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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五章 街の外へ

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52 小さな騎士様

 突如現れた白銀のその人は、木漏れ日を浴びてキラキラと輝いているようにも見えた。

 が、それよりも何よりも特徴的だったことがあった。


「あれ?なんだか小っちゃい?」


 なんとボクの半分ほどの背丈しかなかったのだ。

 五月人形の西洋鎧版とでも言えば、イメージが思い浮かぶだろうか。


「ああ。小さいな……」


 ボクとおじさんの共通した感想に、鎧兜の人はワタワタしたかと思うとプラカードに『小さい言うな!』と書いて掲げてきたのだった。


「ご、ごめんなさい」


 そのあまりの剣幕に、慌てて頭を下げるボクとおじさん。

 どうやらこの人に『小さい』は禁句のようだ。


「って、そうじゃねえよ!どうして後からしゃしゃり出てきたやつが偉そうに場を仕切っていやがるんだ!」

「あ、おじさんがキレた」

「俺はおじさんじゃねえーー!!」


 ボクの呟きに絶叫するおじさん。血涙すら流しそうなその様子にボクたちや鎧の人ばかりでなく、ブレードラビットたちですらドン引きしていた。


「くそっ!こうなったら全員ぶっ殺してやる!」


 おおう!三流悪役の定番行動「面倒になったから皆殺し」がでたよ!

 性格はともかく、こういう基本に忠実な動きには好感が持てるかもしれない。ボクに被害が及ばないところでやってもらえたならもっと良かったのだけど。

 しかもこのままだと、鎧の人をなし崩し的に巻き込んでしまいそう!?


「このままだと危険だから逃げてください!」


 慌ててこう言ったのには、この人が本当に味方かどうか分からないという事情もあった。仲違いしたように見せかけて実は!という可能性もないとは言い切れないからだ。

 まあ、おじさんのあのキレっぷりからすると、深読みのし過ぎという線が濃厚だけど。

 案の定、鎧の人はボクの提案に対して首を横に振っていた。そして手にしたプラカードには、


『か弱い少女を多勢で襲うなど、我が騎士道にかけて見過ごす事はできない!微力ながら加勢する!』


 と書かれていた。


「はんっ!今さら一人増えたところで、俺様のウサウサタイフーンを止められるものかよ!」


 随分可愛らしいお名前ですね!?

 いやもう、何がびっくりって、その名前が一番びっくりだったよ!


『結果など、やってみなければ分からない!』


 カッコイイ台詞を書いたプラカードを放り投げ、鎧の人が取りだしたのはボロボロになった剣と盾だった。鎧がピカピカなこともあって、余計にみすぼらしく見えてしまう。


「ギャハハハハ!なんだそれは?鎧を買うのに有り金をつぎ込んだのかよ!」


 挑発に乗るつもりはないということなのか、おじさんの嘲笑に鎧の人は何の反応も示すことはなかった。ちなみに、鎧は先祖伝来の品というのがボクの予想です。


 そんなやり取りを見ながら、ボクはこっそりとエッ君に話しかけていた。


「〔不完全ブレス〕の使用を許可します。命の危険を感じたら迷わず使いなさい。あ、できれば街には被害が出ないように気を付けてね」


 コクリと頷くエッ君。これでいざという時には、この子だけは生き残ることができるような気がする。

 ただ、鎧の人や敵とはいえおじさんも巻き込んでしまうことになるだろうから、そうなると結局はリセット行きになってしまいそうだけど。


 さて、鎧の人とおじさんはというと、まだにらみ合いを続けていた。そしてそうなると必然的にブレードラビットたちも動けなくなっている訳で……。

 思わず「このまま逃げちゃってもいいかな?」なんて素敵な考えが浮かんできてしまう。さすがにそれを実行に移すことはないにしても、せめてこの間にボクたちが有利になる方法くらいは考えておきたい。


 ボクたちにとって一番不利な点となると、やはり人数が少ないということだろうか。言い換えるなら、敵の数が多いということだね。

 ただし、そこはブレードラビットなので攻撃を当てることさえできれば、倒すまではいかなくても戦闘不能にさせることは容易い。

 つくづくニードル系の魔法を習得できていないことが悔やまれる。


 ……ちょいとお待ちなさいな。一応、ボール系の魔法でも範囲攻撃は可能だ。それほど実用的じゃないとされているのは、破裂した後の威力がニードル系よりも低いためだ。


 だけど、ボクはそれを高めることができるやり方を知っている。

 そう、MPを過剰積み込み(オーバーロード)してやればいいのだ。


 ゾイさんが見せてくれたお手本通りになれば、最初のボール部分も巨大化することになるはず。上手くいけば数匹どころか十匹以上を一度に倒すことだってできるかもしれない。


「エッ君、こんな作戦を思い付いたんだけど……」


 こしょこしょと話すと、興奮したように何度も頷いている。ボクが言えたことじゃないけど、この子もかなり悪戯好きな部分がありそうだ。


「多分、かなり混乱すると思うから、エッ君は残ったブレードラビットたちをやっつけて回ってね」


 クンビーラの冒険者たちと訓練できるこの子なら、おじさんを相手にしても大丈夫な気もするのだけど、せっかく助けてくれるというのだから鎧の人に見せ場は譲るべきだと思う。

 エッ君に怪我をさせたくないというのもある。攻撃系の能力は高いけど、意外と防御系の能力は低いんだよね、この子。


 まあ、その代わりと言っては何だけど、魔法を使った後でボクが鎧の人の回復役に回るつもりでいる。さすがにこんな事態は予想していなかったけど、回復系のアイテムはいくつか買い込んであるのだ。

 それがなくなる前に、何とかおじさんを倒してもらいたいところだね。


 心の中で【アクアボール】と唱えながら、そこにMPをさらに注ぎ込んでいく。

 この感覚は人によって異なるものらしくて、例えばゾイさんであれば何重にも同じ魔法を重ねていく形となる。実はあの多重魔法展開という離れ業は、こうした鍛錬によって使用できるようになったものなのだとか。


 クンビーラの冒険者協会支部長であるデュランさんの場合、最初から大量のMPを消費して魔法を完成させるのだそうだ。

 ただ彼は、「すぐに中級や上級の魔法を覚えたから、それほど使うことはなかったよ。禁断の法とまではいかないにしても、過剰積み込み(オーバーロード)には失敗の危険が常に付きまとうから」とも言っていた。

 全くもっての正論なのだけど、それって要するに魔法系技能の熟練度が上がり易かったということだよね?

 これだから天才は!と胸の内で毒づいたことは秘密です。


 ちなみに、この失敗の危険があることが過剰積み込み(オーバーロード)を使用できる人口が増えず、技能として定着しない一番の原因ということらしい。

 まあ、この辺りの事情はゲームのシステムとの兼ね合いもありそうだけどね。


 そんなことを考えながら、魔法を放つ機会をじっと伺っているのだった。


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