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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第四十章 『風卿エリア』、そして『水卿エリア』へ

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622 お正月です

 まだまだ確認しておきたいことや把握しておかなくちゃいけないことが残っていたのだけれど、さすがにこれ以上リアルのことを放置しておく訳にはいかない。

 首を捻って負傷してしまいそうなほど後ろ髪を引かれながらも、年末年始のあれやこれやが終わるまでの間ゲームを中断せざるを得なくなったのだった。


 まあ、そうは言ってもそれほど普段と変わったことをすることではなく。

 いつもより少しだけ気を遣って掃除をしたり、いつもより手間暇をかけてお節料理を作ったり、そしてその合間に冬休みの課題を終わらせている内に年が暮れていったのだった。


 お正月はお正月で近所の人への挨拶がてら地元の神社へと初詣に行ったり、里っちゃんの家族と合同で福袋を買いに出かけたり、そしてその移動時間中に里っちゃんに課題で詰まってしまっているところを教えてもらったりと、例年とほとんど変わることのない時間を過ごしていた。


 だけど、完全に同じという訳でもなかった。


「うお……。マジか。ホントにエッ君がいる……」

「兄さん……。絵面がかなりやばいんだけど」

「あはははは……。さすがにこれは擁護できないよね……」


 携帯端末を握り締めて、そこに映し出されている愛らしい卵ボディを凝視している(さま)は、控えめに言っても怪しい人のそれだったね。

 まさに百年の恋も覚める勢いだわ。……まあ、ボクの場合は十年近く前に冷めてしまっているのだけれどさ。


 おっと!すっかり紹介が遅れてしまったね。彼は里っちゃんのお兄さんにしてボクの従兄弟の三峰一也(みつみねかずや)さん。

 先ほどの一言でお分かりだと思うけれど、ボクの初恋の相手でもあります。


「あああ……。我が兄ながら、なんて残念イケメン……」


 と里っちゃんが嘆くくらいには外見が整っていて、しかしその内側はヘッポコなお人です。

 一応フォローを入れておくと、彼がヘッポコになるのは恋愛面――主に鈍感無自覚系――とゲーム関係――熱中すると寝食すら忘れる――だけで、それ以外のことは至ってまとも、どころか勉強やスポーツなどは里っちゃん並みかそれ以上のハイスペックさを発揮していたりする。


 だからこそ逆にポンコツ具合が目立つとも言えるのですが。

 ほら、顔良し学業良しに一応は性格も良しと三拍子そろっていれば、コロッといってしまう人も少なくないのですよ。中には見栄えの良さだけで自分の隣に置こうとするイタイ人もいたりしたそうですが。

 いずれにしてもどんな告白や愛の言葉であっても、明後日の方向へと解釈されて見当違いの回答や的外れなアドバイスへと超進化して返っていくという、あとから聞いたボクたちの方が「申し訳ございませんでした!!」と土下座をして謝りたくなるような展開ばかりだったそうだ。

 いや、もう本当にうちのポンコツがゴメンナサイ。


 これだけなら恋愛下手な鈍感系ラブコメ主人公ですんだかもしれないのだけれど……。いや、これだけでもリアルでは割と致命傷だと分かっていますからね。

 ええ、そうです。実は一也兄さんをヘッポコたらしめている要素がもう一つ存在するのです。


 それが大のゲーム好きであることだ。それはもう里っちゃんが可愛らしく見えるレベルで、昔から家にいる間は常にゲームしているほどだった。

 もっとも、別に出不精ということではなく、頻繁に友達と遊びに出かけていたそうだし、ボクたち一家との二家族合同の旅行にもちゃんと参加していた。


 でもねえ。それが良かったかと問われると、素直にイエスとは答えにくいのよね……。

 何故なら旅行の移動中などに、延々とゲームの話をしてきたからだ。里っちゃんがゲーム好きなり、ボクが『OAW』を始めるまでほとんどゲームに手を付けてこなかった原因がここにあるのではないかと思っている。


 つまり、里っちゃんは一也兄さんのプレイしている様子を見ていたから話している内容が理解できるのでより興味を持つことになったのではないだろうか。

 一方のボクはほとんどそうした知識がなかったため、かえってゲームから興味をなくしてしまった可能性があるのだった。


 好きな事柄を語りたくなる気持ちは分かるけれど、布教をしたいのであれば時には加減することも必要ということだね。


 そうそう、布教で思い出したのだけれど、「四の五の言わずに、まずは一回やってみろ!」とか「一度見てみれば絶対に良さが分かるから!」という勧誘方法は諸刃の剣だということも理解しておいた方がいいと思う。


 冷静に見てみると分かる通り、この手の文句というのは、本人が無意識のうちにハードルを爆上げしてしまっているからだ。

 さらに言うならば、勧誘されている側はどちらかというとその作品に否定的になっていることが多く、その差からこの時点で既にハードルどころか高跳びのバー並みの高さへと壁がそびえたってしまっているのだった。

 そのため、よほど勧誘する側と感性が似通っていないと、布教は失敗してしまうことになるという訳ね。


 あれ?何の話をしていたのだったかな?

 ……ああ!一也兄さんのゲーム語りのことでした。

 これを学校とか男女混合で遊びに行った時にもやってしまった結果、一也兄さんはすっかり残念イケメンとして扱われるようになっていったのだった。


「兄さん!そろそろ端末を優ちゃんに返して!」

「もう少し!もう少しだけ頼む!」

「そう言ってもう一時間以上になるでしょうが!」

「ああ!?ご無体な!?」


 最終的に里っちゃんの実力行使によって、携帯端末は無事にボクの手に帰還したのだった。

 それにしてもご無体って……。今時そんな言葉を使う大学生なんているの?


「しかし、優ちゃんがゲーム業界で今話題の『テイマーちゃん』だったとは驚いたよ。これほど驚いたのは里香が『コアラちゃん』だったと知った時以来だな」


 そんな一也兄さんだが、お盆には帰ってこなかったため、里っちゃんのご両親から「正月には絶対に戻ってくるように」と厳しいお達しがあり、大学のある県外から帰省してきているのだった。

 当の本人は「割引が効く時期に顔見世に戻っておくべきだった。そうすれば差額でゲームが一本は買えたのに……」と不満たらたらだったそうだが。


 それもビックリしたことですっかり吹っ飛んでしまったようだ。隠していたところでどうせバレることになるだろうからと、こちらから先に話したのが功を奏したみたい。


「優ちゃん、ありがと」


 なんのなんの。里っちゃんたちの家族がギスギスしていると、ボクも居心地が悪いからね。


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