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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ

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648 手加減ってどうやるの?

 微妙に納得がいかない部分はあったものの、ミルファの補足によって事件が再発する可能性は極めて低い、という共通認識を持つに至った。

 とはいえ、これだけ大きな話題になったことで運営が悪乗りして関連のイベントを発生させてしまう危険がでてきたようにも思う。「異界に迷い込んでしまった子どもたちを救出しろ!」などというイベントが発生しないうちに、さっさと旅立っておく方が無難かもしれないです。

 問題が起きてからでは遅いのでその推測を伝えてみたところ、


「むむむ……。リュカリュカを起点として異界との繋がりができてしまったかもしれないということか」

「高司祭殿、そのようなことが本当に起こりえるのでしょうか?」

「さて、私も世界の全てのことを見聞きしてきた訳じゃないから、確かなことは言えないねえ。……ただ、リュカリュカ(この子)がおかしな連中や変わったものに好かれやすい性質であることは間違いなさそうではあるね」


 おかしな連中とはクンビーラ公主一族のことで、変わったものが二つ名持ちの高等級冒険者や高司祭ということですね、分かります。


「……不謹慎なことを考えている小童(こわっぱ)がいるみたいだね」


 ドスの効いたクシア高司祭(おばあちゃん)の低い声音に、慌てて明後日の方向へと目をそらしますです!

 ……やれやれ。この短期間で相当な経験を積んできたつもりになっていたけれど、彼らの積み重ねてきた年輪の厚みには到底かないそうもありませんよ。

 追いつくことはできなくても、せめてその背中を見失わないようにしないとなあ……。


「ともかく、気になるようなら出立を早めることもできるように、準備を進めておくことだね」


 まじめな調子のおばあちゃんの言葉に、こちらも神妙に頷き返す。

 結局のところ、それくらいのことしか対策らしい対策はないのだから。


「リュカリュカ、わたくし一つ気になっていることがありますの」


 しかし、そんな真剣な空気も長くは続かない。横合いからミルファがわくわくした様子で尋ねてきたのだ。


「なんとなく碌でもない内容のように思えるんだけど、まあ、いいや。聞きましょう」

「失礼ですわね。いたって真面目で大切なことですわよ。座敷童(あのこ)のお名前は何と言いますの?」


 ほら、やっぱり!

 いや、決してくだらないとは言わないけれど、今この場で尋ねなくてはいけない内容ではないよね!?


「うん?リュカリュカ、あの妖精、いや妖怪という呼び名だったかな。彼女に名前を付けるつもりなのかい?」


 ボクが答える前に割って入ってきたのは、デュラン支部長だった。そういえば彼もエルフだったのだよね。故郷の森を飛び出した変わり者という点ではエルたちと同じだけれど、長命種としての知識に加えて高等級冒険者としての経験を併せ持っているから、何か引っかかる点があったのかもしれない。


「正直なところ、今でも「座敷童ちゃん」で通じているので、こちらから名前を押し付けるつもりはないです」


 二人も三人も居たなら別だが、今のところ彼女一人だけだから種族名?である座敷童ちゃん呼びで通用している。

 特に困ったことがある訳でもないので当面はこのままのつもり、というか、ミルファに問われるまで名前を付けるという発想自体がなかった。


「それなら良かった。あくまで精霊や妖精で起きた事例なのだが、名前を付けることで存在がこちらの世界に固定されてしまうこともままあるらしいのでね。最終的に彼女を異界へと返すつもりであるならば、そのあたりのことは慎重に行うようにしなさい」


 デュランさんの言葉を聞いて、一瞬で青ざめるミルファ。


「わ、わたくし、決してそのようなつもりで言ったわけでは……」

「落ち着いてください。リュカリュカにそしてわたしも、ミルファがそんな人ではないと良く知っています。ただ、彼女と仲良くなりたかっただけなのですよね?」


 恐らくわざとなのだろう、ことさらゆっくりと穏やかな口調でネイトに問われ、ミルファは幼い子供のようにコクリと首を縦に振っていた。

 そんな二人のやり取りを、おばあちゃんが満足そうに目を細めて見つめていたのが印象的だった。彼女からすればネイトは孫弟子に当たるから、その成長が嬉しかったのかもしれないね。


「先ほどのリュカリュカの話にも出てきたが、こちらと異界では常識が違っているという場合も多々あるそうだから、これからは言動に気を付けるようにね」


 デュランさんもまた、年若い新米冒険者にでも言い聞かせるような調子で続けたのだった。


「おお……!デュランさんがいつになく冒険者協会の職員っぽく見える!」

「はっはっは。たまにはそれらしい発言をしておかないとねえ」


 決して仕事ができないということでもなければ、支部長らしくないということでもないのだけれどね。『泣く鬼も張り倒す』という超有名な冒険者の片割れとして名が通ってしまっているためか、協会の職員というよりは偉大な先達として見られてしまうことが多いのだ。

 そしてそれが、デュランさんにとって密かな悩みの種となっていたのだった。


「我らの側としては、聞いておかなくてはいけないことは全て聞き出せたか」


 公主様がそう切り出し、遠回しにこの緊急の集まりの解散を告げる。


「えーと、結果として皆さんに集まってもらうことになってしまってごめんなさいでした」


 それぞれの仕事や用事に割り込む形になったことには間違いがないので、その点に対しては謝罪いたしますですよ。


「うむ。……まあ、リュカリュカからしてみれば不可抗力な部分もままあるのだろうが、できればもう少し手加減してもらいたいところだな」


 苦笑しながら言う公主様に、こちらも苦笑いを返すしかない。イベントの発生頻度や方向性はアウラロウラさんを通じて運営に申し入れを行えば修正してもらえるとは思うのだけれど……。都合よく扱っているようで、どうにも後ろ暗く感じられてしまう。

 いや、正直に言ってしまおう。それに味を占めてしまい、不都合を一切許容できなくなってしまうのが怖いのだ。


 ボクは心の弱い人間だから。時として不条理や理不尽がまかり通ってしまうリアルから目を背けて、居心地のいいゲームの世界に入り浸ってしまう可能性だってある。


 ボクに『OAW(このゲーム)』を勧めた里っちゃんまでもが責任を問われるようなことに陥りそうな展開はノーサンキューなのです。


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