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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ

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628 移動?移動!

 そんなこんなでエルーニ、というか彼の雇い主が抱くと思われる疑惑を多分払拭することができたのだろう、無事に無罪放免となったのだった。


「ほへー……。助かったあ……」


 エルーニが姿を消したことでようやく特大の緊張感から解放され、大量の空気が体外へと排出される。

 ちょうど風船が縮んでへにょへにょになるように、ボクも崩れ落ちるようにしてその場へと座り込んだのだった。


「今回は、割と本気で死を覚悟しました……」


 同じく力が抜けて地面に座り込んでいるネイトが、額の冷や汗を拭いながら呟く。

 その隣では喋るのも億劫(おっくう)になっているのか、同じような態勢でミルファがコクコクと頭を小さく縦に振ることでその意見に同意していた。


 戦っても勝てるヴィジョンがまるで見えなかったどころか、敗北する映像しか浮かんでこなかったからねえ……。ある意味、迷宮での対キメラ戦や先ほどの対イフリート戦よりも精神的な摩耗(まもう)は大きかったように思う。


「まあ、リシウさんたちに続いて見逃してもらえた、っていうことなんだろうけどさ」


 ボクたちの言い分が信用されたのか、それともどう転んだところで脅威にはならないと判断されたのか。前者であれば嬉しい限りだが、後者の可能性も否定しきれないのよね。

 加えて、リシウさんたちなら大丈夫だとは思うけれど、国内の意志や思想を上手く掌握できないという展開が起こらないとは決して言い切れない。ほら、ゲームの強制イベントとかさ、あるかもしれないでしょう。

 それらを含めて対策を考えておくことは必要になってくると思う。


 とはいえ、それらはボクたちだけで対処するべき問題ではない。クンビーラの公主様や宰相さん(ミルファパパ)たちやデュランさんやゾイさんたちを巻き込んで――丸投げするとも言う――対策を練っていけばいいだろう。


「そのためにも、まずは『風卿エリア』に帰り着かないと」


 軟体生物化している身体に一本芯を入れるように、ふぬっと力を籠める。おっと、あくまでも可愛らしくですからね。ここ重要。


「いつまでも腑抜けてはいられませんわね」


 そんなボクに触発されたのか、我先にとミルファが立ち上がる。生まれたての子鹿か子牛のようにその足がプルプルと震えていたことには触れずにいてあげてください。


「短くない旅路ですから、気持ちを新たに頑張りましょう」

「あ、その事なんだけど、ちょっと大事な話があるから人目につかない場所へ行きたいのだけど」

「?……でしたらあそこなどはいかがでしょうか」


 疑問に思いながらもネイトが指してくれた先にあったのは、街道から少し外れた草原の中にこんもりと取り残された木々の集まりだった。

 ……ああ!どこか見覚えがあると思ったら、リアルの田んぼや畑の中にある小さなお(やしろ)もりに似ているね。でも、そのためお邪魔するとなると躊躇してしまう。


「勝手に入り込んで大丈夫かな?」

「恐らくは領都に住む人たちが薪を取るための場所の一つでしょうから、入るだけなら構わないかと。伐採をしたり、大量の焚き木を拾ったりすれば怒られるかもしれませんが」

「なるほど。そういう場所なのね。木を切ったりするつもりはないから問題ないかな」


 てくてくと歩いて林の中に入ってみれば、普段から手を加えられていたらしく地上にまでしっかりと日の光が届いており歩きやすい。こういうのも里山と呼ぶのかな?

 いずれにしても『聖域』のような自然の森とは大違いだ。あちらは枝葉が生い茂って先が見通せず、その上地面には腐葉土になりかけの落ち葉が積み重なっていたり思わぬ所に根っこが張り出していたりと、歩くだけでも一苦労だったのよね。


 一方で木々がそれなりの密度で生えているためか、意外にも視線の通りは悪い。

 今のボクたちにとっては打って付けの場所だと言えるね。


「わざわざ人目を避けるような場所に来たのはなぜですの?」

「うん。実はアコから「ちょっとこっちに来て欲しい」って連絡があったの」

「アコから?こっち?」

「そう。こっち」


 言いながら腰にぶら下げている『ファーム』をポンと軽く叩く。


「は?」

「え?」


 まあ、そういう反応になるよね。という訳で、説明しよう!


「二人ともアコが迷宮を作ることができるように、うちの子たちが『ファーム』を改造したことは知っているよね……」


 その際に例の環境変化アイテムを五個使った訳ですが、正確にはその内の一個は別の用途に使用されていた。

 それというのも環境変化の第一段階として「マスター及びパーティーメンバーが『ファーム』へと出入りできるようにする」ことが必須項目となっていたからだ。


「つまり、アコの言うこっちというのは『ファーム』の中、ということですか?」

「多分そうみたい、です」


 あやふやな言い方でごめんね。ボクもアウラロウラさんから説明を受けただけで、まだチャレンジしてみてはいなかったのだ。


「詳しいことなど挑戦してみればおのずと分かることですわ」


 ミルファさん?いくら良いことっぽい台詞を口にしたところで、そこまでお目々をキラキラさせていては好奇心が抑えきれていないことが丸分かりですよ?


 だけど彼女の台詞が一つの真理であることも確かなのよね。下手の考え休むに似たり、案ずるより産むがやすしということだね。

 何よりこれ以上おあずけしたままでいるのはミルファが耐えられそうにもない。


「ミルファの言う通りだし、とにかく行ってみようか」

「そうですね」


 ネイトと二人で小さく苦笑し合ってから、メニュー画面を開く。

 新たに表示されるようになった『ファーム』の項目をタップして、さらに「中へ入る」を選択する。


 一瞬の浮遊感の後、ボクたち三人は広い草原の真っ只中に立っていた。以前リーネイたちがお話ししてくれた『ファーム』の中の景色そのものだ。

 無事に移動できたのかな?と思った次の瞬間、ボクは横合いからの衝撃に地面に倒れ伏していた。


 え?

 なに?

 どういうこと?

 うちの子たちの居場所についたと思っていたけれど、まさかのエマージェンシーでピンチが危険な異空間へとすっ飛ばされていたの!?


「違いますわよ。興奮したエッ君が飛びついただけですわ」


 聞き馴染みのある声を受けて半ばパニックになりながら頭と視線を動かしてみると、真ん丸ボディがボクの身体の上にちょこんと乗っかっていた。


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[一言] >まさかのエマージェンシーでピンチが危険な異空間へとすっ飛ばされていたの!? >「違いますわよ。興奮したエッ君が飛びついただけですわ」 >聞き馴染みのある声を受けて半ばパニックになりながら頭…
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