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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第六章 美味しい仕返し

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65 久方ぶりの再会

「それで、嬢ちゃんは一体何の用があってここへ?まあ、組合員なんだから立ち寄るのに問題はないんだけどよ」

「それに答える前にこちらからも質問。どうしてボッターさんがそのことを知っているの?」


 その回答次第では、商業組合を見限らなくちゃいけなくなるだろう。なぜならボクが商業組合への加入手続きを行った時には、彼はその場にいなかったからだ。

 つまり個人情報の取り扱いがざるの可能性があったという訳。


「ああっと、すまねえ。(いぶか)しがらせてしまったな。実は俺はクンビーラの商業組合の幹部扱いなんだよ。だから将来有望だと思われるやつや、動向に注意が必要そうなやつが加入した時には通達があるって訳だ」


 ボクは間違いなく後者に該当しているんだろうね。


「何なら、受付で確認してもらってもいいぞ?」

「それには及ばないかな。ここで嘘を吐いてもボッターさんに利点はなさそうですし。それに、もしも組織ぐるみの場合なら、それこそどうとでも誤魔化されちゃいますからね」

「冒険者協会での顛末も聞かされてる身からすれば、絶対にそれだけはないと言っておくぜ」


 冒険者と同等、いやそれ以上に商人にとって信用は重要なものだからね。

 加えて、先ほどボッターさんが言っていたように、大変不本意ながら街の人たちの噂の種になってしまっているのは事実だ。人の口に戸は立てられないとも言うし、ある程度の情報流出は仕方がないのかもしれない。


 それならどうしてわざわざ尋ねたのかと言えば、無碍に扱われないように釘を刺すという意味合いがあったからだ。

 脅し?ノンノン。相手は百戦錬磨の商人さんたちですよ、このくらいでは警告が精々といったところだろうね。実際目の前に座っているボッターさんも、慌てた様子は一切見受けられないし。


「じゃあ、今の話はここまでということで」

「そうしてもらえるとありがたい。……しかし、本題に入る前にここまで疲れさせられたのは、随分と久しぶりだぜ」


 ふう、と大きく息を吐きながら背もたれへと体を預けるボッターさん。

 だけど疲れたふりをするなら、目を(つむ)るなりしてその鋭い眼光を隠すべきだと思うな。


「さすがはブラックドラゴンを話術だけでやり込めただけのことはあるな」


 ほら、すぐさま切れ味鋭い反撃が飛んでくる。

 それに対してボクは、さっきまでとは違って曖昧な笑みを浮かべるだけにとどめた。ブラックドラゴンの襲来というまずもってあり得ない出来事のため、クンビーラの支配者である公主様は事のあらましを可能な限り細かく、そして分かり易く町の人たちに通達していたのだ。

 そのため、ボクがブラックドラゴンをやり込めた方法については広く知られていたのでした。


 何より、つい先ほど終わりを宣言しちゃったので、再び長々と言い合うような事はできないという事情もあった。追い詰められていると見せかけながら、こっそりとそういう状況へと誘導しているんだから、全く商人という人たちは油断も隙もあったものじゃないよ。

 こういう時はさっさと話題を変更するのに限るね。


「それで、今日ボクが商業組合にやって来た理由なんですけど、ちょっと変わった調味料を探しているんですよ」

「変わった調味料だと?」


 ニヤリ。ボッターさんの顔つきが変わったね。どうやら調味料などは『OAW』でも儲けの種になるようだ。

 事の真偽はともかく、リアルでも胡椒が同じ重さの金と取引されていた、というのは有名な話だからね。商業組合であれば食い付いてくるだろうという予想は的中したという訳だ。


「ええ。市場に出ていないか、出ていてもとても取り扱う量が少ない物になると思います」


 完全にないと言わなかったのは、隅から隅まで歩き回った訳ではないから。加えてかなりの人で賑わっていたかので見落としがあってもおかしくはない。

 むしろそういう見落としている所にあってくれれば、話は早いのだけど。


「醤油って言うんですけど、聞いたことありませんか?」

「ショーユ?……いや、残念だが、俺は聞いたことがないな。そいつは一体どんな代物なんだ?」

「黒くて、ほとんど粘度のないしゃばしゃばした液体状の物です。味として一番強く感じるのは塩辛さ、かな?匂いの方は……、ごめんなさい、適当なものが思い付かないや」

「ふむふむ。塩辛くて黒い液体状なのか……。おや?どこかで聞いたことのある特徴だな」

「そうなの!?って危ない!」


 ボッターさんの呟きに、思わず身を乗り出してしまう。それに驚いたエッ君が飛び上がってしまい、机の上から落ちそうになってしまったけど、いち早く反応した小さな騎士様の手によってすんでのところで確保されたのだった。


「ふへー……。あ、リーヴ、ありがとね」


 エッ君に代わってお礼を述べると、「問題ない」と言わんばかりに頭?の兜を軽く振るリーヴ。おおう、紳士(ジェントルマン)だ……。

 あ、元になったアリシア様は女性だったので、リーヴの性別はいまだ不明という状態なんだよね。まあ、性別不肖という点ではエッ君もどっこいどっこいなんだけど。

 正式な名前は性別がはっきり分かってからにしようと心に決めたボクなのでした。


 そんな一連のドタバタを前にしていたのに、ボッターさんは何事もなかったかのように考え事を続けていた。この辺の微妙な動きが『OAW』のNPCは「まだまだ人工知能っぽい」とか「機械臭さが抜けていない」とか言われている所以(ゆえん)だ。

 まあ、プレイヤーの数だけ世界があるってことになるから、どうしても対応が遅れてしまうところはあるのだろうと思う。


「嬢ちゃんの言うその調味料、もしかするとソースの一種かもしれねえ」


 そして待つこと一分、衝撃の事実が語られた。


「ソース!?ソースってあのソースですか!?」

「お、落ち着け、嬢ちゃん!何言っているのか訳が分からなくなってるぞ!?」


 再び机の上へと身を乗り出すボクを、ボッターさんが慌てて抑える。さっきとは違って随分と人間臭い対応の仕方だ。

 まさか、この短い間で学習した?でもそれを反映するにはアップデートが必要なはずだから、これらの動きは既に組み込まれていたものなのかもしれない。


 ちなみに、ここでボクが口にしているソースとは狭義のもので、リアルニポンでの洋風調味料なアレのことです。


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