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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十四章 リアルの平凡かもしれない日常

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496 火種

「どこかのバカがやらかしたわ」

「どこかのおバカがやらかしてくれました」


 ほぼほぼ同じ台詞を、ボクはリアルと『OAW』の両方で聞くことになった。なんでも開演前に撮影禁止を言い渡していたのに、あの演劇をこっそりと無断で動画撮影した挙句、これまた誰の許可も受けず――まあ、誰にお願いしようとも絶対に許可は下りなかっただろうけれどね――にネットにアップしたおバカさんがいたらしいのだ。

 しかもご丁寧に、『リアルテイマーちゃん見つけた』などというタイトルまで付けて。


 余談だけど、前者が雪っちゃんで後者がアウラロウラさんになります。


 先にも述べた通り、冒険日記は『OAW』運営に権利があり、二次創作はプレイヤーが特定されないように配慮するという暗黙の了解が存在していた。

 今回の演劇に関しては、あらかじめあらすじと内容を報告するという形を取ることで、学生会がしっかりと運営から許諾を貰っていたそうだ。


 ボクと里っちゃんの悪巧みによるストーリー改変については……、一応の許容範囲内だった――ただし、相当黒寄りのグレーゾーンだったらしい――という扱いでお咎めなしとなりました。


 一方、おバカの方は当たり前のように申請や打診を行っておらず、完全に著作権並びに肖像権の侵害という違法行為となる。


 ちなみに劇の撮影だが、本来は周囲の迷惑にならないなど基本的なマナーを守る前提で許可する予定だったそうだ。

 それがどうして禁止になったのかというと、


「三峰さんに代役をやってもらうことが決まったから、こちらも急遽禁止にしたのだけど……。ごめんなさい。見通しが甘かったわ」


 ボクや里っちゃんに気を遣ってくれた結果でした。

 そして、文化祭翌日の代休の日にわざわざボクの家まで謝罪に訪れてくれた田端会長はかなり憔悴している様子だった。


「いいえ。そうやって気にかけてくれていただけでも嬉しいです。でも、せっかくの晴れ舞台だったのに、他の出演者の人たちに申し訳なく思っちゃいますね」

「そこは気にしなくても平気よ。記録を取っておくという建前で学生会と演劇部の両方が動画撮影をしていたから。関係者には家族や知人にだけ見せる、複製は絶対に作らせないことの二つを条件に、データを渡すことにしてあるの」


 うちの学校の学生は全員その「知人」の枠に入るので、学生会や演劇部の人たちに頼めば見るだけならばできるのだとか。

 これは体育館で行われていた他の出し物や演目に対しても同様で、見に行きたくてもクラスや部の当番で動けない人たちへの配慮であるそうだ。


 ボクたちのクラスでも長谷君などは文化祭実行委員としての仕事の時以外は、責任者としてほぼ教室に常駐することになっていたからね。その場から離れられなかった、という人は学内全体で見ればそれなりの数に上っていたのだろうと思われます。


「そういった事情などを色々と話しましてですね、犯人は外部から見物に来ていた人物ではないか、という結論に達しました。なので不備はあったとは思いますけど、できればうちの学校の人たちには温情のあるお沙汰をお願いしますです」


 その日の夜、ログイン先のキャラクターメイキングの際を連想させるような何もない空間で、学校の代表者として、そして悪乗りしてしまったことも含めてアウラロウラさんに頭を下げる。


「頭を上げてください。確かに監視が甘かったり内容の変更が元で騒ぎが大きくなってしまったりした部分はあります。が、そもそも今回の問題は禁止されていたのに無断で動画を撮影して、しかもネットにアップするという犯人のモラルの欠如に起因しています。むしろ、リュカリュカさんが在籍なさっている学校側の対応は誠実で丁寧なものでしたよ。……まあ、もう少し早く連絡を頂きたかったというのも、本音ではありますが」


 ああ、うちの学生会の場合、九月の末頃に選挙が行われるから……。

 新規の学生会が動き出してすぐに文化祭の出し物の話し合いを始めたとしても、『OAW』運営に連絡を取るのは十月に入ってからになったことだろう。つまりは本番まで一カ月を切った頃となる。

 ボクたち学生よりも忙しい――だろう――社会人の皆様からすれば、「もっと時間に余裕をもって行動して欲しい……」と感じたとしても不思議ではないかもね。


「対外的な面子や、今後同様のことがないように釘を刺すという意味で、今回の件に対する我々の立場や意見を掲載することにはなりますが、関係者を責めるつもりは毛頭ないと、あらかじめリュカリュカさんの学校には一報を入れさせて頂く予定でいますので」


 ふむふむ。それなら会長さんたちが落ち込む心配はないかな。


「それと同時進行で、法的手段に訴えることを決定しました。既に著作権の侵害で警察には被害届を出しています」


 ほうほう。そちらは大いにやって頂きたいものですな。ボクだって犯人に対しては色々と思うところがあるし、ともすれば怒りすら感じていますので。

 だって、学校行事も終わってこれでようやく落ち着いてゲームを再開できると思った矢先にこの騒ぎだからね。出鼻を挫かれたどころか、スタート地点に巨大な障害物を配置されたような気分となっていたのだった。


 ちなみに現在、問題の動画は発見され次第片っ端から削除されているそうです。とはいえ、個人でダウンロードして保存してしまった人もいるだろうからねえ。

 全てを消し去ることはできないだろうから、今後もネット上にアップされては消去するといういたちごっこが続くことになると思う。


「……あの、リュカリュカさん?何だか随分と落ち着いていらっしゃるようなのですが?」

「え?ああ、まあ、別に焦ったりはしていませんよ」

「意外ですね。こう言っては失礼ですが、もっと取り乱していると予想していました」

「そういう反応になっても不思議じゃないので、気にしませんよ」


 見知らぬ方面からいきなり素顔がネットを通じて全世界に晒されてしまった訳だから、驚いてパニック状態に陥ってしまう人だって中にはいることだろう。


「ただ、ボクはあの子と一緒にいることが多かったので」


 里っちゃんと一緒に遊びに行けば、やれパンフレットのモデルになってくれだの、やれローカル雑誌や番組の街角インタビューに出演してくれだのと声を掛けられることはざらだった。

 そういう事情もあって、彼女もボクも正規のメディアへの露出に関してはそれほど神経質ではなくなっているのだよね。


 どちらかと言えば、隠し撮りをされる方が気持ち悪いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつの時代になってもネットの恐ろしさを知らない人は変わらないですねぇ... ネット上に出したものは面白いものも楽しいものも、そして罪も、無限に拡がって絶対に消えることが無い 忘れてはいけない…
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