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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ

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643 こじつけだー!?

 座敷童ちゃんを連れていくことを決心したら、インフォメーションから《新しい宝石の子どもとお友達になりました》と言われた。まあ、座敷()だからね。『子ども』という点は確かにその通りでしょう。

 でもさ、『宝石』は関係なくないかな?


「ちょっとごめんね」


 何かヒントになることでもあれば、と思って再度座敷童ちゃんを〔鑑定〕してみたところ、『玉の座敷童』に名前が変化しているではありませんか!

 なぜに!?と驚きながらも原因を探るために記憶をひっくり返していると、青鬼さんが言ったとあるフレーズが思い出された。


「この子はワシらにとって掌の玉だ」


 もしかしてこれですか!?

 だけど、この場合の「玉」とは主に子どもなどの庇護対象を指しているのではなかったかな?宝石というにはこじつけ過ぎでは?

 後で調べてみたところ、『玉』という言葉にはヒスイのことを指す意味合いもあるそうで。いや、それでもやっぱりこじつけだとは思うの。


「ぴよっぴよー♪」


 とにもかくにも、同じ『宝石の子どもたち』仲間が増えたということで翡翠ひよこが座敷童ちゃんの右肩の上で喜んでいる。

 そういえばこの子、いつの間にかいなくなっていたよね?そして今もどこから現れたの?

 ……ある意味一番の謎だわ。


 まあ、翡翠ひよこと同じ扱いということであれば、ボクたちの戦闘に座敷童ちゃんが巻き込まれることもないだろうから、その点だけは安心できるかな。

 ただし、いくら何でもアイテム扱いにはならないだろうから、そのあたりのことは後できちんと確認しておく必要がありそう。というかここの運営だからしれっと修正が入っているような気もする。


「うむ。これからはお客人の、いや、ご主人の言うことをよく聞いて達者で暮らすんだぞ」


 本当の我が子の旅立ちを祝福するように、青鬼さんが座敷童ちゃんに激励の言葉を送っていた。

 そのご主人というのはボクのことだよね。いやはや、責任重大だなあ。


 ポフポフと頭を大きな手で撫でられながら、座敷童ちゃんが目じりに涙を浮かべていた。うーん、感動の出立シーンだ。

 彼女の右肩でばっさばっさと羽を動かせて自己主張する鮮やかな色の真ん丸ヒヨコがいなければ、だけれど。


「ひよこちゃん……、色々と台無しだよ……」


 元のシーンが感動的なものだけに、余計にコントっぽさが際立つ形になってしまっている気がする。

 でも、旅立ってしまえばそう簡単に会えなくなることは確かだから、できることなら泣き顔ではなく笑顔でお別れをしてほしいとも思う。

 ああ、もちろん今日を決して最後にさせるつもりはないけれどね。


 で、そういう意味では苦笑いだったりぎこちない笑顔だったりではあるけれど、青鬼さんと座敷童ちゃんの二人に笑みを浮かべさせた翡翠ひよこの功績は、なかなかに大きいものだったと言えなくもないと思わないでもないかもしれないです。


 え?素直に褒めろ?

 いやあ、あの子のフリーダムさを見ていると、それはちょっと難しいかなあ……。


 さて、名残惜しくはあるが、いつまでもこうしてはいられない。

 異界行きのイベントだからゲーム内の方は微妙でも、リアルの方は確実に時間が経過しているのだ。そろそろログアウトしなくてはいけない時間が迫りつつあった。

 マヨヒガの玄関から出て門へと歩く。……おんやあ?人一人分くらいの幅でしかないけれど、しっかりと石畳の道になっている?


「あれ?ここって飛び石じゃなかった?」


 あの名残というわけではないのだろうが、道の両脇は玉砂利が敷かれたままになっている。


「お客人方を迎えたことでこのマヨヒガも少しばかり成長したようだ」


 青鬼さんによると、成長していくに伴ってこんな感じで外装や内装が豪華になったり立派になったりしていくのだとか。


「そういえばやり過ぎて城や宮殿のようになったところもあったそうだぜ。もちろん呼び寄せた迷い人たちには怪しまれてしまって、中に入ってもらえないどころか見えた瞬間に回れ右されていたっちゅう話だ」

「うわあ……。それはどちらにとっても不幸な出来事でしたね」


 マヨヒガに辿り着くような人は、大抵元の世界で遭難してしまっているのだそうだ。

 そのため異界の隠れ里ではあっても害される可能性が低く、一時の休息を得ることのできるマヨヒガでの滞在は、無事に人里へと生還できる確率を上げることが可能な、貴重で希少な機会になっていたのだった。


 そんなことを話している間に、門までの短い道のりは終わりを告げる。門が開かなかったり外で待ち伏せされたりということもなく、ボクたちはついにマヨヒガの敷地から外へと出ることになったのだった。


「それではお世話になりました」


 ボクが頭を下げると、みんなも真似してペコリとお辞儀をする。


「こちらこそ、難儀な頼みを引き受けてくれて感謝しているぞ」


 ミルファたちへの説明に少しばかり骨が折れそうだけれど、受け入れてくれることは間違いないので不安はない。


 座敷童ちゃんは青鬼さんにぎゅうっと抱き着いてから小走りでタタタと少し距離を取って、「いってきます!」の気持ちを込めてぶんぶんと腕を振る。

 そして最後に一際いい笑顔を浮かべるとそのまま駆け出して行ったのだった。


「……はっ!?ちょ、ちょっと待って!一緒に行かないと迷子になっちゃうよ!?」


 思わず呆然と見送ってしまっていたが、彼女はボクたちに同行するのであって、決して一人で歩んで行く訳ではないのだ。

 我に返って急いでみんなに指示を出す。


「急いで追いかけるよ!」


 こうして、座敷童ちゃんの旅立ちはドタドタと慌ただしいものになったのだった。


 しかし、歩き始めてすぐに背後からたくさんの視線を感じるようになる。


「こういう異界から帰るときの作法として、振り返るのは厳禁だったりするんだよね……」


 一方で、心の中からは「絶対に振り返らなくてはいけない」という確信めいた気持ちが沸き上がってきていた。

 失敗を含む先人たちの経験に習ってそのまま歩き続けるのか、それとも自らの心に従うのか。


 悩んだ末、ボクは後者を選ぶことにした。

 ぶっちゃけゲームだからいざとなればやり直せることが最後の人落ちになったのは事実だ。もちろん、何でもかんでもやり直せばいいと考えるのは危険だけれどね。


「!!」


 叫んだりせずにいられたこの時の自分を褒めてあげたいね。

 意を決して振り返った先、マヨヒガの門の前には多種多様な妖怪たちが集まっていたのだ。きっと座敷童ちゃんの旅立ちを見守っていたのだろうね。


 そんな彼らの心の中から少しでも不安が消えるようにと、ボクは最後に深々と頭を下げたのだった。


 不可思議な隠れ里を後にするボクたちに向かって、妖怪たちもまた頭を下げていたのだが、そのことを知る人は誰もいなかった。


や、やっと帰ってこられそうです……。

作者にとっても突発的にイベントが始まったり物語が進んだりしていくのはいつものことなのですが、今回は特にいきなりの出来事だったので、本当に難産でした……。


リュカリュカちゃん、これからは迂闊で危険なセリフは口走らないように! ……無理だろうなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「こういう異界から帰るときの作法として、振り返るのは厳禁だったりするんだよね……」  大丈夫(でえじょうぶ)だ。  その話は大抵、敵性存在ばかりの領域や冥界や黄泉の国、死者の領域から帰(…
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