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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ

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633 報告会 2

 約百年前に起きた『三国戦争』でどこが一番被害を受けたかと言えば、戦争の舞台となった『風卿エリア』だろう。

 星の数ほど多くはなくても、いくつもあった都市国家の半数近くが侵略や戦闘によって壊滅、または復興できずに消滅したというのだからその被害がいかに大きいものだったのか。平和ボケと揶揄させるリアルニポンで暮らしてきた身であっても、想像くらいはできるというものでして。


 それでは今度は少々視点を変えてみよう。

 あの『三国戦争』において最も疲弊(ひへい)することになった国、となるとどこになるだろうか?


 戦争以前から『風卿エリア』の国々は小規模の都市国となっていた。そして壊滅や消滅を(まぬが)れた国々は、難民となった人々が流入したり取り込んだりしたことで逆に成長している。

 さらには外敵の侵攻から生き残ったことを始めとして、いくつも共感できることがあったことから当時の国々は連帯し、今日の都市国家群――群れと言えるほど多くないような気もするけれど――という枠組みの基盤を作っていくことになる。


 一方、侵略侵攻を行った三つの大国はというと、骨折り損のくたびれ儲けになっていた。

 実はあの戦争では、三国とも領土的な拡大はできていなかったのだ。加えて戦争の動機の一つとなった可能性が高い。クンビーラ公主の御先祖様たちによって発見された大陸統一国家時代の遺産――浮遊島のことね――についても入手することができていない。


 大国同士の三つ巴の戦いと風卿の各都市国家による抵抗によって、瞬く間に戦況は泥沼化していったらしい。

 そして大陸全土の人々が疲れ果てていく中で『火卿帝国』はそれでも成果を求めて強引に派兵を続けていく。この強硬策が国内の多数の貴族たちの反発を招いた。

 その中には有力貴族も含まれており、皇帝の求心力は一気に低下、今に繋がる内戦状態へと陥っていく。

 賢明な諸兄ならばもうお分かりのことでしょう。最も疲弊した国、それは『火卿帝国フレイムタン』に他ならない。


 余談だけど、『火卿帝国』が戦線を離脱し始めた時点で『土卿王国』と『水卿公国』にも戦争を続けられるほどの余力は既に残っておらず、各地で撤退が相次いで、ほとんどなし崩し的に『三国戦争』は終結へと向かうことになるのだった。


 さてさて、どうしてアンクゥワー大陸の歴史をわざわざ紐解いたのかと言いますと、疲弊した上に内乱状態となった『火卿帝国』は、他国との人の行き来が極端に少なくなったからだ。

 人の動き、まあ、物の動きでも同じことが言えるのだけれど、それは同時に情報の動きでもある。リアルのようにモニターの前に座ってポチポチやるだけで世界中の情報を知ることができる便利な箱は存在していないのです。


 だから、『異次元都市メイション』での交流や掲示板等から情報を得ることができるプレイヤーとは異なり、『OAW』の世界、火卿以外のエリアに住んでいるNPCたちが帝国国内の現状を詳しく知ることは至難の(わざ)、ということになるのだった。


「……冒険者の中には『火卿帝国』へと行き来している者たちもいると聞いていたので、油断していたな」


 先日まで表の情報を一括して取り扱っていて、今では裏の情報の取りまとめをしている宰相さんが苦々しげに呟く。


「まあ、『七神教』を追い出しているなど国の恥部そのものだ。厳しい言論規制が敷かれていたとしてもおかしくはない」

「反対に各貴族の私兵に成り下がっているなんて『冒険者協会』としても恥ですからね。組織だって隠されていた可能性はありますよ」


 公主様に続いて私見を述べる。後、冒険者たち個々人が秘密にしていたというか話題に出さなかったのは、下手に話して国同士の(いさか)いに巻き込まれるのを嫌がったから、なのではないかと思われます。

 内乱状態でも『火卿帝国』が大国であることに変わりはないからねえ。しかもエルーニのような優秀な諜報員を雇うことができる人脈を持ち続けているお方もいるみたいだもの。

 触らぬ神に祟りなしと考える人が出ても不思議ではないわよね。


 もう一つオマケに語っておくと、クンビーラが『火卿帝国』の情報に詳しくなかったことの一因には、地理的な要因もあると考えられます。

 自由交易都市として名高く、都市国家群の盟主的な扱いをされているクンビーラだが、『風卿エリア』の中でも北部にあり、位置的には中央からはほど遠い。

 そのため比較的近い『水卿公国』の情報や話題は手に入り易いのだけれど、残る二国の情報は微妙に入手し辛くなっているのだ。


 さらに『火卿帝国』と国境を接していて、なおかつまともな通商路として機能している街道があるのはクンビーラを敵視している『武闘都市ヴァジュラ』だ。

 こちらにまで情報が流れないように裏に表に動き回っていると考えられる。


 まあ、それでも残る二つの大国は知っている――『迷宮都市シャンディラ』辺りも同じくらいの情報を持っていそう――だろうから、クンビーラが情報戦で遅れを取っているのは紛れもない事実だと思う。


「以上のことを踏まえて、次はボクたちが『火卿帝国』で何をしてきたのかを話していきますね」

「そういえばまだ本当の本題には入っていなかったのであったな……。これまでの内容が既にとんでもないことだったので、すっかり忘れそうになっていたぞ」


 『七神教』も『冒険者協会』も、見限られれば国が傾いてしまうほどの強大な組織だからね。

 まあ、『火卿帝国』の場合はそれ以前から傾いていた訳ですが。


 それよりも目前に差し迫った問題として、あちらでの出来事をどこまで詳しく話すべきだろうか?

 緋晶玉関連から迷宮攻略やアコのことは絶対に話す必要がありそうなのだけれど、それ以前のスホシ村や『聖域』のエルフたちのことは、さてどうしよう?


 とはいえ、スホシ村で詳しい話を聞けたことで迷宮が緋晶玉と関連がありそうだと気が付けたのであり、シジューゴ君たち『聖域』の住人と知り合ったことでスホシ村へと向かうことができたのだ。


 後から話していなかったことがあるとバレるのも問題になりそうだし、ここは正直に全部お話するとしますかね。

 長くなるから、心して聞くように!


 あ、その前に休憩を入れておいた方がいい?

 トイレは済ませておいてくださいよ。


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