表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十四章 リアルの平凡かもしれない日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

493/933

493 舞台3 本気で

 避けられるはずの一撃を撥ね上げられてこちらが驚く一方で、あちらはあちらで「やっちゃった!?」という顔をしていた。

 どうやら半ば無意識に体が反応してしまい、ゲーム内での慣れた行動をとってしまった、ということであるらしい。多分、敵の攻撃を受け流すなりはじき返すなりして隙を作り、そこに切り込んでいくというのが彼女の基本戦法の一つなのだろうね。


 真夏の合同イベントの時には分からなかったことだから、少しは成長したということなのだろう。

 もっとも、あの時はリアルの今とは違ってレベル差によって能力値が大きく違っていた上に、目の前の動きに付いていくのが精一杯だったので、単純に比較はできないかもしれないのだけれど。


 さて、と……。そろそろ現実から眼を逸らすのは止めにしましょうか。

 こちらの攻撃が阻まれたこと、それ自体は実は大したことではなかったりするのだ。先にも述べたように、元々互いの初撃は避けることになっていたからね。それが弾くという形となっただけの話なのです。


 問題なのは、リアリティと真剣さを醸し出すために攻撃側はほぼほぼ本気の動きをすることになっていたことだ。

 もちろん、当てようとはしていなかったが、力の込め具合は本物だった。

 それを軽々とではなくとも弾いてしまった。

 観客からすればさぞかし見ごたえのあるシーンとなってしまったことだろうさ。


 長々と説明してきたけれど、要するに何が言いたいのかというと、


「さっき以上のやり取りを自然に演じる(・・・・・・)とかできる訳ないじゃん!?」


 これに尽きる。

 いくら彼女と幼い頃からの付き合いがあって、はたから見ればツーカーの間柄のように見えたとしても、真剣勝負の演技をぶっつけ本番の一発勝負でやりきれる自信などない。

 逆にわざと演技らしい動きをするというのも一つの手だけれど、あれはあれで難しいものがあるので、やはり練習なしでやるには厳しいものがある。


 まあ、そもそもそこまでのクオリティを求められてはいない気もするが、悪巧みで盛り上げた以上そのままの勢いでラストまで突っ走ってしまいたいという欲が出てきてしまったのだった。


 大上段からの撃ち下ろしを棒の中央で受ける。

 再びガツンと重い音が響く。動きこそ大振りで分かり易いものだったけれど、これまた本気の力が込められたものだった。衝撃で手が痺れそうになってしまうのを懸命にこらえて、そのまま鍔迫り合いならぬ力での押し比べに持ち込む。


「優ちゃん、ごめん」

「ドンマイ。それよりもこれからのことを考えよう」


 接近した体勢であるのをいいことに、ギリギリお互いに聞こえるだけの小声で会話を交わす。

 この間もしっかりと力が込められており、押し付けられているそれぞれの棒がギシギシと不気味な音を発していた。


「この後、予定した動きに戻すとどうなるかな?」

「少なくとも見ごたえ的にはかなり残念なものになると思う」

「だよねえ……」


 入念な準備をしていたならばともかく、数分の打ち合わせで間に合わせに決めた動作だ。あの一瞬の本気の攻防に比べれば見劣りするのは間違いない。

 そして、里っちゃんも同じ考えだったことで、無駄だろうなとは思いつつも心の奥底にほんの少しばかり残っていた希望は掻き消えることになったのだった。


「さて、どうしようか、なっ!」


 片目をつぶったのを合図に、棒を傾けて力を逸らす。が、あちらも心得たもので足を使って得物が流されるのを防ぐ。

 結果、ボクたちはお互いの武器の接触点を中心にして、くるりと位置を入れ替えていたのだった。

 まさか『OAW』内での訓練で身に着けた体さばきや足さばきをリアルで活用する日が来るとは。半年前のボクに言ってもきっと信じてもらえなかったことでしょう。


 一瞬の早業に観客席から「おおぉー!」と歓声が巻き起こる。上手く魅せることができたようだね。これで少しは時間を稼ぐことができた。


「全力でやっちゃう?」

「それしかないかあ……。でも、ゲームと違って怪我のリスクがあるよ」


 再び力任せの押し合いになったところで、ボクたちは小声での話し合いを再開させていた。


「いくら本気の打ち込みでも、今の私たちなら大振りの動きであれば止めるなり避けるなりできるでしょ」


 VRの特性上、感覚的にはゲーム内でも自分の身体を直接動かしているようなものとなる。その経験はプレイヤーの脳内に蓄積されることになり、能力さえあればリアルでその動きを再現することは原理上可能ということになる訳だ。

 実際に、スポーツの世界ではイメージトレーニングの発展版としてVR技術が既に利用されている。


「まあ、そのくらいなら何とか」


 優華(ボク)としても、魔法関係やトンボを切るといった極端に曲芸じみた動きは無理でも、基礎的な体術くらいであればリュカリュカの動きを再現することができる自信はある。


「一言口上を言ってから、打ち込み合うということで」

「了解」


 互いに一際強く押し出して、その反動でもって距離を取る。


「このままではらちが明かないな。ならば我が必殺の一撃を受けてみよ!はあああああ!」


 ちょっ!?「必殺」て!?

 本気で全力という意味なのだろうけれど、もう少し言い方というものをですねえ!?


「えいっ!」


 などと考えながら真っ直ぐに頭上から落ちてくる切っ先を側面からはたいて軌道を逸らす。


 カコン、ダンッ!


 木の棒同士が打ち合う音に続いて、彼女の踏み込んだ音が響く。相応の力でもって撃ち込んだというのに、それよりも後者の音の方がはるかに大きいってどういうことなのよ……。


「今度はこちらから!てええええい!」

「ふっ!」


 もしかすると最初の攻撃を超えるかもしれない早さと強さで放った突きは、身体を捻ることでするりとかわされてしまった。


「たああああああ!」


 ガン!


「やああああああ!」


 ゴッ!


「えいや!」


 ガガガ!


「このっ!」


 ゴリ!


 いつしか体育館内にはボクたちの裂帛の叫びと、棒同士がぶつかり合う音だけが響いていた。

 ドン引き?いえいえ。きっと魅入られていたのです!


 しかし、そんな息をつかせぬ攻防がいつまでも続けられるはずもなく。

 最初に限界を迎えてしまったのはボクたちが手にする棒だった。何合目かの打ち合いの果てに、バキッ!とかボグッ!またはメキョッ!といった類の不快な音だけを残して、ものの見事にへし折れてしまったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ