639 遊んでみた
座敷童ちゃんと遊ぼう結果発表!
まずはカルタからね。ちなみに、百人一首のような本格的で難しいものではなく、幼児が文字に加えて簡単な慣用句やことわざなどを覚える用のものだったので、うちの子たちでも参加が可能でした。
基本的にはどこに札が置かれているのかを覚えておく記憶力勝負だから、なかなか良い勝負となったのだが、最終的にはやり込んでいた分が決め手になって座敷童ちゃんが勝利することになった。
まあ、体格の問題でトレアが不利だった感は否めないけれど。
後、途中参加だったにもかかわらず、翡翠ひよこがなにげに高得点だったことも追記しておくよ。
ボク?声に出して読みあげる係でしたが、なにか?
続きましてメンコ。こちらは先ほどとは打って変わってトレアの独壇場だった。高身長から繰り出される一撃は強烈な風圧を生み出して周りの札を一網打尽にしていったのだ。
そしてそれを見て閃いたらしい翡翠ひよこの高々度からの急降下爆撃、もとい札落としもそれなりの威力となり、ここでもなにげに上位に食い込んでいたのだった。
座敷童ちゃんは見た目通り非力だったため、残念ながら最下位に終わっていた。
ボク?なぜだか札が回転して地面や庭木に刺さったりしていましたが、なにか?
そして最終戦の独楽回し。意外にも強かったのはエッ君だった。リーヴやトレアはすぐに慣れて上達するだろうと思ってはいたのだけれど、これは全くの想定外だわ。
さすがに独楽に紐を巻き付けることはできないので、それはみんなに手伝ってもらっていたのだが、いざ回す時には両足を器用に使っていたのだった。
そんなうちの子たちに良い意味で影響を受けたのか、座敷童ちゃんも本気を出してきて……。
待ってまって!砂埃が巻き上がるどころかつむじ風が発生しちゃっているのですが!?アニメじゃないのだから演出過多もいいところだよ……。
さすがにこれにはついていけないと判断したのか、翡翠ひよこは見学をしていた。善戦できそうな種目だけ参加するあたり、ちゃっかりしているよね。
ボク?とりあえず明後日の方向に飛んでいくことはなくなりましたが、なにか?
「いやー、遊んだ遊んだ。……まあ、最後の喧嘩独楽はボクの知っているものとは何かが違っていた気がするけど」
回転の激しさに土が抉れるなんてことは序の口で、独楽同士がぶつかった瞬間に火花が飛び散るどころか炎が吹き出したり、静電気が生じるどころか極小の雷が発生したりしていたからね……。
いやもう、何度「アニメか!?」と突っ込みたくなったことやら。
そのお陰もあってか座敷童ちゃんも満足したようで、今は休憩がてら縁側でみんな揃ってお茶を飲んでまったりしております。
余談だが、お茶自体はこちらが持ち込んだものだ。いくら暢気なボクでも、どことも分からない場所で出された飲食物に手を出すほどうかつではない、つもりですよ?
おもてなしのお礼というか、一緒に遊んで楽しかったお返しだと言うと、座敷童ちゃんはあっさりと受け入れてくれたのだった。
それにしてもお屋敷に到着するまでの霧どこ行った!?と言いたくなるくらいぽかぽかな陽気だなあ。
「はあ……。のんびりまったりできて幸せ……」
『火卿エリア』に飛ばされて以降、おじいちゃんたちの安否や迷宮の攻略などでどこか気を張った日々が続いていた。また、リアルでも年末年始は何かにつけて気が急いてしまい何だかんだで精神が休まる暇がなかったように思う。
そんな中に訪れたこの一時は、ボクの強張っていた心を溶かし出すのに十分以上の力を発揮していたのだった。
「このままお昼寝でもしたいところだわねえ」
リアルだと日焼けとか季節によっては熱中症などにも気を付けなくてはいけない。日向ぼっこしながらお昼寝は、そうした点を気にしなくて済むVRならではの優雅な時間の使い方だと言えるのかもね。
そんなボクの態度や心持ちが感染したのか、次第にうちの子たちもうつらうつらと舟をこぎ始める。この夢と現実の間を行き来している時というのは、何とも言えない心地良さがあるよねえ。
「いや、ちょっと待てボク。いくらなんでもこれはおかしい!」
自身に言い聞かせるために、そして思考をクリアにするためにあえて疑問を声に出す。
何がおかしいのかと言えば、うちの子たちが三人揃って眠りに落ちそうになっていることだ。
元々は魔物であるためか、テイムモンスターやサモンモンスターはプレイヤーやNPCに比べて――罠などは除く――一般的な眠気に対して高い抵抗力を持っているとされる。
この特性を利用して、野営の際にうちの子たちは率先して夜の見張りを務めてくれていたくらいだ。
さて、一方で現在の状況だが、周囲に敵性反応はないとはいえ怪しい霧によって強制連行された不可思議な屋敷の中である。一緒に遊んだ仲の座敷童ちゃんがいることを加味しても、全面的に気を許すことができる状態ではないだろう。
この後に備えて一人もしくは二人休息を取っているなら分からないでもないけれど、三人全員となると違和感しか存在しない。
「みんな、起きなさい!どこからか仕掛けられてるよ!」
パンパンと手を叩きながら大声で叫ぶと、うちの子たちがハッとした様子で慌てて立ち上がった。
すぐに目が覚めたあたり誘眠作用というよりはリラックス効果を高めていた可能性が強そうだ。
「座敷童ちゃん、こっちに!」
急展開にオロオロとしている彼女――となぜか座敷童ちゃんの頭の上にいた翡翠ひよこも一緒に――を真ん中で守るようにして、ボクたちはその四方の守りに着く。
これで少なくとも座敷童ちゃんがいきなりの奇襲で敵の手に落ちるという事態は防げるはずだ。今のボクたちにとって一番困るのは、人質を取られて全力で戦えなくなることだからね。
どこからくる?あちらこちらへと忙しなく視線を動かしながら、同時に〔警戒〕技能で周囲を探る。しかし、敵意ある者どころかそれ以外の存在すらも感じ取れない。
もしかして、勘違い?楽観的な考えが浮かぶがすぐに頭を振ってそれを打ち消す。
ここまでお膳立てができているのだ。何も起こらないなど考えられない。ここはボクの稚拙な技能などでは効果がないくらいの手練れが居ると仮定して動いていくべきだろうね。




