623 リーヴの進化
そんな調子で慌ただしくも騒がしい三が日も過ぎ、冬休みの終わりが迫ってきたある日、ようやくボクは『OAW』を再開できるようになっていた。
しかし、テンション高くログインしたボクを待っていたのは、困り顔をしたリシウさんたちだった。
……しまった。イフリート戦がドタバタの予想外な展開になったことで忘れていたけれど、黒幕だったはずのローブの人物がプチッとされてしまったため、その計画の全貌が明らかにできない可能性が高いのだったよ。
え?アホ領主とその配下連中?リアルでの司法取引のように減刑などを散らつかせてやれば、すぐにでも食い付いて、知っていることならばぺらぺらと喋ってくれることだろう。
「でも、碌な情報は持っていないような気がする……」
「残念ながら俺たちも同意見だ。やつらの証言だけでは国外と繋がっている連中はおろか、反皇帝派の者たちを締め上げるまでにも至らないだろう」
仮にアホ領主の館に物証となるような手紙などがあったとしても、リシウさんたちのでっち上げだの捏造だのと反論されて終わりになってしまうだろうとのことだった。
「今は作物を育てることに向いている肥沃で広大な土地が手に入っただけでも良しとしておこう。幸いにもこの地は皇帝派の貴族の領地と隣接している。多少の便宜を図ってやることを条件にすれば、人を派遣してもらうことはできるだろう」
加えて、中立で日和見な風を装いながら自分の領地で好き勝手をしている貴族たちへの牽制と釘刺しにもなるそうです。
つまり、「お前たちが何をやっているのか知っているぞ。あまり無茶苦茶なことをするようであれば潰しに行くからな」ということだね。
諸国漫遊する御老公御一行のことが頭に思い浮かんだのはボクだけではないはず。
「まあ、いずれにしてもリュカリュカたちはよくやってくれたよ。ここの領主たちを始末してくれたのだからな」
ボクがやったのは脅しをかけて心をへし折ったくらいで、最終的な処分はリシウさんたちに任せることになるのだけれどね。
「こちらも約束通り、国外に出るための助力を行おう。……とは言ってもこの状況だ。人手を割くことはできないから、各所領の領主宛に最大限の便宜を図るように書面をしたためる程度になってしまうだろうが」
「いえいえ。十分すぎる支援ですから!」
帝国の重鎮っぽいリシウさん直筆の書状――という名前の実質命令書だわね――ともなれば、例え反皇帝派の貴族であっても従わない訳にはいかないだろうからね。
手を出せば皇帝派とガチの殴り合いに発展する可能性もありますので。まあ、そんなことも分からずにこっそり害しようと動くおバカがいないとは限らないが、なんの後ろ盾もない状況と比べれば安全性は雲泥の差となるはずだ。
「しかし、さすがにここでそれらを用意することはできない。この領地の掌握をする必要もあることだし、一旦全員で領都へと向かうぞ」
集まっていた行商人の人たちがことごとくいなくなって、集落としての機能が失われてしまったものね。そんな訳でボクたちはリシウさんたちと共に領都の街へと向かうことになったのだった。
対して、各村から徴収されていた男衆はそれぞれ故郷へと戻ることになったので、ここでお別れだ。
「世話になったな。俺たちを解放してくれてありがとう」
スホシ村出身の男性陣から感謝の言葉が贈られてくる。微妙に距離が離れているのはご愛嬌ということで。
「いえいえ。お世話になったのはボクたちも同じですから。……ところで、『聖域』にいるエルフさんたちのことですが、ボクたちから彼らに話すことはないので安心してください」
「そのこともあったな。本当に恩に着るぜ」
これまでのように細々と出会っても交流が続いていけばいいと思う。
仮にその在り方が分かるとしても、それを決めるのは当事者である彼らであるべきだ。
元迷宮前集落から領都までの道のりはリシウさんたちの馬車でおおよそ一日だった。
いくら何でも日がな一日馬車に揺られているほど暇ではないので、サクッと時間をスキップ、といきたいところだったのだが、ここで思わぬ事態が発生する。
なんとリーヴがイフリートとの戦闘を経たことで進化が可能な二十レベルになっていることが判明したのだ。
いや、ボクを含めて他のメンバー全員がレベルアップすらしていなかったので、気が付くのが遅れてしまったのだった。
「ごめんね、リーヴ。それじゃあ、どんな進化ができるのか見てみようか」
エッ君の時とは異なり、リーヴには三つの選択肢が示されていた。
一つ目が『リビングウォリアー』。公式の掲示板等によれば、これが正当な進化となるみたい。
これまでは鎧兜だけが本体だった訳だが、こちらは武器も体の一部という扱いとなり、レベルアップに伴い攻撃力等も上がっていくようになるらしい。
買い替えや補修がなくなるのはお財布に優しい仕様ですね。あ、盾は相変わらず別売りですのでご用心ください。
二つ目が『ガーディアンメイル』。名前の通り防御に特化した種族となる。
魔物の攻撃も強力になってきているし、本職の盾役が一人いればパーティーの安定感は大いに増すことになるだろう。
一方で、攻撃系の技能の熟練度はとてつもなく上がり難くなってしまうそうだ。
そして最後が『ブレイブアーマー』。
恐らくは勇者様の鎧のレプリカとして作られたという、リーヴの特殊な背景に合わせたレア進化先ということになるのだろう。
その分なにも情報がないので、手探りで成長させていく必要が出てくるのだが。
「なんと言いますか、選択肢があるようで実はないも同然ですよね……」
「ええ。これはもう『ブレイブアーマー』一択ですわ」
ですよねー。正直ボクもミルファたちと同じ意見だ。
あえて悩むとするならば二つ目の『ガーディアンメイル』だが、リーヴは現状パーティーの盾役であると同時に最前列の攻撃役でもあるのだ。攻撃は最大の防御とも言うし、その攻撃力が低下するのは避けておきたい。
まあ、最終的には本人の希望に沿うものに進化させるつもりなので、ボクたちの意見は参考程度にといったところだわね。
「リーヴ自身はどう思う?」
答えは既に決めていたのだろう、尋ねた瞬間そっと一つを指さしていた。
「決まりだね。これからも頼りにしているよ」
こうして模造品は本物へと進化した。




