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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十一章 『水卿エリア』での冒険

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665 ブラックドラゴンの強さはチート級です

 市場で子どもをけしかけた謎の第三者は、タカ派との繋がりがあるやつかもしれなかった。しかも、ボクたちと因縁のあるローブ姿の人物たちと非常に似通っている外見だということも判明。

 厄介ごとの予感がひしひしとしますですよ……。


「十中八九この一連の動きの黒幕、ですわよね?」


 ミルファの呟きが疑問形だったのは、『土卿エリア』と『火卿エリア』での経験を元にしたものだからだ。つまり、ボクたちならではの判断という事になる。


「わたしもそう思います。もっとも、これ以外にも我々の知らない一派がいて、陰に日向に動き回っているのかもしれませんが」


 ミルファの意見を肯定しつつも、ネイトが別の可能性について触れる。その言葉に釣られるようにしてロナード代官を見たところ、彼は何食わぬ顔で手元の資料に目を落としていた。

 まあ、彼の立場からすれば他国の人間であるボクたちに国内の勢力を詳しく説明することはできないだろうからね。「沈黙は金」という言葉もあることだし、黙秘するのは当然か。


 だけど一方で、「沈黙は――消極的な――肯定とみなす」という慣習がリアルニポンにはあるのだ。「的を射ているから反論できないのだろう?」ということだね。

 そして『OAW』にもこうした慣習は受け継がれていた。


強硬(タカ)派に穏健(ハト)派とくれば、中立派がいるのが定番かな。その中でも日和見でどっちつかずな風見鶏な人たちと、中央集権を強化しようと目論んでいる大公派の二つがあると考えておけば、当たらずとも遠からずだと思うよ」


 ジェミニ領なんて、他国と接している上に流通の最先端の街を有するという『水卿公国アキューエリオス』の重要拠点だ。領主であるジェミニ侯爵は、当然トップの大公とは近しく親しい間柄だと思われます。


「穏健派に近いと言っていたけど、正確には大公派に属していて、穏健派との橋渡しやタカ派の監視とかを任されていると見たね」


 さて、真実はいかに!?


 立て続けに意見を述べたボクに、ロナード代官は取り繕うこともせずに「信じられない」という顔を向けていた。


 あ、ヤバいです。これはちょっとばかり薬が効き過ぎてしまったようだ。

 このままだと内情を探りに来たスパイだと勘違いされかねない。


「そ、それじゃあ今度はこちらの事情を話しておくよ」


 慌てて話題を変更して、ブラックドラゴンがクンビーラの守護竜となったいきさつを話して聞かせたのだった。


 余談ですが、卵だったエッ君が『竜の里』から(さら)われた事件には、『武闘都市ヴァジュラ』の闘技場を取り仕切っているバドリクなる人物がかかわっていたことが、エルの活躍によって既に突き止められていたりする。


 さらには実行犯の特定も終わっているらしいのだけれど、いざというときの報復理由として利用するために泳がせているそうだ。

 ただし、再び『竜の里』に手出しをしようとしていることが判明した場合は、即座にブラックドラゴンによる復讐と制裁が行われる手はずとなっているのだとか。


 さすがにこのことはロナード代官たちに話すことはできないので、内緒にしておいてね。


「こういった具合で、クンビーラの守護竜としてブラックドラゴンが街の外に居つくことになりました。……どうです?ボクの勝手な想像ですけど、そちらの優秀な部下からの報告にあった通りだと思うんですけど?」

「……ああ。まったくその通りだった」


 頭を押さえながら(うめ)くような調子でロナード代官が言う。

 これは、あれかな?部下たちを信用していてその報告に嘘はないと理解していながらも、しかし心のどこかで否定する思いがくすぶっており、素直に認めることができなかったのかな。


「まあ、ドラゴンですから……。話を聞いたり報告を読んだりしただけでは信用しきれないのも無理はありませんよ」

「遠目に見たというだけでも大騒ぎになってしまうものが、街のすぐ横に、しかも友好的な態度で居座っていると言われても、おとぎ話か妄想の産物だと鼻で笑われるのがオチですわね」


 クンビーラの人たちにとっては、街を囲む壁の外にブラックドラゴンが見えるのが当たり前の光景になっているみたいだけれどね。

 人間の順応力って凄いわ。


「……一つ聞きたい。人の身で彼のドラゴンと相対したとして、生き残ることはできるだろうか?」


 うわー……。「勝つ」ではなく「生き残る」と問うてきたことで、彼が最悪の状況を想定しているのだと分かる。


「旅の最中に偶然クシア高司祭とお会いして、直接お話をする機会に恵まれたんですけど、あの方が言うには「十万の兵と一緒でも戦いたくはない」そうです。一万人くらいならなす術なく文字通り全滅してしまうんじゃないかな」

「まさか、それほどなのか!?」

「それほどですねー」


 ディラン(おじいちゃん)並みの実力者が十人以上いて、その全員が足止めと時間稼ぎに徹したならば、一割の千人くらいは生き残ることができるかもしれない。


「一等級の中でも最上クラスの冒険者を十人犠牲にしてもその程度なのか……」


 そこまで圧倒的な差があるとは思っていなかったのか、ロナード代官が頭を抱える。

 また、途中までは眉唾物だという雰囲気を醸し出していた護衛の二人も、超が付くほどの有名人たちの名前を出したことで真実だと理解したのか、無表情を貫きながらも一目で分かるくらいに顔色を悪くしていた。


 しっかりと報告を受け取っていたはずの代官でさえこれなのだから、自分たちの都合のいいことしか見聞きできない脳内お花畑の連中であれば、嘘やハッタリだと断定していてもおかしくはなさそうだ。


「ああ、そうそう。攻め込んでも勝てないのなら、おびき寄せて罠に掛ければいいと考えているかもしれませんけど、止めた方がいいですよ」


 ボクにやり込められた経験からか、ブラックドラゴンは先手必勝とばかりにあらぬ方向にブレス攻撃を撃ち込んで力の差を見せつけ、精神的に圧倒的優位に立つという作戦を編み出しているからだ。

 幸いなことに実戦投入されたことはないが、街一つを消し飛ばしてしまえるだけの威力を持っているのだ。運悪く巻き込まれる人や物がないとは言い切れない。


「よしんば上手くいったとしても、怒り狂ったブラックドラゴンに罠は破壊され、付近の人も街も全てが火の海に沈むことになると思いますよ」


 それで怒りを鎮めてくれればいいが、最悪主要都市が軒並み壊滅させられる、なんて展開だってあり得る。

 くれぐれも安易な手段に出るのは控えてもらいたいね。


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