56 カポッと外れる
そのインフォメーションが表示されたのは、破れかぶれな攻撃を仕掛けてきたおじさんを、鎧の人が怒涛の反撃で倒しきった直後のことだった。
ちなみに、武器を持っていた右腕を突き刺し「ぎゃっ!」その後で右脇腹「ぶほっ!」と左肩を柄の部分で強打する「ごふっ!」という三連続攻撃だった。
それをわずか数秒の間で流れるように行ったのだから、その腕前は相当のものだと予想された。少なくとも今のボクでは逆立ちしても勝つ事はできないだろうね。
はい、そこの人!「逆立ちした方が難易度高くなるんじゃね?」的な突っ込みはなしでお願いします!
そんな風に結果から見れば圧勝した後、鎧の人はボクの前にやって来ると恭しく貸していた槍を差し出してきたのだった。
「ありがとう。そしてお疲れ様です」
と労いの言葉をかけて槍を受け取った直後のことだった。
《リビングアーマーが仲間になりたそうにしています。テイムしますか?》
いつものポーンという軽い電子音と共に、その言葉が視界に表示されたのでした。
「は?え?はあ!?て、テイム?……あなた、魔物なんですか?」
NPCだとばかり思っていたため、その時ボクの口から飛び出したのは、そんな微妙な問いかけだった。
それに対してコクリと頷いた鎧の人改めリビングアーマーさんは、証拠を見せるとばかりにカポッとその兜を取り外した。
その下には顔や頭に当たるものはなく……。
「んっきゃあああああああああーーーーーーーーーーーーー!!!!!?!?!?!?」
ボクはあらん限りの大声で悲鳴を上げることになってしまいましたとさ。
どれだけ大きな声だったかというと、数キロ離れていたはずのクンビーラの街中にいてなお聞こえたというくらいだから、とんでもないものだ。
いやあ、ゲームの中じゃなければ声が枯れるどころか、喉が裂けるか潰れるかしてしまっただろう。
その代わり間近で聞く羽目になったエッ君は、しばらくの間くらくらしていた。ごめんね。
そんな経緯があったため、鎧の人にはボクが答えを出すまでの間、反省の意味も込めてじっとしてもらっていたのだった。
さて、仲間に加えるかどうかなのだけど、実のところ、既に決定していたりします。
見ず知らずだったはずのボクたちを助けようとしてくれたことやプラカードでのやり取りなど、このリビングアーマーさんが信用できるというのは分かっていた。
戦力的な面では申し分なさそうどころかこちらから頭を下げたいくらいだし、それに何より、エッ君が嫌がる様子もない。これはかなりの好物件ですよ!
それじゃあ、どうしてつれない態度を取っていたのかというと、リビングアーマーさんの側にもボクたちを見定める時間を与えるためだった。
だってこのままだと不公平じゃない。
普段、と言うとちょっと語弊があるかもしれないけれど、まあ、それに近いボクたちの様子を見てもらって、そこで改めて判断してもらおうと考えたのだ。
冷静になる時間を与えたという訳だね。そうしたことが必要なのではと思うほど、リビングアーマーさんの申し出は唐突であり、しかも熱っぽさを感じるものだったのだ。
はい、正直に言います。リビングアーマーさんから、里っちゃんに一目惚れしちゃった人たち――老若男女を問わないところがまた……――と同じ気配を感じ取りました。
まさか自分があの視線を向けられることになるとは思わなかったよ。いや、はっきりと目がある訳じゃないみたいだけどさ。
問題なのは、こういう熱病には多分に一過性なところが含まれているということだ。リアルを始めとした普通の関係であれば、熱が冷めた時には改めて適当な関係を作ることができる。
だけど、ボクたちの場合はそうじゃない。マスターとテイムモンスターという間柄はずっと続いていくことになるのだ。
しかもリビングアーマーさんからすれば唯一無二のマスターということになる。じっくりと、とまではいかないにしても、少しくらいは考える時間を上げるべきだろうと思う。
そんな思いから放置、もとい時間を置いてみたんだけど……。
なんだかかえって悪化してしまっているような気がする。
ずっと頭を下げたままで微動だにしていよ……。多分「忠誠心を試されている」的な状態だと勘違いしているんじゃないかな。
まあ、それもボクの勝手な予想ではあるんだけど。
「ふう……。頭を上げてください」
こういう人は自分の中で上下関係ができてしまっているので、お願いという形では受け入れてくれないことも多い。なので、柄じゃないと理解しながらも命令口調です。
「もう一度だけ確認しておきます。ボクのテイムモンスターになりたいということだったけれど、そうなってしまえばキャンセルはできなくなるよ。それでも良いの?」
ボクの問い掛けにぶんぶんとすごい勢いで首を縦に振るリビングアーマーさん。
ちょっ!?あまり激しい動きは止めて!
その……、また頭が取れちゃいそうだから……。
トラウマとまではいかなかったものの、不意打ち気味だったのでまだ心の中で折り合いがついていないのだ。
「分かった。あなたの熱意と想いは受け取ったよ。〔調教〕!!」
ふわりと柔らかい光がボクの頭から飛び出していったかと思うと、リビングアーマーさんへと吸い込まれて行く。
エッ君の時にもあった演出だね。再びリビングアーマーが格式ばった格好で頭を下げると、エッ君が嬉しそうにその周囲を走り回っていた。
《リビングアーマーをテイムしました。これよりリュカリュカ・ミミルのテイムモンスターとして扱われるようになります》
これで二人目が仲間になった。確か初期レベルで〔調教〕できる魔物は二体までだったので、これでしばらくの間は仲間を増やす事はできないことになる。
でも、五の倍数のレベルになるごとに一枠増えるはずなので、それほど困るようなことにはならない、と思う。
ただ……、ゲームを始めた目的であるモフモフとは全く関係のない子たちばかりとなってしまっているというのがなんとも……。
だからと言って、ぶちゃいくなトゥースラットとブレードラビットでは仲間にする気にはならないかな。やはりその辺りは縁次第ということなのかもしれないね。
《テイムしたリビングアーマーに名前を付けてください》
相変わらずこちらの感傷とか情緒というものを一切無視してくるね、このインフォメーションさんは……。
「名前かあ……。えっと、それじゃあ『リーヴ』でどうかな?」
エッ君に比べればまともだけど、最初の二文字をもじっただけ。ほら、名は体を表すというからね。変にこねくり回してつけるよりも、こうしたシンプルなものの方が良いこともあるのですよ。
それに、本人もどうやら気に入ってくれたようだし。
はい!そんなこんなで二体目は新キャラでリビングアーマーのリーヴとなりました。
実は二体目は新キャラにしようと最初から考えており、エッ君が登場した辺りでリビングアーマーにすることも決定していたりします。
細かいステータスについては次回紹介します。




