602 狙いを付けて
「戦うことなく自爆したのも、勝ち目がないと思っていたから、せめて道連れにしてやろうと意表を突いた行動に出た、と。……確かにあれは意表を突かれたわ」
一番は迷宮の管轄外にまで落ちてしまったアコこと、迷宮核だっただろうけれど。
本当は台座ごとシェルターとなる小部屋へと移動するはずだったらしいのだが、紙一重の差で間に合わずに台座上から吹き飛ばされることになったのだとか。
ボクたちがいくら探しても台座の破片すら見つからなかったのは、シェルターに格納されていたからだったという訳だ。
「ですが、直下こそ大きくえぐれて大穴が開いていましたが、部屋自体は崩壊するにはほど遠くしっかりと形を残していました。あの爆発でわたしたちの命を奪おうというのは、少々無理があったのではないでしょうか?」
「そこはどうやらアコが手を回していたみたいだよ」
こっそりと貯めていた迷宮の力を使って、爆発の直前に疑似ダンジョンマスターの周囲に障壁を張ったらしい。
シェルターに逃げ遅れてしまったのも、それが原因のようだね。
余談になるがこの迷宮の力、迷宮を強化したり広げたりするのに使用されるダンジョンポイントと呼ばれるものとは別のものらしく、アコ自身にもよく分かっていないものであるのだとか。
運営……、適当な設定を作るのは止めなさいよ……。
「もしも、ですわよ。もしもアコの障壁が間に合っていなかった、どうなっていましたの?」
「部屋中が荒れ放題のしっちゃかめっちゃかになっていただろう、だって。階段も壊れて、最悪の場合は地下十一階に立ち入れなくなっていた可能性もあったみたい」
迷宮には自己修復機能が付いているそうで、いずれはそれにより修復されたのだろうけれど、数か月から被害の程度によっては年単位の時間が必要になったかもしれないらしい。
「案外そっちの方が疑似ダンジョンマスターの本当の狙いだったのかもね」
「強引に地下十一階を封鎖して、迷宮の攻略をさせないようにした、ということですか」
「うん。最低でも数か月間はしのげる訳だし、そんなに長期間足止めされるくらいなら、見切りをつけて別の場所へと移動するだろうって考えたんじゃないかな」
他にも、ダンジョンマスターであれば地下一階で緋晶玉を採掘していたことは知っていたはずなので、一時的にでも攻略にストップをかけることで迷宮を攻略しようとしていた者と採掘をしていた者たちとの間で、利益をめぐって争いになると予想した、という仮説も立てられる。
もっとも、こうした諍いを確実に起こそうとするときには、後押しとなる一手が必要になるのだけれどね。
長らく迷宮自体が放置されていたこと、採掘の規模に対して攻略のスピードが圧倒的に遅かったこと等から、そうした場外乱闘に至るような手は打っていなかったものと思われます。
そもそもの話、この迷宮が攻略されるとは想像もしていなかったような気もする。
ともあれ、疑似ダンジョンマスターの突然の自爆には、そうした複数の意図があってのものだった、ということが判明したのだった。
「残るはあと一つ、最後の議題は『これからどうするか?』だね」
「このまま国境へ向かってもダメなのですわよね?」
「エルーニの話が嘘じゃないなら、国境は封鎖されてるみたいだよ。まあ、それ以前にこの領から出られるかどうかも分からないところだけど」
「協力関係にあったとしても、潜在的には敵ということですか……」
「まるで『三国戦争』以前の『風卿地方』の都市国家群ようですわね」
ミルファの話によれば、以前の『風卿エリア』にはそれこそ乱立するくらいの勢いで都市国家が作られていたのだとか。
それが『三国戦争』によって――言い方はあまりよろしくないけれど――間引きされることとなり、現在のような協力が主流の関係になったのだとか。
「都市国家間の距離も近かったので、対立や小競り合いも多かったと学びましたわ」
「なるほどねえ。確かに今の『火卿帝国』の状態に似通っているのかも」
そんな考察はさておき、問題はどうやってその面倒な領堺や国境を越えるのかということだ。
「これまたエルーニの話だと、偉い人からの紹介状とかがないと『火卿帝国』から出るのは難しいみたい」
「偉い人……」
「都合よく、当てはまるお人がいらっしゃいますわね」
キラリとミルファとネイトの目が、獲物を見つけた肉食獣さながらに光ったような気がする。まあ、ボクも人のことは言えなかったりするのですが。
「それじゃあ、こちらの事情をある程度説明しつつ、リシウさんに協力をお願いしてみるっていう方向でいいかな?」
「異議なしですわ」
「同じく」
ミルファたちに続いてうちの子たちも頷くことで同意を示してくれる。それならさっそく今晩にでも話をする場を設けてもらえるように話しておこうか。
今すぐに相談しない理由?ボクたちを監視していただろう部下の誰かが報告する時間を取るためです。
ボクたちにとって都合が悪い形での報告だったり、悪意を持つような報告だったりするかもしれないけれど、その時はその時ということで。
そういう信用が置けない人たちだったのだと、開き直って距離を取るようにすればいい。
騙されて捨て石やいけにえにされる前に気が付けて良かった、と前向きに考えれば問題なしなのです。
うちの子たちに『ファーム』へと戻ってもらってから、リシウさんに声を掛ける。
その際に微妙に頬を引きつらせていたあたり、早くもうちの子たち関連の情報が届けられていたのかもしれないね。素直や正直なのは美点だけれど、上に立つ人が腹芸の一つもできないというのは、色々と困ったことになってしまうのではないの?
うーん……。夜までぽっかりと時間が空いてしまった。
まあ、リアルが忙しくなる関係上、ゲームができる時間があまりないので今回はスキップ一択となってしまう訳ですが。
本当は食材になる魔物を狩ったり野草を採ったり、さらにはそれらを使って料理をしてみたりといった、スローライフ風な活動もしてみたかったのだけれどね。
うん。こんなことを今もリアルで忙しく動き回っているだろうボクの両親に聞かれたら、「そんなことをやっている暇があるなら、家の大掃除やお節料理の準備を手伝いなさい!」と言われること間違いなしだわ。
〇迷宮の力について
迷宮核、ダンジョンコア自身が蓄えた経験値。ダンジョンコアにはレベルアップがない代わりに貯めた経験値を特殊な形で使用することができる。
もちろん、迷宮内であることが前提。
テイムを行った<テイマー>でなければステータスを見ることはできない、つまり絶対数が少ないためプレイヤーにはほとんど知られていない。
ちなみに、ダンジョンポイントに変更することも可能。




