624 領都に着きました
リーヴの進化も無事に終わり、後は領都に到着するのを待つばかりとなったので、今度こそサクッと時間をスキップします。
あ、ブレイブアーマーに進化したことで新しく習得した技能は〔鼓舞〕でした。戦闘中のパーティーメンバー全員のやる気をアップさせる、という何ともふわっとした説明だったよ……。
さらに熟練度を挙げていくことでMPを使用して効果を増すこともできるようになるらしい。
熟練度がマスター直前ともなると、MP消費はとんでもない反面、通常では苦戦する魔物ですらあっさり倒せてしまえるくらいのぶっ壊れ性能を発揮するようになるのだとか。
……そのうち下方修正されないかしらん?
戦闘中のあらゆる行動に影響することから、プレイヤーの間では謎の能力値である〈運〉を一時的に上昇させる効果があるのではないかと推察されていたりします。
まあ、詳しいことは追々分かってくることだろうから、話題を領都へと戻しましょうか。
街の規模や活気はクンビーラやシャンディラには遠く及ばず、街というよりは町といった方が適当な気がした。
「帝国貴族のおひざ元としては典型的な規模だ。穀倉地帯ではあるがそれ以外の特産品がある訳でもなければ、交通の要所でもないからな」
「活気がないのは前領主たちがやらかしていたことが原因でしょう」
リシウさんに続き、秘書お姉さんことヒューマンの女性が解説してくれる。まだ一年未満だったとはいえ、各村で一番の働き手である男衆を強制的に迷宮で働かせていたのだ。
作物の育成だけでなく成果物の出荷や流通にも大いに悪影響を及ぼしたことだろう。活気がなくなるのも当然の話だ。
その一方で、特産品がなかったという言葉には少し疑問が残る。
「ねえ、リシウさん。アホ領主は論外だけど、それ以前の領主たちからは帝国に対して、特産品づくりのために融資のお願いとか人材派遣の要望とかはなかったのかな?」
「国内が分断状態になる『三国戦争』以前であればあったかもしれないが……。どうしてそう思う?」
「だって、この辺りは穀倉地帯なんだよね。それならほかの土地よりも過剰分が出ていてもおかしくないよ」
飢饉や天候不順などへの備えもあっただろうけれど、純粋な過剰在庫もあったはずだ。そうしたものを加工して売ろうと考える人間がいたとしても不思議ではない。
加えて、プレイヤーが楽に活躍できるための下地として準備されているという可能性もある。
「……調べてみる価値はありそうだな。人員補充に向かう時についでに調査しておいてくれ」
「いや、大将。ついでで調べられる程度の簡単な内容じゃないですぜ、これは……。まあ、やりますけども」
仕事を増やしてしまったようでゴメンナサイ。さらりと追加で仕事を回された部下の人に小さく頭を下げるボクなのでした。
お詫び代わりになるかは分からないが、リアルのニポンの米所を参考に、お酒とついでに発酵食品を重点的に調べてみてはどうかとアドバイスしておきました。
ボクたちがそんな会話をしているかたわらで、
「と、止まれ!お前たちは何者だ!?」
「我々は帝都から来た監査隊である!領主は既に帝国への反逆罪で我らが捕縛済みだ。貴様らへの沙汰は追って連絡する。これ以上心証を悪くしたくなければ、大人しく己の職務に邁進しているがいい!」
といったやり取りを町の入り口を含めて行うこと数回、ついにボクたちは領主の館へと到着したのだった。
「館の制圧は任せたぞ。所属を告げてなお反抗するようであれば容赦は要らない。勉強代として腕か足の一本を差し出してもらえ」
「はっ!」
短い返事を残してリシウさんの部下の人たちの五人が方々へと散っていく。
熊獣人さんは……、体格が大き過ぎることもあって居残りということみたい。しかも馬鹿力どころではない力の持ち主という話だから、屋敷を破壊してしまいかねないと判断されたのだろう。
もっとも、表向きの理由はリシウさんの護衛なのだろうけれどね。引き取った少年たちもいるから、御者を務めてくれている冒険者の三人だけでは、大勢に攻め寄せられては手が足りなくなると思われたのかもしれない。
ちなみに、数名がやけっぱちになったのかこちらを襲おうとやって来たのだが、熊獣人さんたちが一睨みしただけで呆気なく戦意を喪失していた。
まあ、見るからに文官といった風情のひょろりとした体形の人ばかりだったからねえ。これまでの人生で喧嘩の一つもしたことがなかったのではないかな。何にしてもこれからしっかりと反省して罪を償ってくださいな。
そんなイベントにもならないイベントを挟みつつ、十五分ほどで館の制圧は完了した。
町の方でも同時進行で前領主のやることに一枚かんでいた冒険者協会の支部の家宅捜索が行われていて、支部長をはじめ幹部職員が捕縛されたということだった。
「一段落ついたところでリシウさんから書状を貰えれば、クンビーラに帰る旅が始められるね」
「火卿帝国を抜けるだけで二週間くらいはかかるでしょうか」
「それも何事もなく順調に進むことができればの話ですわ。国境を越えた後もヴァジュラの領域を横断することになりますから、クンビーラに帰るまで早くても一カ月は見ておくべきですわね」
やれやれ。考えただけでも気が滅入りそうになってくるね。
野宿に備えてメイションでセーフティーエリアを作る系統のアイテムを買い込んでおいた方がいいのかもしれない。
「皆さん、こちらでしたか。申し訳ありませんが少々ご足労を願えないでしょうか」
仲間内でこれからのことを話していると、秘書お姉さんから呼び出しがかかる。
何だろうと付いて行った先は館の陰にひっそりと建てられた倉庫のような建物だった。
「ここに、何が?」
「例の迷宮で採掘された鉱石がまとめて保管されているようなのですが、なにぶん私たちは実物を見たことがありませんので、リュカリュカさんたちに本物かどうかを確かめて頂きたいのです」
キィと小さな音を立てて開いた扉から覗き込んでみると、赤みを帯びた宝石のような代物がいくつもの山を作っていた。
「これはまた、随分と溜め込んでいたもんですね……」
蓄魔石へと製錬する技術がないから反皇帝派には売りつけることができなかったのだろう。
本来の売却先というか提供先の『土卿帝国』へと繋がる転移魔法陣があったのかもしれないが、この様子からするとまだ発見できていなかったような気がする。




