67 うどん販売拡大計画
ソイソースはボクの身長ほどもある大きな樽四個にもなった。
そりゃあ、ボーロさんが驚き、シュセン組合長が念を押してくるはずだよ。倉庫で現物を見た瞬間、乾いた笑いしか出てこなかった。
それでもボクたちにはアイテムボックスという超絶便利な機能がある。百キロを超えるような巨大なソイソースの樽も、あっという間に収納できてしまった。
まあ、収納したのはリーヴだけど。プレイヤーほどではないけれど、テイムモンスターにも多少の荷物が持てるようにアイテムボックスが支給されていたのだ。
エッ君も持ってはいるのだけど、この子は生まれたばかりということで玩具にしてしまいそうだったので、今回はリーヴにお願いしたのだった。
そのエッ君だけど、頼りにされなかったのが悔しかったのか、キャリーバッグの中で拗ねているんだぞアピールをしている真っ最中です。
だけど、そんな姿も可愛い。
「あ、そうそう。無理を聞いてくれた上におまけまでしてもらったから、一つ耳寄りな情報を教えちゃいますよ」
ソイソースを大量購入したということで、中濃ソースとウスターソースの分は無料にしてくれたのだ。
ソイソース四樽で金貨四枚にしかならなかったので、商業組合にはまだ二十六万デナーもの大金を預けていることになる。
「耳寄りな情報だと!」
いの一番に食いついてきたのは、同行していた三人の中でもボクとの付き合いが長いボッターさんだった。
「残る二つのソースですけど、屋台で売られている串焼きの肉に塩の代わりにつけてみてください。きっと美味しいと思いますよ」
「串焼きの肉に!?そんな簡単なことでいいのですかな!?」
「シンプルな方がソースの味が引き立ちますから。好みがあるのでどっちのソースが美味しいと感じるかは人それぞれだと思いますけどね」
「よし、ボーロ!さっそく串焼きを十本ほど買って来てくれ!」
「わ、分かりました!」
ボッターさんに指示されて急いで倉庫を飛び出していくボーロさん。お偉いさん二人になったところで再び彼らの方へと向き直った。
「ソース類ですけど、定期購入できるように努めてもらえませんか?」
「リュカリュカさんはそれほど売れるものになるとお考えなのですな?」
「はい。ボクの狙い通りいけば、間違いなく」
「何か妙案があるのか?」
その問い掛けにコクリと頷く。
「お二人なら秘密を漏らすことはないと思うので、あらかじめ計画を話しておきます」
と前置きして話し始めたのは、うどんについてだった。
実は前々からうどんを取り扱いたいという相談やお願いがきているという話を料理長さんから聞かされていたのだ。
そのお願いしてきた相手というのが、クンビーラの街にある宿屋や料理店だった。
「ライバル関係だが、だからこそ持ちつもたれつな部分があるからな」
「そうさね。孤立してしまうようなことにはなりたくないねえ」
とは料理長さんと女将さんの弁です。『猟犬のあくび亭』でうどんを販売し始めてから半月くらいとなったので、そろそろその要望に応えてもいいんじゃないか、という流れになっており、今回ソイソースや様々な乾物が手に入ったから、これを機に『猟犬のあくび亭』も加入している『宿・料理店連盟』に正式なうどんとして公開してはどうかと考えたのだ。
はい、仰々しく説明したけど、半分くらいはつい先ほど思い付いたことでした!
ちなみに、クンビーラでは『宿・料理店連盟』は『商業組合』に属している下部組織の一つという扱いだ。
とはいえ、ほとんど独立しているようなもので、リアルで例えるなら『商業組合』というグループ企業の中の、『宿・料理店連盟』という一つの会社だというところかな。
そしてこうした細かな組織編成については、それぞれの街で異なっているのだそうだ。
「……その、新しいうどんのスープのベースになっているのがソイソースなのか」
「そういうことです。あ、心配しなくても売りつけるつもりはありませんから。今回に限っては買い取った内の三樽を提供するつもりです」
「んなっ!?金貨三枚をしたものを放出するって言うのか!?」
「元々公主様から無理矢理押し付けられたようなお金ですからね。それなら街のためになりそうなことに使ってもいいんじゃないかと思って」
あぶく銭をさっさと減らしたいというのが本心だけど、まあ、格好つけるくらいはしてもいいでしょ。
「組合長、こりゃあ俺たちの方でも何かやらないと、不味いんじゃないですかい?」
「そうですね……。最悪、互助組織としての名目を忘れて私腹を肥やしていると槍玉にあげられるかもしれませんな」
「それなら屋台の方をなんとかしてもらえませんか」
と、ボクが口出ししたのにはそれなりの理由があったのです。
自由交易都市と名乗っているだけあって、クンビーラには各地の商人やその護衛の冒険者等々多くの人たちが訪れている。
その地位を守っているのが、たくさんの品物が集まる巨大な市場と、訪れた人たちを受け入れる施設の数々だ。支配者である公主一族はそのことをよく理解していて、その品質確保のために手厚い保護を行ってきたという歴史があるのだ。
そのためか、クンビーラで宿屋や料理店を開く場合には、必ず『宿・料理店連盟』に加入しなくてはいけないという決まりがあった。
他店舗でのうどんの取り扱いに対して、ボクがそれほど不安に感じていないのはそういう事情もあったからだ。『宿・料理店連盟』を通せば、仲間外れになる店はでないし、そこで得られた資金が裏社会へと流れることは基本的にはない。
対して屋台の方はと言うと、こちらは「どうしてそうなった!?」と言いたくなるほど管理がざるの酷い状態だった。
極端な話、屋台という入れ物さえ準備できれば誰でも店を開くことができたのだ。つまり、裏稼業の連中の資金稼ぎの場としても利用されていたという訳。
ブラックドラゴンの一件から、騎士団と衛兵部隊によってスラム街が叩き潰されたけれど、裏社会の壊滅までには至っていない。
「最終目標としては『宿・料理店連盟』と同じように、全ての屋台の存在を管理できるようにすることですか」
「そうすることで裏の連中の介入を防ぐ、ということだな。上手く事が運べば俺たちにとっても利がある。……だが、これは一筋縄じゃ行かねえ大工事になるぞ」
「どうやって進めるかは商業組合にお任せします。でも、どうせなら騎士団や衛兵部隊、冒険者協会も巻き込んでしまうのも手だと思いますよ」
頑張って住み良い街作りに貢献してくださいな。




