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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ

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629 冬のお昼ご飯(手抜き)

 驚いて興奮したという点はボクも非常に理解できるし、嬉しくて感極まっての行動だったことに喜びも感じる。

 が、これはこれそれはそれというやつでして。危険なことをしたならば、やっぱり叱らないといけない。


 叱る時の注意点やポイントは多々あれど、ボクが参考にしているのはいつものごとく従姉妹様だ。

 彼女いわく「大切なのはどこの部分がいけなかったのかを自覚させること」なのだとか。なんでも、「行動の全てが間違っているなんてことは滅多にない」そうです。


 ……ふむ。言われてみると確かにその通りかもしれない。

 今回のエッ君のことにしても、死角だった横合いから突然飛び付いてきたことは問題だ。

 しかし、興奮したことや嬉しかったこと決して自体は悪いことではなく、先ほども述べたようにボク自身共感ができることだった。

 つまり、この問題点の部分だけを叱るようにすればいい訳だね。


 お説教タイム。しばらくお待ちください。


 抱っこしたエッ君の背中をポムポムと叩いてあやしながら立ち上がる。うちの子たちも含めた仲間たちの視線が妙に温かいように感じられるのだけれど気のせいかな?

 それはともかく、『ファーム』の中を探検、ではなくてアコがいるという迷宮へと向かおうとしたところでタイムアップとなってしまった。


 いいところで邪魔が入った感はあるが、生活リズムを崩し過ぎるのも問題だということで諦めてログアウト。

 お昼ご飯も含めてリアルに戻ってちょっぴり休憩です。



 ヘッドギアを外してベッドから起き上がる。

 ほんの少しだけ肌寒さを感じる。空調は適温にしてあったはずなのだけれど?と不思議に思いながら見回してみると、レースのカーテン越しに見える窓の外がやけに暗い。

 少しだけ開けて外を覗いてみれば、空には分厚い雲が広がっていて白いものがチラチラと舞っていた。どうやら『OAW(あちら)』に行っている間に天候が急変してしまったようだ。

 ひやりとした空気が入り込んできては、ボクの身体を一撫でして熱を奪っていく。風邪をひいては大変と、慌てて窓を閉め切ったのだった。


 急に動いたことに釣られたのか、きゅるると小さな音を立ててボクの身体が空腹であることを主張し始める。

 そうだった。リアルに戻ってきたのは休憩することもさることながらお昼ご飯を食べるためだった。

 そして自覚したことによって空腹時特有の倦怠感(けんたいかん)というか脱力感が襲ってくる。ゲーム内での飢餓状態に比べれば何ということはないものだが、ぶっちゃけ楽しいものではないよね。

 さっさとお腹を満たすべくキッチンへ、と扉のノブに手をかけたところでふと体の動きが止まる。


 本日は正月休みも終わった平日で、現在この家にいるのはボクただ一人だけだ。つまり家の外ほどではなくても、この部屋の向こう側は暖房の効いていない極寒地獄(こきゅーとす)ということになる。

 ぬくぬくと快適な室温でゲームをしていた身としては、この落差はかなりきついです。

 その上ボク一人なので、ご飯を作るところから始めなくてはいけない訳で……。

 そうした事実に気が付いてしまった瞬間、心の中では面倒くさがりと不精の連合軍が見る見るうちに支配地域を広げていっていたのだった。


「どうしようかな。正直一人分だけのご飯とか準備するだけでも面倒なのよね……。でも、何も食べないままゲームを再開して、体調不良だと誤認されても困るしなあ……」


 フルダイブ型のVR機器には使用者の体調を管理するため、おおよそ一時間に一度の割合で定期的にバイタルチェックが行われるようになっている。

 ここで異常が見つかると、最悪の場合だと利用していたコンテンツからログアウトさせられてしまい、すぐに再開できないように機器自体が二十四時間の強制シャットダウン状態に陥ってしまうのだ。


「丸一日ゲームができなくなるくらいなら、ちゃんとお昼ご飯を食べてしっかり休憩をする方がよほどマシってものだよね」


 問題は何を食べるかなのだが、ここはお手軽な食べ物の定番である、お湯を入れて三分待つだけでできてしまうインスタントでカップな麺料理にしようかと思う。

 確か予備の非常食兼用として買っておいたものがキッチンの戸棚にいくつか残っていたはずだ。

 寒さの方も温かいカップ麺を食べていればすぐに気にならなくなるだろうし、これぞ一石二鳥というやつなのでは。


 残っていたカップ麺のラインナップがカレー味や麻婆風味といった、なぜだか辛い系のものばかりであり、体が温まるどころか暑くて大汗をかいてしまい、結局シャワーを浴びる羽目になるとは、この時のボクには知る(よし)もなかったのだった。

 おのれ、なんという辛辣(しんらつ)な罠!?

 辛い味だっただけにね。



 予想外の展開となり予定外に時間を消費してしまったけれど、再度ログインです。

こちらも空腹度が増してはいたが、まだ余裕はありそうなので先にアコに会うという目的を果たしてしまおう。

 あまり後回しにしていると一人だけ放っておかれたと拗ねてしまうかもしれないし。


 うちの子たちに案内してもらってアコのいる迷宮へと到着です。

 ……ところが、これが簡単なことではなかった。


「リーネイさん?ボクの見間違いかな?迷宮の入り口付近に魔物っぽい何かがうろついているように見えるのだけど?」

「見間違いではありませんよ。迷宮が成長できるように、この一角だけ魔物が出現するようになっているのです。ある種の結界が張られていて、この近辺から外へ出てくることはありませんから安心してください」


 まあ、ゲームだからその辺りはしっかりと設定した通りに動いてくれることでしょう。


「わたくしたちのレベルに応じて適正な強さの魔物が現れるようになっていますから、腕試しにはもってこいですわ!」


 チーミルさん、とっても楽しそうですね。いや、楽しそうなのはうちの子たちみんなか。

 おかしいなあ。バトルジャンキーでもなければバトルフリークでもなかったはずなのだけれど。テイムモンスターとしての本能というやつなのだろうか?


 ちなみに、ゲーム的にはボクがログインしている間で、なおかつ『ファーム』内にいる子たちに限り徐々に経験値と技能熟練度が加算される、というものであるらしい。

 ええ、もう反則級に便利な機能だよね。その分加算される数値はとっても低く設定されているそうだけれど。


 快適過ぎてうちの子たちが『ファーム』に引きこもらないか心配です……。


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