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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十九章 次なる戦い

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608 断罪イベント開始

 ……えー、アホ領主たちと冒険者協会職員たちによる話し合い――というか、むしろ罵り合い?――は、お互いへの責任の押し付けに終始していた。


 いやあ、あれは酷い。普通はさ、妥協点とか土台となる共通認識を探るものでしょう。それらを投げ捨てて、ひたすら相手を責め立てるだけだったのだ。

 しかも自分の行いは一切かえりみずに、だもの。今日日(きょうび)子どもの口喧嘩でも、あれほど「お前が悪い」を繰り返すだけということはないように思う。

 ヒートアップしていた本人たちは気が付いていなかったけれど、周りで様子を伺っていた人たちは皆ドン引きしていた。


 これは、あれだね。突然出回った情報の裏取りはおろか、出所がどこなのかを探ることすらしないで、自分たちにとって都合の良い部分だけを切り取って信じ込んでしまったのだろう。

 何とも幸せな精神構造――比喩表現――だわね。もっとも他ならぬボクたちの手によって、その怠慢のツケはすぐにでも支払わなくてはいけなくなるのだけれど。


 ちなみにですが、罵声飛び交うお話し合いの場となっていたのは街道側から集落に入ってすぐの広場で、ほんの一日前までは行商人たちが自前の馬車を展開して簡易の店舗や寝床にしていた所だ。

 もう一つついでに申し上げますと、ボクたちが若手冒険者をやっつけたのは集落の中央近辺なので、こことはまた別の広場ということになる。


 まあ、どこにいようと大勢に影響はない訳なのだが、建物のある位置からは離れているので、緊急の際には領民の人たちをそれらの建物へと避難させることくらいはできるかもしれない。

 ただし、大半は急造のあばら家なので耐久性には難がありそうだけれど。

 暴れるやからが出そうな時には、さっさとリシウさんたちに応援を求めるべきだろうね。


 などと周囲のことを説明している間に話し合いは進んで……、いなかったね。

 むしろ悪化してしまっているようで、「冒険者なんて口先だけの役立たずだ!」や「ここの領主は威張りんぼな上に金払いが悪い!」といった悪口の応酬ばかりになっていたのだった。


「……最初からその傾向はありましたけれど、そろそろ聞くに堪えないものになってきましたわね」

「そうだよね。「威張りんぼ」とか小さい子どもみたいだよ」

「ミルファが言いたいのはそういうことではないような……。いえ、結局最後はそういうことなのかもしれませんね」


 どういう思考展開でネイトが納得に至ったのかはよく分からないが、ボクとしては相手の意見に耳を傾けないこと、いや、自分の都合の良いことしか聞こうとしないことにこそ、問題の本質があるように思えていた。


「やれやれ。話をする以前に、こちらの言うことを聞くようにしないといけないかな」


 どうせ排除する連中なのだから、強制的にそういう状態にしてしまおうかな。

 ああ、この際だから反論もできないようにしておこうか。いくら大海のごとく広くて寛容な心を持っているリュカリュカちゃんでも、続けざまに罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられればイラッときてしまうかもしれないので。


 余談だが、例のローブ姿の人物だけは発言をせずに無言を貫いていた。アホ領主たちを切り捨てるためなのか、それとも部外者に余計な情報や知識を与えないためなのか。

 もちろんどんな思惑を持っていようとも、しっかりどっしりきっかりばっちり粉砕してやる予定ですが。


「はいはい。これ以上は時間の無駄だから双方とも大人しくしてね」


 介入すると決めたからには、さっさとやってしまいましょう。見物の人垣から抜け出して、ちょっとどころではなく強引に両者の間へと割って入った。


「なんだお前は!?私はここの領主だぞ!貴族なんだぞ!偉いんだぞ!」

「ああ、そう。でもボクはこの領の人間でもなければ『火卿帝国』の人間でもないから、……えーと?」


 そういえば誰も彼もアホ領主呼ばわりだったから、彼の名前を知らないや。

 まあ、すぐに退場する人の名前をわざわざ覚える必要もないか。


「まあ、ともかく、あなたを敬う理由はないね」


 そのアホ領主ですが、どうやらこれまでそんな塩対応を受けたことはなかったようで、「ムキー!」と叫びながら地団駄を踏んで怒り狂っていた。

 ……どうしよう、思っていた以上に愉快なキャラだった!

 でも排除する方針を転換するつもりはないですがね!というよりも、排除の流れを変えることはできない、と言った方が正確かな。

 なにせアホ領主は、


「高い魔力含有量を誇る天然の蓄魔石である緋晶玉を無断で採掘していただけでなく、『ジオグランド』へと売り渡そうとしていましたね。これは明確な国家反逆罪に当たります」

「な、なあっ!?」


 こういうことになっているからだ。これはリシウさんの部下の一人、ヒューマンのお姉さんに確認を取っているから間違いない。

 『フレイムタン』において国家反逆罪は貴族平民の身分を問わずに極刑に処すことになっているらしい。さらに領地持ちの貴族の場合は、領地没収の上お家断絶なのだとか。それでも一族郎党に関係各所の老若男女を問わず処刑、よりは温情のある扱いとなるみたいです。


「そんな訳で、罪人のあなたに下げる頭は持ち合わせていないのであしからず。そうそう、方針の違いだか何かで争っていたようですが、この地の冒険者や冒険者協会が領主の手先となっていた事実が覆ることはありませんから、そちらもしっかり覚悟しておくことですね」


 領主の権力をかさに着てこれまで好き勝手やってきたツケを支払ってもらおうか。ニヤリと笑いながら、しかし視線だけは鋭さを保ったままでもう一方を睨みつけてやれば、横暴だった自覚はあったのか、冒険者や冒険者協会の職員たちは一様に目に見えて真っ青な顔になっていったのだった。


 ふむ。あっさりと大人しくなったね。

 性懲りもなく「『冒険者協会』は国家の枠を超えた組織だ」とか「領主からの命令で逆らえなかったんだ」とか言って、責任逃れをしようとしてくるやもしれないと思っていたのだけれど。


 もっともその時には「他所とのつながりを切って領主の傘下に入っていたから、組織としての独立性は認められない」とか「そういう時にこそ超国家組織としての立場を崩さずに毅然と対応するべきだった」とか言って反論するつもりでいたのだけれどね。


 とにもかくにも、これで領主たちの方へと集中することができるようになった訳だ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >今日日子どもの口喧嘩でも、あれほど  きょうび。  今日日だと読みに混乱がある(と言うか自分が混乱した)ので、回避する手段の提案です。  “きょうにち”とか“今日 日子”と分ける…
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