647 事件は対象を変えて再発するのか?
ミルファが座敷童ちゃんに陥落した後、ボクたちが案内されていた部屋には続々と人が集まってきていた。城内組には公主様と宰相さんに加えて、彼らの配下でクンビーラの裏の情報網を取りまとめているエルフの密偵のエルまでいる。
久しぶりに会ったはずなのだけれど、どこかで似たような人と一緒に行動をしていたことがあるので、あまり懐かしいという気はしないね。
一方、息せき切ってやってきた城下町組には、話の通り衛兵の誰かが伝えてくれたのだろう、冒険者協会の支部長を務めるデュランさんと一等級冒険者のディランだけでなく、そこからさらに伝令が飛ばされたのか、クシア高司祭にネイトもいたのだった。
ボクが捕獲されてしまった中央広場にある冒険者協会の建物とは異なり、ネイトたちが居たはずの七神教の神殿は南の広場にあるため、そこそこの距離があるはずなのですが……。全員がタイミングよく同時に集まってくると、少々奇妙に思えてしまうね。
まあ、長々と待たされても困るので、こういうゲーム的な処理はありがたかったりもするのだけれど。
余談ですが、この騒ぎの元になってしまった座敷童ちゃんは、現在うちの子たちも一緒になってクンビーラのお城見学に出かけています。
先に言っておくけれど、彼女がわがままを言ったわけでもなければ、ボクが無茶なお願いをした訳でもないからね。外見的には似通った年頃となるハインリッヒ様とあっという間に仲良くなった結果、彼の母親で公主妃でもあるカストリア様が案内役を買って出てくれたのだ。
カストリア様いわく、
「そろそろハインリッヒにも城内のことを詳しく教えなくてはと思っていたところですから、ちょうど良い機会になったわ」
とのこと。確かにそれも理由の一つなのだろうが、妖精のような存在の座敷童ちゃんと仲良くしておくべきだと感じ取ったのかもしれない。
どちらかと言えばおっとりほんわかで癒し系な彼女だけれど、公主妃という大役ある立場でもあるからね。何かしら利点を見出していても不思議ではないです。
クンビーラの上位貴族の娘として、幼いころから公主妃となるべく公主様と一緒に育てられてきたらしいから、他にもボクが気付いていない理由がいくつもありそう。
うちの子たちまで連れて行ったのは護衛役にもなるから、ということであるらしい。でも、この部屋にやってきた途端にエッ君を抱っこしていたのよね……。手放したくなかっただけという可能性もありそう。
もっとも、こちらとしては歴史あるお城の内部をタダで見学させてもらえるのだから文句などあるはずもなく。
というか、ボクもそっちに行っちゃダメですかね?ダメですか。ダメですよね。はい、分かっていましたとも。
「既に全員お互いの顔は見知っているな。では早速だがリュカリュカ、話を始めてくれ」
逃げ出したいという気持ちになっていることを察知されてしまったのか、宰相さんが有無を言わさず説明を求めてきた。公主様たちからだけでなく、パーティーメンバーのミルファとネイトからまで「逃がさない」という圧が発せられている。
逃亡なんて夢のまた夢だと悟ったボクは諦めてここ数時間の出来事を語り始めたのだった。
「それは……、今朝の出来事でした……」
若干怪談っぽい出始めなのは、単なる意趣返しです。でも、神隠しのようなものだったから、あながち的外れとは言えないかもしれないね。
さて、詳しく語っていては時間がどれだけあっても足りはしない。なので説明は自動で進めて、ボクは時間をスキップさせて一足お先です。
AIが賢いとこういう時には助かるよねえ。まあ、その賢いAIが搭載されているため、NPCの皆から尋問のようなことをされているわけですが……。
「事のあらましとしては以上になります。何か質問とかありますか?」
説明をさぼったと気が付かれないように、それっぽい台詞で締める。
公主様と宰相さんはクンビーラの過去に、おじいちゃんたちは別の町や村で似た事例が起きていなかったかを話し合っている。
個人的にはミルファとネイトが「なんだ、いつものことか」的な顔で、しれっとお茶を飲んでいるのがちょっぴり腹立つね。
「うーむ……。異界に紛れ込むというのは昔話や迷信、教訓話などではよく聞く内容だが、実際に体験した実例となると、驚くほど出てこなくなるようだ」
仮に実体験であっても話したところで信用してもらえるかどうか、という問題もあるからねえ。今回の件も座敷童ちゃんというこれ以上ない証人?がいたからこれだけの騒ぎになってしまった、もとい、本当にあった出来事なのだと信用してもらえたのだ。
子どもが対象なら「そうか、それは楽しかったな」で、大人が対象なら「モ〇ダー、あなた疲れているのよ」のそれぞれ一言で終わりというのが、一般的な反応だと思う。
「多分ですけど、誰も彼もが巻き込まれてしまうようなものではないと思います。むしろ狙われているのはボクのような……」
イベントだから、必然的に発生させられるのはボク一人だけということになるのだ。
あえて一つ不安なことを付け加えるならば、異界に迷い込んだ、もしくはさらわれてしまった誰かを助けに行こう、的なイベントが発生しないかという点だね。
「……リュカリュカがそう言うなら何かしらの理由があるのだろう。だが、為政者の立場としては明確な根拠がなければ、もろ手を挙げて賛成することはできんのだ」
「そういうことでしたら、これ以上ないほどの分かりやすい根拠がありますわ」
宰相さんの言葉に一番に反応したのは、娘のミルファだった。というか、皆を納得させられるような根拠なんて本当にあるのかな?
「リュカリュカは『異次元都市メイション』にも自由に行き来できるのですわよ。異界へと迷い込んでしまうことくらい、あっても何の不思議でもありませんわ」
「ふむ」
「ああ……」
「なるほど。言われてみればその通りだな」
「え?それで理解しちゃうの!?」
手のひらを返したかのように納得したと頷き始める大人たちに、思わず驚きの声を発してしまう。
「リュカリュカ……。あなたにとっては日常で普通のことかもしれませんが、『異次元都市メイション』と言えば伝説の街なのですよ」
ネイトさん、ド忘れしていたボクが悪かったから、呆れたような目で見るのは勘弁してください。




