642 持ち出し
なんと招き入れて歓待してくれるだけでなく、お土産まで持たせてくれるそうです。
マヨヒガさん、なんて太っ腹……!
ちょっと親切にしてもらい過ぎて申し訳なく思えてくるレベルだったので、青鬼さんの「要望を聞き入れてほしい」という提案は、ボクたちからしてみれば実は渡りに船だった。
しかしながら、安請け合いして手に余るようなもの、例えばバランスブレイカーな古代の兵器などを押し付けられても困るというものだ。
まずは要望の中身を聞いてみる必要があるだろうね。
「おうおう。確かに説明を受けんことには判断のしようもないわなあ。お客人は相変わらず慎重なようで何よりだ」
そう言う青鬼さんの好感度の上がりやすさも相変わらずですよね。
特に悪い方へと進むことはなさそうなので、とりあえずはもう気にしないことにするよ。
「お客人方にとってはそう難しいこっちゃあないから、気楽に聞いてくれ。ああ、もちろんどうしても無理だというなら断ってくれて構わねえからよ」
そんな前振りをしてから彼が語った内容は、ボクたちからするとかなり意外なものだった。
「座敷童ちゃんを連れだして欲しい、ですか。……うーん、まさかそうくるとは思わなかった」
そもそもの話、座敷童ちゃんはマヨヒガからの持ち出しの対象なのか?という疑問が浮かぶが、青鬼さんがわざわざ問うてきたのだから、そういうことになるのだろうね。
「ダメかい?」
「ダメというよりは、ボクの中では選択肢にすら上がっていなかったので戸惑っているという方が的確ですね。さっきから見ていましたけど、親子のように仲が良さそうでしたし。……大事、なんですよね?」
二人のやり取りからして座敷童ちゃんが疎まれていたり嫌われていたりする展開は考え難かったのだが、隠れ里全体から見ればそうではない可能性もあったため、確認がてら尋ねてみることにする。
「もちろんだとも。この子はワシらにとって掌の玉だ。目に入れてもいたくないほどに可愛がっている連中も多いぞ」
だから力強いその返答には心底安堵することになったのだった。しかし、そうなると今度はどうして座敷童ちゃんを連れださなくてはいかないのかという疑問が浮かんでくる。
「はっ!?もしやどこかの悪いやつに狙われているとか!?」
「あー、まあ、探せばそういうやつもいるかもしれんが、今のところは大丈夫だな」
おっふ。さすがに悪人に狙われている説は、妄想が飛躍しすぎていたみたいです。
「細けえ理由はいろいろとあるんだが、一番はやっぱり広い外の世界を知ってもらうためだな。このままじゃあこの子は、狭い隠れ里の中しか知らない世間知らずの箱入り娘になっちまいそうなんでなあ」
ちなみに、隠れ里の妖怪たちの中には少数ではあるが「何があっても俺たちが守るから、危険な外に行かせる必要なんてない!」と訴える一派もいるのだとか。
「もっとも、隠れ里の中で生まれ育った世間知らずなやつに限ってそんな大口を叩いているんだがな」
その結果、「ちゃんと外の世界を見せておかないとかえって困ったことになるかもしれないぞ」と隠れ里の長老格たちが逆に危惧することになったらしい。
なるほどねえ。確かに外の世界の苦労も何も知らない若造が、次々と声高に威勢のいいことを口走り始めたら、「このまま現実が見えていないのは不味い」と年配の者たちは危機感の一つも覚えるだろうね。
「でも、それならその調子のいいことを言った連中こそ、外の世界に放り出すべきなんじゃないですか?」
「もちろん頃合いを見てあいつらも放り出す予定だ。だがな、あの調子づいたバカどもと違って、この子は戦う力がほとんどない。にもかかわらず、その能力は住み着いた家を繁栄させるという、お客人が言うところの悪人から狙われやすい代物だあ。腕が立って信頼のできる同行人がいればと常々思っておったのよ」
「それがボクたちという訳ですか。……青鬼さんに比べればボクたちなんて片手でひねり上げることができる程度のひよっこもいいところだと思うんですけど?」
「いやいや、お客人よ。こう言っては何だがワシと差しで話し合いができている時点で相当なものだぞ。肝の小さい者など、遠目でワシの姿を見かけただけでも気絶してしまうくらいだからなあ」
それは多分、鬼への恐怖心などが掛け合わされてしまうためではないでせうかね。
まあ、図らずもゲーム開始初日からブラックドラゴンと喧嘩するなんてことになったことで、格上相手でも委縮することがなくなっている気はする。
「とにかく、その胆力がありゃあ勝てなくても逃げることくらいはできるだろうよ」
純粋な強さよりも生き延びることができるかどうかが判断基準となっていたみたいだ。
「何よりこの子も懐いているようだしなあ」
頭を撫でられながら座敷童ちゃんがはにかんでいる。かわいい。
「気に入ってもらえているのは嬉しいんですけど、何かしましたっけ?」
「お客人よう、あれだけ一緒に遊んでおいて何を言ってるんだね」
「え?でも、こんな広いお屋敷にたった一人でいたんですよ?そんな子がわざわざ出迎えてくれて、しかも寂しそうな顔をしていれば、そりゃあ一緒に遊ぶでしょう」
「それがなあ……。近頃は世知辛いんだか何だかで、子どもが一人でいるだけでも不審がられてしまって、まともに相手をしてくれるやつがほとんどいないんだわ」
わーお、それは確かに世知辛いかな。
でも、道に迷うような形でたどり着いた山奥の一軒家に、見た目幼女な座敷童ちゃんが一人きりで住んでいた、という状況だよね?
……ふむ。この隠れ里が仮にリアル準拠の世界だとすれば、親身になるよりも先に事件や犯罪を頭に思い浮かべてしまうかもしれないか。
「お客人のことを見込んだ理由はこんなところだなあ。そんな訳で無理にとは言わないができることならこの子のことをお願いしたい」
深々と頭を下げる青鬼さんと、そんな彼を見て慌てて真似をする座敷童ちゃん。
後はもう、ボクの心持ち次第ということになるようで……。
「やれやれ。お土産話のつもりが、とんでもないお土産を持って帰ることになりそうだね。でも、まあ、ビックリさせることはできそうだよね」
来る者は拒まずがボクの基本的なスタンスだからね。一緒にいたいと思ってくれるなら引き受けるのはやぶさかではないです。
ちなみに、去る者はその理由に納得ができれば、きちんと見送ってあげますよ。
《新しい宝石の子どもとお友達になりました》
なんか出た!?
唐突な翡翠ひよこの再登場は、この前振りでした。
次回は理由のこじつけです(苦笑)




