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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ

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653 ズルは最終的に自分の首を絞める

 情報を軽んじた結果、クンビーラへと侵攻してきてブラックドラゴンに返り討ちにあう。これが今のところ最も起きる確率の高い未来だというのだから、『水卿公国アキューエリオス』も実は結構危険な状況にあるのではないだろうか。

 アンクゥワー大陸にある三つの大国の中でも最も安定していると言われている国ですらこれなのだからねえ。

 プレイヤーが活躍しやすい下地である必要があるのは理解できるけれど、知らずに巻き込まれるNPCの人々からすればたまったものではないだろう。


「命令に逆らえない状態でブラックドラゴンと戦わされるだなんて、想像するだけでもおっかないね……。さすがにそんなことになったら寝覚めが悪そうだから、できる限りのことはやってみるよ」


 という訳で、エルからの要望に応えて『水卿公国』へと向かうことになるのだった。上手くいけば穏健派に恩を売ることもできるかもしれない。


「ふむ。それなら護衛の依頼を受けておくんだ。その方が怪しまれ難いだろうからな」


 冒険者は戦う力を持っている。だから単独でふらりと立ち寄ると、相手によっては警戒されてしまうこともあるらしい。そのため、移動の際にはできるだけ護衛などの依頼を受けておくと、そうした目から逃れやすくなるのだとか。


「何より、依頼を受けておいた方が道中の宿代とかが安く上がることになる」


 宿泊費用の一割から三割を依頼側が負担するのが一般的らしいです。

 もっとも、おじいちゃんたちほど有名人になると、全額向こう負担ということもあったみたい。魔物よりも野盗など人間への対策が必要な場所では、名の知れた冒険者が護衛にいるだけで十分盗賊よけになるからね。


 一方で、その恩恵にタダであやかろうと、無断で有名冒険者が護衛についている集団に付いていくような行商人たちもいる。

 しかし、賊の中にはしっかり下調べをしている者や鼻の効く者たちがいて、誰が金をケチったコバンザメなのか見極められてしまっていることも多いのだそうだ。


 リアルでもそうなのだけれど、犯罪で稼げている人たちはその努力の方向を変えれば、真っ当な方面でも十分にやって行けそうに思えるのですがねえ……。

 才能の無駄遣いに見えてしまって、もったいないったら。


 まあ、人それぞれ理由があるのかもしれないので、これ以上は突っ込まないけれど。

 ほら、特に創作ものの中では不幸な生い立ちを背負っていたり、誰かの悪意に巻き込まれた過去があったりというのが定番ですから。


 襲う側の考察はこれくらいにして。虎の威を借る狐なコバンザメ行為はそんな連中に狙われってしまうこともままあるため、最終的には損をすることが多い。

 損だけで済むのか?と不思議に思う人もいるかもしれないけれど、悪知恵が働くと言いますか、襲う相手を見極められるほどの盗賊団ともなると、「自分たちの縄張りを行商人たちが通ってこそ己の生活が維持できるのだ」と思い至るようで。

 つまり、命だけは見逃されることも多いのだった。


 ちなみに、コバンザメ行為をして襲われた人を助けるかどうかは、依頼主の意向と冒険者の力量による、としか言えない。リアルとは違って量を質で覆すことができる世界ではあるけれど、何事にも限度というものは存在するからね。

 あと、『冒険者協会』側としては、コバンザメ行為は違反事項として周知しているので「助ける余裕があるくらいなら依頼主を連れて安全圏まで逃げろ!」という方針だったりします。


「それを踏まえた上で助けてやって、大量の報酬をぶんどってやったこともあるけどな!」


 ガハハとおじいちゃんは豪快に笑っていたが、恩を高値で押し売るとか、それってグレーゾーン真っ只中で違法ラインぎりぎりの行為ですよね!?

 そこの協会職員(デュラン)さん、「そんなこともあったなあ」とか昔を懐かしんでいないで、ちゃんと注意しましょう?

 これはもう最後のお一方に希望を託すしかない!


「皆やることは同じだねえ。まあ、ああいうやつらにはお灸をすえるって意味でもしっかり思い知らしといたほうがいいからねえ」

「ダメだ、おばあちゃんもあっち側の人間だった……」


 ある意味予定調和な反応に、ボクはガックリと肩を落とした。

 しかも今の台詞からすると、確実に同じことをやったことがあるよね!?これが二つ名持ちの高等級冒険者の実際の姿とは……。知られればショックで幻滅してしまう人も出てくるのではないだろうか?


「冒険者としてかくあるべきという行動ですわ!やはり『泣く鬼も張り倒す』の名は伊達ではありませんわね」

「不義理を行っていた者たちに道理を諭すなんて、お師匠様もさすがです!」


 あっれー?なせだかうちのパーティーメンバーの二人はキラッキラした目でおじいちゃんたちを見ているのですが?


「高等級冒険者のたしなみっちゅうやつやろうな」


 エルに至っては「分かってます」というしたり顔で頷いているし。認識の違いって怖いわ。


「さて、そういうことなら冒険者協会クンビーラ支部としてもやれることはありそうだね」


 ひとしきり昔を懐かしんだ後、デュラン支部長がそう切り出した。


「クンビーラ支部としてやれること?」

「リュカリュカたちと同じように、『アキューエリオス』へと向かう冒険者たちにブラックドラゴン様のことを向こうで話してもらう。まあ、大して難しいことでもないから、小遣い程度の金額しか渡すことはできないだろうがね。それでも上の連中の耳に入る機会は増えるはずだ」


 やって来る冒険者がそろいもそろって同じ話題を口にしていれば、訝しんだり怪しんだりはするだろう。

 それでも頑なに嘘だと断定するような相手はどうしようもないけれど、同時に再調査する時間を稼ぐといった穏健派への後押しにもつながるように思う。

 こうして、ボクたち以外にも数組の冒険者パーティーが支部長からの密命を受けて、『水卿公国』内で「クンビーラにブラックドラゴンは実在している!」という情報を垂れ流すことになるのだった。



 そして翌日、護衛の依頼主と顔を合わせることになったのだが、


「それにしても、ボクたちに護衛を依頼してきたのがボッターさんだとはね。クンビーラ『商業組合』の副組合長だとか言ってたのにフットワーク軽くない?それとももしかして暇なの?」

「暇な訳があるか!嬢ちゃんが絡んでいるらしいってんで俺に押し付けられたんだよ!」


 あら、そうだったのね。

 ……というか、押し付けるとかボクの扱いがひどくない?


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