60 テイマーちゃんの新報告(雑談回)
プレイヤーたちの交流の場である『異次元都市メイション』には、今日も数多くのプレイヤーたちが訪れていた。
フローレンス・T・オトロがオーナーを務める酒場『休肝日』もまた、満員御礼となっているのだった。そんな中で給仕のフローラに扮したフローレンスは、客たちの噂話や雑談に耳を傾けていた……。
「なあ、テイマーちゃんの最新報告出ていたけど読んだか?」
「いや。普通のプレイ日記状態だから、ここ一週間の分は見てないな」
「俺も」
「一部のやつは時々無理矢理訂正したような所があるとか騒いでいたけど、あの噂って本当なのかな?」
「話の前後の繋がりがおかしな所があったらしい。俺には分からなかったけどな」
「おいっす!何だ今日は皆早いんだな。フローラちゃん、エールとおつまみね」
「はーい」
「それで、何の話をしていたんだ?」
「テイマーちゃんの報告日記のことだ」
「ああ、最新の話では久しぶりに色々あったみたいだな。いい燃料になったみたいで、どこの掲示板も盛況になっていたぜ」
「え?そうなのか?」
「エールとおつまみ、お待たせしましたー」
「ありがとさん。……俺も詳しくは読んでいないが、ついに街の外に出るクエストを受けていたな」
「なんだよ、それ。普通じゃないか」
「ここまではな。その後、数十匹のブレードラビットに囲まれたり、怪しい男に襲われたりしたらしい」
「事案か!?」
「なんだとう!?」
「落ち着け、お前ら。というかそういう反応は掲示板でやれ」
「うっわ……。どこのスレッドでも同じやり取りしてる」
「それで、テイマーちゃんはどうなったんだ?エッ君は無事なのか?」
「いや、今でも見られるんだから、気になるなら自分で報告書を読めよ」
「ああ、そう言えばそうだった」
「こうやって集まっていると、リアルでいる時と変わらないから、すっかり忘れていたぜ」
「ゲームの世界なのに、リアルと同じ男四人で集まっているとか、俺たち何やってるんだろうな……」
「や、やめろー!」
「それを言ってくれるな!」
「あ、フローラちゃん、エール追加お願い」
「はーい」
「おいそこ!一人だけ自分は関係ないって顔してるんじゃないよ!」
「え?いやだって俺、リアルで彼女いるし」
「ちっくしょー!!」
「リア充爆発しろ!!」
「というか俺たちにも幸せのおすそ分けを!」
「へいへい。機会があればな。それより報告日記は読んだのかよ?」
「今から読む!ちょっと待ってろ!」
「なんで偉そうなんだよ……」
「…………」
「…………」
「…………。さて、諸君。我々はどれから突っ込むべきなのだろうか?」
「発生したイベント自体はどちらも大して珍しいものではないんだよな?」
「ああ。『突然の襲撃』も『伝説の騎士』も発生条件自体は簡単にクリアできるし、どこの地域で始めても出現させられるイベントだ」
「ええと……、『突然の襲撃』はどこかの街の有力者と繋がりができたことで発生するようになって、『伝説の騎士』の方はNPCとパーティーを組まずに十回以上クエストを受けるのが条件、か」
「テイマーちゃんの場合、ブラックドラゴンのことでクンビーラの騎士団とか衛兵隊と仲良くなっているから、それがトリガーになったんじゃないか」
「支配者の公主と会う約束をさせられていたから、そっちじゃないのか?」
「案外デュランかもしれないぞ。冒険者協会の支部長様だからな」
「どれもあり得そうだよな。で、内容としては対立している所から刺客が送られてくるっていうベタな展開なんだな」
「発生条件と内容がそれだから、『突然の襲撃』は有力貴族同士が対立している火卿帝国エリアでは割とお馴染みなイベントだそうだ。刺客のレベルは高いけど、イベントの発生で仲間になる臨時NPCはもっと強いから、ボーナスイベント扱いされているってよ」
「テイマーちゃんは『竜の卵』の影響でイベント発生が通知されなかったから、臨時NPCなしで戦う羽目になったということか」
「臨時NPCなしで挑戦したプレイヤーがいるんだが、もれなくボコボコにされて死に戻りしたって掲示板に書きこんでいた。テイマーちゃん、よく無事だったな……」
「『伝説の騎士』が同時発生したお陰で助かったっていうところだろうな。その後も話の進め方次第ではしばらくの間パーティーメンバーになってくれるお助けNPCだから」
「しかし、出てきたのがリビングアーマーとはなあ……。家督を譲って気ままに世界を旅して回っている老騎士が定番キャラらしいんだが」
「おう。俺が会ったのはグレゴールっていう爺さんだったな。土卿のジオグランドエリアだとその爺さんになるみたいだ」
「まとめサイトによると、火卿だとタムフン、水卿ではリアス、風卿はイドシアンになるんだと。有志による統計では約半数が爺様パターンで、イベントタイトル的には伝説と呼ばれるほど強かった、ということになる」
「その次に多いのが武者修行中のどこかの若君だったよな」
「男装の実はご令嬢だったっていう話をどこかで見たことがある気がするんだけど?」
「残念ながら、その話はデマだ……」
「ちくしょう!純真な男心を弄びやがって!」
「あー、まあ、その二つで大体八割を占めているそうだ」
「残る二割は?」
「テイマーちゃんが遭遇したリビングアーマーに、濡れ衣を着せられて逃亡中の騎士、後は家族を襲った魔物を探して復讐の旅をしている元貴族、だな。どういう流れで『伝説の騎士』なのかはまとめサイトでも見てくれ」
「テイマーちゃん、ここでも低確率なレアパターンを引いちゃったのか」
「レアパターンだから良いかどうかは微妙だけどな。爺さんや若君と違って、こっちはパーティーメンバーには入ってくれなかったらしい」
「テイムはどうだ?できなかったのか?」
「試したプレイヤーがいないって言うのが本当のところのようだ」
「テイマーになるくらいのやつなら、大抵は好みの魔物の姿や形があるからな。それ以外の魔物をテイムしようとは普通は考えないわな」
「成り行きとはいえ、好みでもない魔物をテイムしたテイマーちゃんの方が変わってるってことだよな。まあ、本人もモフモフじゃない二人だって突っ込んでたけど」
「そういえば子犬とか子猫みたいな魔物ばかりをテイムして、モフモフワールドを作るのが野望だって書いてあったな」
「エッ君は卵のボディにドラゴンっぽい尻尾と足だろ。で、今回仲間にしたリビングアーマーは全身鎧だし……。モフモフとは正反対のツルツルとかスベスベばかりじゃないか」
最後の客の一言に、思わず吹き出しそうになるフローレンスなのだった。




