667 月曜日が初日だと一週間が長いです
リアル回です。
久しぶりの教室はだらけた空気が漂っていた。
冬休みが明けて初日だからねえ。不規則な生活を送ってしまっていた人たちは、生活リズムが戻っていないのだろう。
しかも月曜日ということで、次のお休みまでは今日を含めて五日間もある。
ただでさえ『怠惰アンド無気力連合』による猛攻撃?でその数を減らしている『やる気勢力』が壊滅の危機を迎えてしまうのも無理からぬカレンダー並びだった。
あ、授業時間の確保のためとかで、当然のように今日から既に平常通りの時間割となっておりますですよ。
まあ、下手に騒いで上級生からにらまれるよりはマシかもね。何せ季節は冬、受験シーズンのど真ん中なのだから。
推薦などで早々に決まった一部を除いては、これからがまさしく勝負の時となる。学校全体としてはむしろピリピリとした緊張感漂う空気となっていた。
「優、おはよう」
「おはよー」
郷に入っては郷に従え、クラスの弛緩した空気に合わせるように始業時間ギリギリになってやって来た雪っちゃんと、これまたのんびりとした調子で挨拶を交わす。
どうやら今日は部活の朝練はなかったもよう。以前自分で宣言していた通り、朝練がない日の彼女は「狙っているの?」とツッコみたくなるくらい遅刻寸前にやって来ることが多いのだった。
「毎回思うことだけど、時間を変えてよく起きられるね?」
「慣れれば何てことないわよ」
「うーん……。あまり慣れたくはないかなあ」
ボクはどちらかと言えばルーティーンで同じ時間に起きる性質なので、ころころと起床時間を変化させていては生活リズムそのものが崩れてしまう可能性が大なのだ。
それに、慣れるよりも先に確実に遅刻常習犯になってしまいそうだし。
「優は遅刻するような時間まで寝ていることがない反面、早起きも苦手だものね」
と、生温かい目を向けてくる雪っちゃん。中学時代、彼女や里っちゃんが所属していた生徒会のお手伝いをするために学校行事があるたびに頑張って早起きをしていたのだが、普段起床する時間まではどうにも調子が出ずに、文字通りただ居るだけの存在となってしまっていた。
「え?三峰さんって朝が弱いの?」
「意外だー」と言いながら近くにいたクラスメイトたち――もちろん女子ですが何か?――がボクたちの会話に割り込んでくる。
それに合わせるかのように、少し離れた場所で聞き耳を立てていたらしいクラスメイトたち――当然女子ですが何か?――も近寄って来ていた。
「朝に弱いというより、いつもは起きていない時間帯だと目覚めきっていないという感じかしら。その分本調子に戻ってからは、こっちが圧倒されるくらいとんでもない勢いになるのよね」
いや、役に立たなかった時間の分を取り戻そうとしていただけなんですが……。わざわざ手伝いに来ておいて、お荷物になるだけだなんて言語道断でしょう。
それ以前に、
「雪っちゃんは話を盛り過ぎ。私はただ役員の人たちの指示に従っていただけだよ」
「最初はそうかもしれないけど、途中からはいつも先回りするように動いていたじゃないの。指示するよりも先に「あれをやっておいた方がいい?」とか「これの準備をしておこうか?」とか言って確認してくるから、体育祭実行委員の子や文化祭実行委員の子たちが「自分たちよりも手順を理解してる……」って凹んでいたのよ」
「ちょっと待って!?なにそれ、初耳なんですけど!?」
確かに気になったことを尋ねたりはしていたけれど、誰も彼も「お願いします」とか「よろしく!」と元気に答えてくれて、困っていた様子などはなかったはずなのに。
後、クラスメイトの皆が「納得した」という表情で頷いているのはどうして?
「仕事上のことだって分かっていても、三峰さんから声をかけられたらテンション上がっちゃうかも」
え?ボクが呼び掛けたくらいでどうしてテンションが上がるの?
「で、いいところを見せようと張り切ったまでは良かったけど、肝心の三峰さんがあっという間に全部終わらせて仕事がなくなってしまう、と」
だって、そのために朝早くから眠い目をこすりながら登校した訳ですし?
「うわー……。やる気になっていただけにダメージが大きそう……」
まだ本番すら始まっていない準備段階の話だよね?
その後でいくらでも力を発揮する機会はあったと思うのですが?
「でも、優がいて助かったのは本当よ。里香は生徒会長の立場上どうしても本番の打ち合わせに、先生たちに取られてしまっていたから。全体の流れや必要事項を理解していて、その上どこにでも自由に動き回れるこの子がいたからこそ、毎度余裕をもって準備を終えることができていたのよ」
「そういえばうちらの去年の文化祭の準備の時も、人手が欲しいと思ってたらいつの間にか三峰さんが来てくれてたっけ」
看板などの大物を運んだり持ち上げたりするときには、どうしても人手が必要になるからね。
基本的にクラスの出し物に乗り気な子たちばかりだったので、それぞれの担当分は各自がしっかり準備していた。
だけどその一方で、部活の出し物の準備に駆り出されてしまい飾り付けなどに参加できる人数が少ない時期もあったのだ。
「優は本当にそういう所を探り出す嗅覚が鋭いわよね」
「嗅覚て……。雪っちゃん、人を犬のように言わないでよ。というか、クラスメイトなんだから困っていたら助けるのが当たり前でしょう」
「はうっ!?」
「ひぐっ!?」
「ふわっ!?」
「へにょっ!?」
「ほ、ほほう?」
ボクの言葉に胸を押さえて蹲るクラスメイトたち。知らない間に何かを撃ち抜いてしまった?
あ!こらこら、女の子なんだから床に座っちゃいけません!
それにしても皆ノリが良過ぎじゃないかな?それと最後の人、無理して合わせたりしなくていいから。
「ほ、星さん。三峰さんのあれ、狙ってやっていたりは――」
「しないわよ。完全に本気で本音よ」
「だよねー……」
「まあ、誰彼構わず親切にするような頭の中がお花畑じゃないから安心して」
なにやらコソコソと話している雪っちゃんたちの方から聞こえてくる言葉に、失敬なものが多く含まれている気がする。
結局、この日は授業の合間や昼休みの時間ですらも、雪っちゃんがボクの中学時代のあれやこれやについて話す、ということが繰り広げられたのだった。
骨休め羽休め箸休めな一話だけの閑話的なお話でした。




