボクは『猟犬のあくび亭』への帰路についていた。

 これ以上の介入は一介の冒険者には荷が重過ぎるからね。それに、ボクにはこれから騎士団に捕らえられているおじさんに嫌がらせをするためのカツうどんを作るという、崇高な使命があるのです!


 まあ、その前に一旦ログアウトしてリアルでお昼ご飯を食べなくちゃいけない時間帯になっているけど。

 両親共に出かけているからボク一人なんだよね。適当に食べてもいいんだけど、リアルの方でも試しにカツうどんを作ってみるのもアリかもしれない。




 はい、そんな訳でログアウトしてお昼ご飯の準備です。

 冷蔵庫を見てみると、何ということでしょう。一口用にカットされたとんかつ用のお肉が鎮座ましましているではありませんか!

 ご都合主義?ノンノン。昨日お母さんに「カツ丼食べたいなあ」と独り言を装っておねだりした成果なのです。


 いやあ、昨日雪ちゃんと話していたら、本格的にカツ丼が食べたくなったんだよね。『OAW』ではどれだけ再現できるか未知数だったから、ちゃんとしたものが食べられるように根回しをしておいたのだ。

 本当は夕食にでも作ってもらうつもりだったのだけど、まあ、たまには多少手の込んだ料理をするのもいいでしょう。


 さて、ここでボクの料理の腕前なのですが。……まあ、一通りは無難に(こな)せるっていうレベルかな。

 ちなみに里っちゃんは万能系美少女キャラにありがちな料理が壊滅的にできない、などということもなく家事全般含めて得意だったりします。

 あの従姉妹様に隙などないのだ。


 いつまでも羨んでばかりいては先に進めないので、この辺で気持ちを切り替えまして。

 材料の準備から始めましょう。まずはメインとなるお肉!はい、先ほどの一口用のものですね。カツにするための小麦粉に卵、パン粉……、は食パンをミキサーで粉々に。

 とんかつではなくカツ丼風うどんにするため、一緒に煮込むタマネギとニンジンも用意します。調味料類は後回し。

 そして肝心要のうどんだけど、今回は冷凍されたものを使用するよ。レンジでチンできるタイプなので簡単楽ちん便利。


 それでは調理スタート!

 まずは揚げるための油を準備しまして……。油が熱せられるまでの間にお肉へと取りかかります。こちらは一口大に切られているとはいっても、それはお成人男性に合わせたものだ。

 ボクには少しばかり大きいので、簡単に噛み切れるように筋を切っておくよ。小麦粉、牛乳を少々加えた溶き卵、パン粉の順に着飾らせていき、いよいよ油に投入です。

 菜箸を油に入れて先端から気泡が出てくるくらいが適切な温度だったっけ?

 と、少しばかり怪しいところもあったけれど、きつね色の衣が付いたカツが見事に完成。


 続けてカツうどん作りに移ります。

 冷凍うどんはレンジでチンできる状態にしておきまして。タマネギとニンジンはよく洗った後でスライサーを使って薄くカットして、小さめのフライパンに敷き詰めるように並べておく。

 その上に先ほど揚がったカツを置き、水に醤油と砂糖を溶かした特製たれ――一応、『OAW』で準備できそうなものだけを使うことにしてみたのです――をカツがひたひたになるくらいまで入れ、さらに溶き卵を半分だけ投入。

 卵は完成間近になってから残りの半分を入れると、ふわとろのものができるのだそうだ。今回はそんなネット情報に従ってみることにする。


 フライパンを火にかけると同時に、うどんの解凍調理開始。電子レンジ君、頑張ってくれたまえ。

 薄くしてあるので野菜に火が通るのもあっという間だ。一煮立ちしてカツにたれの味がしみ込んだのを見計らって、残りの卵を入れて最終加熱。まあ、卵が固くならないようにすぐに止めるんだけど。


 そうこうしている間に電子レンジ君の奮闘も終わり、うどんの方もでき上がる。

 手早く器に入れて……、しまった!出汁を作るのを忘れてた!?仕方がない、今回は市販の出汁醤油を薄めて使うことにしましょう。

 カツの方が濃い目の味付けになっているので、こちらは薄めを心がける。健康は日常の積み重ねなのです。


 うどんの上にフライパンの中身をのせてやれば……。

 テッテレー!カツうどんの完成!

 あ、薬味はお好みでどうぞ。


「それでは、いざ、実食!いただきます」


 トロトロ卵に包まれたカツを掴み、はむりと頬張る。


「んー!おいひい!」


 思った以上の味でちょっとビックリ。でもやっぱり、ちょっとばかり味が濃い目になったかな。運動をした後とかなら体から塩分が抜けているのでちょうど良いかもしれない。

 ちゅるちゅるとうどんをすすり、タマネギとニンジンの野菜コンビをパクリ。優しい甘味が心地よいです。


「カツうどんにするなら、出汁醤油じゃなくて乾物から取れる出汁だけで十分かもね」


 きっちりと課題点も見つかったことだし、思い付きで挑戦してみた一発目としてはそれなりな出来となったように思える。

 今度里っちゃんや、機会があれば雪ちゃんにも作ってあげようかな、なんてことを考えながらお昼ご飯を堪能したのでした。


 追記。お腹がいっぱいになったあとの片付けって、どうしてこんなに面倒なのでせうか?




 リアルでの挑戦が上手くいったことで、意気揚々と『OAW』の世界へと舞い戻ってきたボクだったのだけど、そこに待っていたのはベッドに突っ伏して「まだまだ拗ねているんだぞ」とアピールするエッ君と、おろおろとその周囲を歩き回るリーヴの姿だった。


 どうやらエッ君は、ソイソースの収納を任せてもらえなかったことを未だに根に持っているご様子。

 戦闘時のプチ暴走はともかく、普段は聞き分けの良い「いい子」だったから、リーヴにはこの展開は完全に予想外のことであり荷が重かったみたいだ。


 ここはマスターとしてボクの出番だろうね。片手を振って任せてと合図をすると、頷いて一歩下がっていく。

 仲間になってからまだ一日だということもあってか、その動きがまだまだ固い気がする。頷き方一つにしても、(うやうや)しいという感じなんだよね。

 まあ、徐々に慣れていってもらうとしよう。


 そして問題のエッ君です。


「エッ君」


 名前を呼びながら背中をポンポンと叩くと、「いやいや!」ともぞもぞ動く。


 うわ、めっちゃラブリー!


 だけど、それに合わせて尻尾もぶんぶんと振られたので、腕に当たって地味に痛いです。


「エッ君にはこの後で重要な任務を任せようと思っているんだよ。だから、元気出してくれないかな?」


 いやいやを止めてピクッと反応する卵ちゃん。


「今日買ってきた材料で新しいうどんを作ろうと思っているんだけど、エッ君にはその味見をして欲しいなあって――」


 最後まで僕の台詞を聞くことなくガバッと飛び起きたエッ君は、ベッドの弾力を使って一気に部屋の入り口にまでジャンプ!

 そして「早く早く!」と急かすように足踏みを始めていた。あっという間の変わり身アンド現金なその仕草に思わずくすりと笑ってしまう。


「はいはい。それじゃあ、厨房へ行こうか。……もちろんリーヴにも完成品の味見をしてもらうつもりだから」


 後半部分はリーヴにだけ聞こえるように小声でささやいておく。後に付いてくる全身鎧の足取りがどことなく弾んでいるように見えて、さらにほっこりするボクなのでした。


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