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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十九章 次なる戦い

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606 仕込みその二

 スホシ村男性陣との領主側である風を装っての会話以外に、ボクはある人物とこんなお話もしていた。


「なんだかよく分からねえけど、あの迷宮での採掘は領主様の肝いりで始まった事なんだろう?それを使えなくしてしまったのは不味いんじゃねえのかい?」

「はっ!あんなはした金でいつまでも都合良く使われてたまりますか!冒険者を使い勝手のいい下っ端のように思っているお貴族様は多いけど、ここは特に酷くて使い捨ての駒か何かと勘違いしてるんじゃないの。しかも下の連中までそれを真似てくるし。どんどんと図に乗って無茶なことを言い出してくる前に、痛い目を見せておいたのよ」


 その貴族たちの私兵扱いを甘んじてというか積極的に受け入れていた分際で今さら何を言っているのだか、と思わず呆れ返ってしまいたくなるのだけれど、実はこの言い分、冒険者だけでなく冒険者協会の職員たちの間でも大手を振ってまかり通っていたりするのよね。


「自分たちの暴力に加えて、貴族の権力の威を借るようにして領民の人たちを虐げたりしていたくせにさ」

「毒を吐きとうる気持ちは正直よう分かるんやけど、周り中聞き耳立てとるやつらばっかりなんやから、そこは堪えてもらわんと……」


 小声で吐き捨てたボクを、これまた小声でたしなめるように注意してきたのは会話のお相手となっていた行商人だった。

 カンサイ弁風の独特の口調だからバレバレだよね。そう、エルーニです。


「ともかく、これで各貴族領での領主と冒険者協会のべったりな関係にも変化が見られるようになるかもしれねえってことだな」

「まあ、一石を投じることにはなったと思うし、これまでの通りという訳にはいかなくなるんじゃないかな」


 自分たちの言うことに唯々諾々(いいだくだく)と従うだけの存在ではないと知らしめられる結果となったからには、領主側とすればこれまでのように便利使いすることは難しくなったのではないかな。


「ただ、他の領地にまで波及するのかは微妙なところだと思う。ほら、ここの貴族って領民の人たちにすらアホ領主呼ばわりされているから……」

「ああ。他の貴族たちが自分たちも同じ轍を踏むことになるとは思えへんっちゅうことやな」


 もっとも、今回の顛末についての情報自体はいずれ流れていくことになるだろうから、最悪冒険者や冒険者協会による反乱や下克上などが起きてしまう可能性はある。

 いざそうなってしまった時にようやく事態の重さに気が付いた、なんていうおバカ貴族も出てくるかもしれない。


「この先、お貴族様方の粛清と再編が起きるかもしれへんなあ……」


 せめて今よりはマシな状況になることを祈っておりますですよ。



 このようにお話をして回ったことにより、迷宮前集落――もう迷宮はなくなってしまったので、元迷宮前集落?――に派遣されていたお役人と冒険者協会との関係は、たった一日で目に見えて悪くなっていた。


 まあ、元よりそれほど良いものではなかったのだけれど。

 役人側は「社会不適合者の集団で仕方なく仕事を与えてやっている」と明らかに見下していたし、一方の冒険者や冒険者協会側も「碌に仕事もしないのに上前をはねてばかりの邪魔でうっとうしい上役」と散々な評価を下していた。


 あ、余談ですが冒険者協会には、いわゆるはみ出し者が犯罪者になるのを防ぐセーフティネットの役割という側面も持っています。

 特に冒険者になろうという人物は腕っぷしが強いと相場が決まっている。だからこそ一定以上の規模の町や都市にはなくてはならないという扱いをされているのだ。


 話を迷宮前集落のことに戻そう。これまでこの場所では役人、つまり領主側が唯一の仕事の依頼元だった。そうした事情や力関係の差もあって、冒険者たちは相当安く買い叩かれていたみたいね。

 しかも、酒場を始めとするストレスを発散させるための娯楽すらないときている。それはそれは鬱憤を溜め込んでいたことだろう。


 採掘に従事させられている領民たちを護衛もせずに他の階層で魔物を狩っていたり、その割にほとんど迷宮の攻略が進んでいなかったりしたのは、密かに反抗してみせることでストレスを発散するという面もあったのかもしれない。

 うん。まあ、そうしたくなる気持ちは分からないではないけれど……。やっていたことが小っちゃいなあ。


 そしてボクたちが迷宮を攻略してしまったことで、両者の関係はリセットされてしまった。

 それはそうだろう。依頼をしようにも受けようにも、行き先であった迷宮がきれいさっぱり消滅してしまったのだから。


 依頼主という立場が消えたことで、領主側の有利な点は貴族であること、権力を持っていることその一点だけになってしまった。

 一般人相手にはそれでも十分以上に効果を発揮するものだろうけれど、冒険者という人種は――本来ならば――残念ながら一般人の括りからはみ出したところに存在している。よって、領主側が冒険者たちを抑えることができるのかは不透明な状態ということになってしまっているのだった。


 ただし、現在の『火卿エリア』の大半では、そうした冒険者を守るはずの超国家組織『冒険者協会』が、進んで権力に尻尾を振ってしまっている状態ではあるのだけれど。


「意外でしたわね」

「うん?何が?」

「少し調べればどちらの噂にもリュカリュカが噛んでいることはすぐに分かることですわ。ですから、冒険者協会と役人とが一緒になってやってくると思っていましたのに」


 しかし、ミルファの予想とは異なり、どちらも険悪な雰囲気を醸し出すばかりで一向に動く様子はなかったのだ。


「普段から本当に最小限のやり取りしかしていなかったんだろうね。だからボクの拙い動きの真偽すら確かめ合うことができないんだと思うよ」


 お互い心の内でバカにしあっていて下に見ていたのだ。緊急事態だからと言って、そう簡単に歩み寄ることなんてできないのだろう。

 やれやれ、肥大化したプライドというのは害悪にしかならないものなのかもしれないね。

 人間、謙虚な気持ちを持つことが大事よ?


 結局、事態が進展したのは迷宮消滅の一報を受けたアホ領主御一行様が領都からやって来てから、となる。

 そしてその中には、どこかで見たことのあるローブ姿の人物が紛れ込んでいたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >お貴族様  ここまで持ち上げた言い方って、個人的にはやり過ぎの領域に入ってて、心の中で勝手に(笑)を付けて読んでいたりしますわ。 >どこかで見たことのあるローブ姿の人物が紛れ込んでい…
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