666 ジェミニ領終了のお知らせ
お、おおお……。獣のやr、ではなく獣の数字ですね。
700話、777話と続けていけるように頑張ります。
ブラックドラゴンが本気になったら、どれだけの被害が発生するのか?
直接相対する機会があった――全然嬉しくないけれどね!――ボクでも読み切れない、というのが本当のところだ。
まあ、ニミの街と国境の関所が灰燼に帰すのは決定事項だろうね。
後は領都のジェミを始めとした都市や町がどうなるかだね。
クンビーラの守護竜になって以降、間近で観察することができるようになったこともあってか、彼の人間に対する悪感情は薄れてきていたように思う。
とはいえ、それはなくなった訳ではない。何かの拍子で強く嫌悪するようなことでもあれば、それまでの反動もあって簡単に爆発してしまうのではないかな。いわゆる持ち上げてから叩き落された状態になるため、より一層落差が大きくなってしまうのだ。
こうなってしまうと、生半可な制止では止まることはないだろう。あの時ですらエッ君からの手痛い攻撃を二発も受けることでようやく少しは落ち着きを取り戻したのだからね。
話を戻すと、止められない止まらないとなれば、当然気が済むまで疲れ果てるまで暴れまわるはずだ。そうなると一番に狙われるのは人が多く住んでいる都市や町ということに……。
「目についた規模の大きな都市や町は軒並み破壊されることになるんじゃないかな」
執拗に狩って回るようなことがなければ生き残ることができる人がいるかもしれないが、生活基盤がことごとく破壊されている状態となるため、端的に言ってジェミニ領は終了だわね。
淡々と未来予想を告げると、ロナード代官を始めあちら側の人たちは青ざめるを通り越して血の気が完全に引いた真っ白な顔になってしまっていた。死相が浮かんでいると言われたら、即座に信じてしまえそうだわ。
まあ、ミルファやネイトですら取り繕えずに顔をしかめていたくらいだ。近い未来にそれが降りかかるかもしれない側からすれば、絶望してしまってもおかしくはないかな。
ただ、これ、あくまでもブラックドラゴンが一体だけで報復に出た場合の話なのよね。仮に『竜の里』にいる同族に助けを依頼し、ドラゴンたちがそれに応えてしまったとしたら……。
正直に言って想像もしたくない結末になってしまうことだけは間違いないだろう。
本格的にロナード代官たちの息の根を止めてしまいかねないので、これに関してはお口チャックしてボクの心の内に留めておくことにしますです。
「えーと、以上でブラックドラゴンを敵に回すことの危険性についても理解してもらえたと思います」
「……ああ。下手な手出しをしたら最後、我々に生き延びる道はなくなってしまうのだと痛感させられた。クンビーラが君たち冒険者に依頼して、さらには商人たちまでも巻き込んで警告に動くのも当然だな」
「それじゃあ……?」
「うむ。この街でブラックドラゴンについての話を広めることを許可しよう。また、他の街や村でも咎められることがないよう、早急にジェミニ侯爵に許可を出していただけるように進言しておく」
おお!つまり領主を始め土地の権力者からのお墨付きを貰えることになるね。その分信用度は段違いで高くなるから、これでエルの計画は成功したも同然と言える。
勝ったな!
「だが、いくら我らが信じたとしても、肝心のタカ派の連中までもがそれに倣うとかどうかは別問題だぞ」
なんですと!?
「言っては何だが、あやつらは自分たちに都合のいいことにしか耳を傾けようとはしないからな。加えてそれを煽って後押しをしている者どもがいるかもしれないとなれば、腰抜けの戯言だと一蹴してしまうかもしれない」
……確かにその展開はすっごくあり得そうだ。でもさ、
「それをどうにかして抑え込むのは、『水卿公国』のお仕事だと思うのだけど?」
はっきり言って、そこまでおんぶに抱っこで面倒を見てはいられない。
「それこそ越権行為もよいところですわね」
「ミルファもいますし、わたしたちが動く方がクンビーラからの侵略だと口実を与えてしまいそうです」
確かに、ネイトが言うような心配事項もあるね。タカ派を止めるどころか、逆に爆走のきっかけを作ってしまったとなれば、エルに何を言われるか分かったものじゃないよ。
「という訳ですから、あとはそちらで何とかしてください」
「ぬ……、そうか。そうだな」
自分たちに都合がよすぎる話だと思い直したのか、それともそこまで頼っては矜持が廃ると感じたのか、いずれにしてもボクたちが先頭に立つような真似はしないと表明すると、すぐにそのことを認めてくれたのだった。
そうして長かったロナード代官との対談も終わり、しばらくはジェミニ領の領都へと滞在するつもりであることを伝えてから、ボクたちは行政区前の中央広場へと戻ってきていた。
「その様子だと無事だったようだな」
盛大な溜息を吐きながら近付いてきたのは、ボクたちが護衛を担当している商人のボッターさんだ。
いやはや、随分と心配をさせてしまっていたみたい。
「御覧の通り、なにもされていないよ。エッ君たちのことも何も聞かれていないから安心して」
「ですが、まったく問題なしとも言い難いですわよ」
「ですが、全てあちらの事情です。あの場でも言いましたが、下手にわたしたちがしゃしゃり出てしまえば、格好の標的として扱われてしまいますよ」
ボクの言葉に続いて、ミルファとネイトが対談の感想を呟き始める。
「はいはい、二人ともそこまでね。さすがにこんな場所で話すことじゃないよ。後は宿に戻ってからにしよう」
あちらの密偵さんだとか、どちらの怪しい人だとかには聞かれてしまう可能性があるが、それでも誰に聞かれているかも分からない広場のど真ん中で話していい内容ではない。
「宿に戻るのはいいが、食料なんかは買えたのか?」
「あ……!まだ、です……」
良さそうな店を探すために市場を一回りしてみようとしていたところで、警備兵団の人たちに捕まってしまったのだ。
結局、すでに商談を終わらせていたボッターさんも一緒に市場へと戻ることになった。不幸中の幸いで、いくつかの店に目星は付けていたので買い物はあっさりと完了することができた。
「いやいや、これが当たり前なんだぞ。単なる買い出しで騒動に巻き込まれている嬢ちゃんたちがおかしいんだからな」
その通りではあるのだけれど、望んでそうなっているのでもないのだから、もう少し言葉は選んで欲しいと思いました、まる。
不吉な数にちなんで不吉なサブタイトルをつけてみましたが、まあ、中身はいつもと同じです。




