499 テストは続くよ
AIではあれど『OAW』内ではすっかり幹部的な立場のアウラロウラさんならば、ホームページに掲載されたうちの学校のスケジュールなど簡単に調べることができたことだろう。
「プレイヤーの皆様のリアルでの情報を漏らすようなことはありませんのでご安心下さい」
「えーと、まあ、その心配はしていないです、はい」
付き合いの期間的にはまだ半年程度でしかなかったが、これまで色々なことがあったお陰と言いますか、ボク主観ではその都度彼女を始め『OAW』運営の人たちは真摯に対応してくれていたように思う。
だから、その言葉にも特に疑いを持つ気にはなれなかったのだった。
それではボクが一体何に衝撃を受けていたのかと言いますと……。
「もうすぐテスト。つまりまたテスト勉強をしなくちゃいけなくて、またまたゲームができる時間が先延ばしになることに……」
やっと、やっとこれで思う存分『OAW』の世界に浸ることができると思っていたのに……!
まあ、勉強の合間の息抜きに、多少ならばログインすることもできるだろう。
だけどゲーム内でのボクたちは、魔法陣か何かによってどことも知れない場所に飛ばされていたのよね。そのことを考えると、短時間では毎度自分たちの置かれている状況を思い出すだけで時間切れになってしまいそうだった。
焦って動き回ることで取り返しのつかない展開を引き寄せてしまう可能性だってある。
いつものごとくランダムイベントが発生するだけならまだしも、ワールドイベントの『天空の島へ至る道』と絡んで、消える魔球とか分身する魔球のようなとんでもない変化球になって登場してくるかもしれないし……。
一応拠点にできそうな場所はあったから、いっそのことお話を進めることはしないで、周辺に出てくる魔物をやっつけてレベルアップに励もうか?
……ああ、でも回復薬とか食料などの消耗品の類が心細くなっていた覚えがあるなあ。
さらに下手にレベルアップしてしまうとクラスチェンジに引っ掛かってしまいそうなのよね。まあ、やり直す手段はある――課金系のアイテムだそうで、お高いものだとNPCにも使用可能なのだとか――ので、そこまで深刻になる必要はないという意見が現状の主流になっているらしい。
とはいえ、アルバイトをするでもなく親からお小遣いを貰っている身としては、あまり無駄遣いはしたくないと思ってしまう訳でして。
それに、やり直すことばかりを繰り返していると、キャラクターからも世界からも距離を置くようになってしまい、楽しめなくなってしまいそうな気もするのだ。
もちろんこれはあくまでもボクの個人的な考えだ。トライアンドエラーを繰り返すような遊び方だってアリだとは思う。
ゲームだからね。最終的には楽しんだ者勝ちですよ。
「はあ。次のテストが終わるまでは、クラスチェンジ後の一次上位職のこととか、エッ君たちテイムモンスターの進化先のことを調べることで我慢するしかないか」
プレイヤーやNPCなどのキャラクターが二十レベルで一次上位職にクラスチェンジできるようになるのと同じく、テイムモンスターやサモンモンスターはより強力な種族に進化できるようになるらしい。
どうして断定ではないのかというと、魔物ごとに進化できるレベルが異なっているからだ。
特に<サモナー>のサモンモンスターは最初から強力な魔物を〔召喚〕することができるため、進化可能レベルがやたらと高く設定されていることもままあるのだとか。
対して<テイマー>の場合は、戦力増強の意味合いもあってゲーム開始直後の弱い魔物を〔調教〕することが多いため、プレイヤーと同じレベル二十で一回目の進化が発生することが多いそうだ。
ただねえ……。エッ君にリーヴそしてトレアと、何と全員ランダムイベントによって遭遇するという普通とは異なる出会い方をしている。チーミルとリーネイに至っては、それぞれミルファとネイトの分身のようなものとも言える。
そのため、うちの子たちはゲーム内でどれくらいの強さの魔物であるのかが、いまいちよく分かっていなかったりするのよね。レベル二十では何も起きないという展開も大いにあり得るのだった。
「ふうむ……。ワタクシどもとしましても、これ以上長くリュカリュカさんがログインできない、『冒険日記』の更新が行われないというのは痛手になってしまうかもしれませんね」
おっと。アウラロウラさんがいるのを忘れて、すっかり自分の考えにのめり込んでしまっていたよ。
「ご迷惑をおかけします」
頭を下げつつも、ボクや『冒険日記』を持ち上げ過ぎなのでは?とも思ってしまっていた。
「いえいえ。リアルでの生活があってこそのものだということはよく理解しておりますので。テスト結果が悪くて長期間もしくは永遠にログインを禁止されてしまう、などということになってしまえば、それこそ大問題ですから!どうか、無事に試練を乗り越えて下さい」
「あ、はい。了解です」
拳を握り締めながら力説してくるにゃんこさんの勢いに、首を縦に振るしかできないのでありましたとさ。
「とはいえ、一プレイヤーであるリュカリュカさんに頼りきりになるというのもおかしな話です。これは何か手を打つことも考える必要がありますね」
ふと冷静さを取り戻したアウラロウラさんは、しきりに何かを考えるような動きをし始めたのだった。
そして、この会話からおよそ十日後、新機能の『英傑召喚システム』が実装されることになる。
これは「他プレイヤーを自分のワールドへと召喚して、一緒に攻略を行ってもらえる」という機能だ。
夏の合同イベントよりもさらに前から告知だけは行われていて、ゲームへの没入を防ぐためのシステムの一つという名目で、開発自体はゲーム開始以前から進められてきたものだったらしい。
ある意味満を持しての登場ということになるのだけれど、一部のプレイヤーからは「どうして特に節目でもない時期に?」という疑問が噴出したそうだ。
実はこんな裏話があったのでした。
もっとも、ボクがそのことを知ることになるのは随分と先のことなのだけれどね。
こうしてボクは、ゲームができないことを上手く昇華……、できたのかどうかは微妙なところだったけれど、先の中間テストに続き期末テストも大きなミスもなく乗り越えることができたのだった。




