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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十四章 リアルの平凡かもしれない日常

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491 舞台1 開幕

今話では、途中で場面転換が入ります。

「はあ……。まったくもって、どうしてこうなったのやら」


 幕の表側で行われている観客に向かっての諸注意を告げるアナウンスを聞きながら、ボクは何度目になるのか分からないため息を吐いていた。

 まあ、最終的にこの場に立つことを決めたのは他ならぬボク自身なので、その事について誰かを責めるつもりはないけれど。

 しかし、一度は断固として拒否したにもかかわらずこうしてその役に就いてしまっていることに、因果の収束だとか世界の強制力だとかいった、なんともオカルトじみた現象を思い浮かべてしまうのだった。




 はい。あの後里っちゃんを含む五人で保健室へと向かったところ、怪我自体は軽いものの田端会長は動き回れる状態ではなかった。

 当然劇の方も代役を立てる必要があったのだが、公演開始間近の時点でそんなに都合良く人材がいるはずもなく。

 一緒に練習を繰り返してきた学生会の人たちも全員自分の役で手一杯だし、裏方などのサポートをしてくれることになっている演劇部の人たちも彼ら自身の公演があったため、これ以上の無理を言うことはできない状態だった。


 これがせめて脇役や端役だったならば何とかなったかもしれない。

 が、田端会長が務める予定だったのは、主役の『テイマーちゃん』だ。ぶっつけ本番で乗り切ることができるほど、簡単なものではない。


 当の本人であるボクを除いては。


「ごめんね、皆。残念だけど私たちの出し物は中止――」

「田端会長、台本を見せて下さい」


 気が付けばボクは、保健室に集まってきた学生会メンバーたちに中止を告げようとする会長の言葉を遮っていた。


 だって、ねえ。

 そんな今にも泣きだしそうな、でも皆に心配を掛けまいと辛さを懸命に心の内へと押し込めようとした顔を見てしまっては、できる限りのことはしてあげたくなるってものではありませんか。

 お人好し?ええ、ええ。その通りですよ。


「私も『テイマーちゃんの冒険日記』は読んでいるんです。だから……、なんとかやれるかもしれません」

「畑中さん、すぐに台本を持ってきて!」

「え?あ、うん。分かった」


 会長の指示に副会長が慌てて保健室から飛び出して行く。

 これ以上怪我人が出たら手の打ちようがなくなるんですが!?そんな不安を打ち消すように、一分後、彼女は無事な姿を見せてくれたのだった。もちろん、その手に台本を持って。


「里っちゃん、巻き込んでしまって悪いけれど、手伝ってもらえるかな?」

「任せて!」


 突然の無茶振りに悩むことなく快諾してくれた里っちゃんと一緒に、預かった台本を読み進めていく。


 それにしても冷静になって思い返してみると、こんな無茶苦茶な説明でよく反対意見が出なかったものだと思う。

 それだけ全員が切羽詰まってしまい、精神的に追い詰められてしまっていたのだろうね。


「三峰さん、どう?やれそう?」


 一通り読み終えたところで横合いから河上先輩が尋ねてくる。


「はい。ちょっと手を付ける必要もありそうですけど、これならやれると思います」




 まあ、最終的に一部は大きく台本を変更することになったのだけど。

 慌ただしかったここ数時間のことを思い出している内に、いよいよ本番の時間となってしまったらしい。

 吹奏楽部によるアップテンポで軽やかな曲が演奏されるのに合わせて、ゆっくりと幕が上がっていった。


 舞台は『テイマーちゃん』が最初の町に辿り着いたところから始まる。


「うわあ!大きな街!」


 これまで見たこともない景色に心を奪われてしまった彼女は、あちこちを歩き回るうちに道に迷ってしまう。


「屋台の美味しそうな匂いに釣られちゃったのが失敗だったかなあ……。それとも子どもたちが撫でていた子ネコちゃんに夢中になってしまったのが敗因かしらん?」


 それでも歩いていればいずれ目的地に着けるだろうと楽観視して裏通りを進んでいたのだが、やがてゴミが散乱して酔っ払いが寝転がるような治安の悪いスラムへと行き着いてしまう。


「くそー!こいつ大人しくしやがれー!」

「ちっ!手間を掛けさせやがってー」


 ……ま、まあ、素人なんだし緊張もしているだろうからね。棒読みでも仕方がないよね。


「これは、事件の予感!」


 怒声が聞こえてきた方へと急いで向かうと、そこでは怪しい男――衣装に大きくそう書いてある――たちを相手に、一抱えもある卵に足と尻尾が生えた謎物体――黒子姿の人が動かしています――が大立ち回りを演じていた。


「何だお前はー!どこかに行けー!」

「大勢で小さな……、何かを捕まえようとしている人に指図されるいわれはないね」

「生意気な口を叩きやがってー!おい、お前らこいつをぶちのめせー!」


 言い返されたことに腹を立てた怪しい男の一人が仲間に呼びかける。だが、その仲間たちは卵に翻弄(ほんろう)されてしまっていた。

「それどころじゃねー!」

「サボっていないで、お前も捕まえるのを手伝えー!」


 動きはそれなりには様になっているが、口を開けばひたすら棒読みというちぐはぐさに、思わず笑いそうになってしまう。


「サボるなだとー!?誰にものを言っているー!」

「うるせー!いつもリーダー面しやがってー!」

「前から気に入らなかったんだー!」


 と、いきなり仲間割れを始めた男たちだったが、それを見逃すはずもなく。


「グハア……」

「ウゴオ……」

「ゲフウ……」


 卵の謎物体が躍りかかり、あっという間にのしてしまったのだった。


「た、卵!?……え?う、うわっ!?」


 正体に気が付き驚く『テイマーちゃん』だったが、次の瞬間飛び込んできた卵を抱えて尻もちをついてしまう。


「いたたたた……」


 ゆるゆると首を振って視界を取り戻す。それと同時に先ほどのされた男たちが立ち上がり、舞台脇にあった何かを広げていく。


 そこには大きく、


《エッグ状態のドラゴンパピーが仲間になりたそうにしています。テイムしますか?》


 と書かれていて、同時にそれを読むナレーション役の声がスピーカーを通して体育館中に広がっていく。


「仲間になりたそうって言うけど、このまま自然に帰ることだってできるんだよ?」


 その言葉を否定するように卵は縋りついてくる。


「甘えんぼさんだね。いいよ。君のことをテイムしてあげる」


 こうして彼女はドラゴンパピーをテイムすることになったのだが。


《テイムしたドラゴンパピーに名前を付けてください》


 再び怪しい男役だった者たちが舞台前面へと登場し、今度はやたらとカラフルな色合いで書かれたその一文を、ウェーブするように動かすのだった。


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[一言] 逃れられない羞恥プレイ(吐血)
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