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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ

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625 引き取りましょう

 天然の蓄魔石である緋晶玉、それが乱雑に詰まれてあちらこちらで小山になっている様は、まさに圧巻の一言に尽きた。


「緋晶玉で間違いないです。あの迷宮で採掘されていた物でしょうね」


 しかし迷宮でもなければ確保が難しい代物のようなので、これ以上は増加することはないはずだ。まあ、これだけでも十分にとんでもない量なのですが。


「やはりそうでしたか。わざわざ目立たない場所に建てられているのでもしやとは思っていましたが、こんな場所に貯蔵していたとは……。無知とは恐ろしいものですね」


 おやおや?その言い方からすると、秘書お姉さんはこれの危険性について知っているということなのかな?


「あの、もしかして緋晶玉が危険な物だってご存知なんですか?」

「もちろん知っていますよ。緋晶玉に限らず、錬成前の天然の蓄魔石がどれほど危険な代物なのかもね」


 お姉さんの話によると、天然の蓄魔石には強力な魔法をぶつけられるとそれに反応して内部の魔力が漏れ出してしまう性質があるのだとか。

 ただし、天然の蓄魔石が希少であるため実験や調査がほとんどできていないため、どの程度の威力や規模以上になると強力(・・)となるのか、はっきりとした線引きはできていないそうです。


「ですから、あなたたちの身の上話を聞いた時には驚くのを通り越して唖然としてしまいました。どう考えても完全な自殺行為であり、生き残ることができたのが奇跡のようなものですから」


 綺麗なお顔が困惑と恐怖で歪められているのを見て、改めてあの時の自分がいかに軽率で愚かだったのかを思い知る。

 仮に暴発した緋晶玉の魔力が転移の魔法陣へと流れ込むことがなければ、ボクの撃ち込んだ【ウィンドボール】が大暴走してとんでもない被害をもたらしていたことだろう。

 ボク自身は元より、すぐ側にいたミルファとネイトの命を奪ってしまっただけでなく、最悪の場合はあの洞窟そのものが崩壊しておじいちゃんたちも無事では済まなかった可能性があるのだ。


「もう二度と自棄(やけ)になって無茶なことはしません」

「はい。あなたの仲間のためにも、どんな状況になったとしても必ず生き残る方法を探し続けて下さい」


 そう言ったお姉さんの口調は、とても優しいものだった。

 何だかほっこりしてしまいそうだが、そういう場合ではないのでした。


 リアルのもので例えるなら、天然の蓄魔石は埋蔵していたものを汲み上げたばかりの原油に近い性質があるように思う。錬成しなければ使えないけれど、一度(ひとたび)事故などが起きると大火災、大災害を引き起こしてしまう。


 あの『土卿エリア』の洞窟に残されていた小山一つ分ですら、朽ちかけて止まっていた転移魔法陣を強制的に再起動させるだけの魔力量となり、外部へと向かっていれば洞窟全体を崩壊させてしまえるだけの破壊力となってしまっていたかもしれないのだ。


 さて、現在この倉庫にはそんな緋晶玉がどれくらいあるのでしょうか?

 ざっと見回しただけで山の数は領の手の指を超える数となっていた。


「冗談でも何でもなく、暴発したらこの領都が消し飛んじゃうんじゃないの……?」

「ええ。そうして吹き飛ばされた土砂が舞い上がり、恐らく被害は領内全域に広がることでしょうね」


 無知ほど恐ろしいものはない、なんてよく言うけれど、まさにその通りの状況だわ……。

 保管するだけでも危険が危なくて面倒なのに、物がものだから無闇に売りさばくこともできないときている。使い道のない爆発物を大量に抱え込んでいるようなもので、リシウさんたちからしてみれば頭が痛いどころの話ではないだろう。


「誰かが処分してくれるとありがたいのですけれど」


 チラッチラッとお姉さんがこちらの方へと視線を送ってきているが、いくらボクたちでもアイテムボックスにこれだけの量を抱え込むことはできないだろう。

 これまで色々とお世話になってきたから正直断り辛いのだが、物理的に無理なものは無理だ。


 心を鬼にして断ろうとした瞬間、ピピピッ!と脳内にテレパスっぽい何かが届いたのを感じた。

 まさか大宇宙からの意志を受信できるようになってしまったの!?と、ちょっぴり不安になりながらもそちらへと意識を向けてみると、どうやらアコからの呼び出しだったみたい。

 迷宮の最深部が定位置となるため直接顔を合わせることが少なくなってしまうからなのか、そうしたテレパスっぽいもので意思の疎通ができるようになっているらしい。


「ええと……。もしかすると何とかなるかもしれません」


 簡単に説明すると、『ファーム』の中に生み出したアコの迷宮の中に緋晶玉を仕舞ってはどうか?という提案だった。


「本当ですか!?」

「は、はい。うちの子が作った迷宮なら今のところ出入りできる存在が限られているので、そういう点でも安全なのではないかと」


 本当は「緋晶玉欲しい!」というおねだりだったのだけれど、そこのところは秘密ということで。『火卿帝国』の重鎮である彼らに対して、ボクたちは『風卿エリア』のクンビーラと協力体制にあり、いわば所属が異なるのだ。

 よって現状はともかく将来的にリシウさんたちと仲が良い関係でいられるかは分からない。今さらながらという気がしないでもないが、それでも借りはできるだけ少ないに越したことはないだろう。


 と、小難しいことを言ったが、結局のところは、


「お支払する金額はこのくらいでいいですよね」

「あらあら。リュカリュカさん、いくら何でもこれは買い叩き過ぎというものではありませんか?」

「不良在庫を一括で引き取るんですから、これでも勉強した方ですよ」


 これに尽きるのでした。

 まあ、半分は「こうやってしっかり話し合ったぞ」という演技ですけれどね。


 だけど反対に言えばもう半分はガチもガチ、本気ということになる訳で。

 製錬する技術がないから不良在庫になっているだけで、本来緋晶玉ほど大量の魔力を内包している天然の蓄魔石はとんでもない価格で取引されるものなのだ。

 まともに代金を支払おうとすれば、僕個人どころかクンビーラですら破産してしまうかもしれない。


 この値引き交渉は絶対に負けられない戦いなのです!


 結局、ボクのお財布が空っぽになるお値段で譲歩してもらいました。

 ……お姉さんには勝てなかったよ。

 いや、これでも破格の値段ではあるのだけれどさ。


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