50 叱ります!
こんにちは!新米テイマーのリュカリュカです。
早速ですが今ボクは、テイムモンスターのエッ君と一緒に絶体絶命のピンチに陥っています。
相手は初期の魔物であるブレードラビット。あ、そこの呆れかえった顔をした人!話しは最後まで聞いて!
問題はその数です。何と目算で五十匹以上もいたのだ。
何とか囲みを脱出しては、近くにあった林に逃げ込んで各個撃破をしていったのだけど、多勢に無勢で少しずつ追い込まれてしまい、ついにボクは武器を取り落とし、エッ君は気絶させられてしまったようだ。
「と、客観的に見てみたけれど、このっ状況を引っ繰り返せるようなナイスでグッドなアイデアは思いつかないね……」
下草に紛れてエッ君を見失ってしまったためか、立ち上がったボクを一斉にブレードラビットたちが睨みつけてくる。
その数およそ十。距離を取ってこちらを伺っているものもいるだろうから、総数は倍の二十匹はいると思われる。
元の数があれなので、かなり減らすことができたと言えるだろうけど、それでもまだ多い。全滅させるのは……、まあ、無理だろうね。
「ふう。……これは覚悟を決めるべきかな」
冒険者という職業が過酷だということは、協会の職員さんたちにゾイさんやサイティーさんからも聞いていた。
おじいちゃんとデュランさんに至っては出かける前に注意をしてくれたほどだ。
にもかかわらずボクは、街のすぐ近くだから、初期の魔物しか登場しないはずだからと油断をしてしまっていた。
「こういう時は【送還】でサモンモンスターを安全圏に送れる〈サモナー〉の方が便利だなと思えるね」
だけど〈テイマー〉であるボクには、そんな都合の良いものはない。何とかしてエッ君の所に辿り着いてアイテムを使って回復し、エッ君が逃げ延びるまでボクが囮となる……。これしか方法はなさそうだ。
「だけど、エッ君が素直に言う事を聞いてくれるかなあ……。あの子、結構頑固なところがあるんだよね」
アウラロウラさんから貰った帰還の首飾りを見せれば説得できるかな?
まあ、それもこれもエッ君を回復させてからの話だ。
まずは初心者用回復薬を一つ取り出して自分に振りかける。エッ君の所に辿り着く前に倒されてしまったら、お話にならないからだ。
キッ!と近くの一体を一睨みして、
「【ウィンド――」
「ブブゥ!」
かかった!
散々仲間たちがやられた魔法だからか、その単語に反応して一斉にブレードラビットたちがこちらへと向かってくる!
「ふふん!フェイクだよ!」
飛びかかってきた一体を華麗にかわして、一気にトップスピードまで加速して倒れたままのエッ君の所へ。
走りながら取り出した初心者用回復薬を振りかけると、すぐに意識を取り戻していた。
「はあー。良かった」
とはいえ、ようやく計画の第一段階が終わったというところだ。ここからエッ君を逃がして、さらにボクはその逃げる時間を稼がなくちゃいけない。
で、当のエッ君はといいますと、気絶させられたことがとっても悔しかったのか、これまで以上にやる気になっていました。
もはや殺る気といっても過言ではない気がする。
うわー……。これを説得しなくちゃいけないのかあ……。かなり苦労しそうだよ。
「エッ君ここから逃げ――、っていない!?」
抱き上げる暇もなければ言い聞かせる暇もなく、ブレードラビットの群れの中へと飛び込んで行く!?
それは頭に血が昇ったなどという生易しいものではなく、怒りに我を忘れているとでもいうべきものだった。
「ブフ!?」
「フギョ!?」
あちらからの攻撃を気にも留めず、次々に巨大ウサギへと襲い掛かっていく。爪で引っ掻きながら蹴り飛ばし、尻尾で弾き飛ばす。
「そ、それ以上はダメだよ!」
その一方で、鋭い耳の刃で切り付けられ、発達した後ろ足で蹴りつけられと回復したはずのHPがあっという間に削られていってしまう。
傷付くことをかえりみず、目前の敵を倒し尽くそうとするその様は、里っちゃんから聞いたことのある狂戦士のようだった。
殺戮の意思だけを振りまくその姿に、薄ら寒いものを感じる。
まるでエッ君がこのままどこか遠い所へと行ってしまいそう。
「そんなことさせるもんか!」
例え未熟だろうが何だろうが、ボクはあの子のマスターなのだ。頑張れば誉めてあげるし、間違っていれば叱ってあげなくちゃいけないのだ。
そして、勝手にどこかへと行くなんてこと、絶対に許せるはずがない!
「止まりなさい!!」
出せる限りの大きな声で叫ぶと、その場にいたものたちが一斉に動きを止めた。
あれ?一体何が……?
と、ともかく、原因を考えるのは後回しにして、今はやるべきことをやらないと!
「エッ君、戻ってきなさい」
ビクリと卵の体が跳ねる。
うん。しっかりと悪いこと、というかボクの言う事を聞かずに暴走してしまったという認識はあるみたいだね。
「はーやーくー!」
そう言うと、すごすごといった感じでボクの所へと帰ってくるエッ君。
あーあー……。こんなに傷だらけになっちゃって。涙で視界が滲むのを堪えて、アイテムボックスから初心者用回復薬を取り出して中身を振りかける。
キラキラとしたエフェクトが浮かび、エッ君の体に刻まれていた無数の傷が消えていった。
それを見た瞬間、エッ君が無事であることが胸の中一杯に広がっていった。後はもう、無我夢中で彼を抱き上げて、大きな声でわんわん泣いた。
「無茶ばっかりして!後でお説教なんだからね!」
一際強くぎゅっと抱きしめると「ごめんなさい……」と言うように、体を擦り付けてくるエッ君。良かった。この子が無事で本当に良かった。
この時はただ、その事だけを考えていた。
さて、残ったブレードラビットたちだけど、彼らもまたこの場に残ったままだった。その事に気が付いたのは、一しきり大泣きしてようやっと落ち着いてからのことだった。
魔物であっても、泣いているところを見られるのは無性に恥ずかしいものがあるのだと、この時初めて知ったのでした。
いや、リアルには魔物とかいないから初めてなのは当たり前の話なんだけど。
……ダメ。まだ何だか混乱したままになっている感じがするよう。
それにしても、どうしてこんなにたくさんのブレードラビットたちが集まっていて、しかもいきなり襲ってきたのだろうか?
相変わらず混乱したままのボクたちに事情を説明してくれることになったのは予想外の人物だった。
その人は登場するなりこう言ったんだ。
「ん?どうして俺が操っていた魔物どもが大人しく座り込んでいるんだ?」
つまり、この人が諸悪の根源ということでファイナルアンサー?




