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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第五章 街の外へ

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49 数の暴力アタック!?

 そしてリアルでは一日経過して翌土曜日。でもゲーム内だとその日の午後なんだよね。

 多人数同時参加型のMMOとは違って、ゲーム内の時間経過をある程度自由に操作できることが『OAW』のウリの一つな訳だけど、実際にやってみると便利だ。

 慣れるまではNPCとの会話が意味不明(???)な状態になるけど。


 さて、結局のところ午前中の採取アンド近付いてくる魔物退治が上手くいっていたことで、ボクとエッ君はすっかり油断しきってしまっていたのだろう。

 まさかあんな事になるなんて……。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドド…………。


 全速力で逃げるボクたちの背後から地響きを伴って大量の魔物が押し寄せてくる!


「んっきゃー!!これだけ大量のウサちゃんなんて、リアルなら触れ合い動物園状態で歓喜しているところだけど、ブレードラビットじゃあ全然嬉しくないよ!!」


 いやまあ、リアルだと動物アレルギーのせいで多分近寄る事もできないんだけどね。

 そんなことも頭からすっぽ抜けるくらいに大変な状況だったのですよ。


 事の起こりはほんの三十分ほど前。西門から出てからクンビーラの街を取り囲む壁に沿ってぐるりと反時計回りに半周したところで時間切れとなったため、午前中(昨日)は東門から入った所でログアウトしていた。

 街にいるついでにお昼ご飯のお弁当を食べてから、午後の部を開始とばかりに再び東門から外に出てきたら……。

 あっちこっちから現れたブレードラビットたちにあれよあれよという間に囲まれてしまいまして。


「エッ君、いくら相手がブレードラビットだからって、これだけの数と戦うのは危険だよね?」


 ボクの言葉に「むりむり!」という感じで体を振るエッ君。


 決定。逃げましょう。


 しかし、どこへ?一番の安全圏であるはずの街の方には目つきの悪い巨大ウサギたちが二重、三重になっていた。まるで街へは入らせないとでも言うように。

 この時点でおかしいということに気が付くべきだったんだよね。

 野生の魔物であるブレードラビットがそんなことを考えつくはずがないのだけど、最低数十匹、ボクの大まかな推定によると五十匹オーバーのぶちゃいくウサギに囲まれてしまうと、そんなことを考える余裕すらなくなってしまっていたのだった。


「エッ君、一番囲みの薄そうな所から強引に突破するよ!」


 そう伝えた瞬間、「任せて!」と飛び出していくエッ君と、慌ててその後をついていくボク。

 どっちがマスターなのか分からない光景だけど、これも生き残るためなのだからと無理矢理自分を納得させたのだった。


 で、冒頭辺りのあの状況へと繋がっていく訳です。


「【アクアボール】!【ウィンドボール】!」


 時折振り向きざまに魔法を放っていたものの、数匹をやっつけるくらいでは全然(らち)があかない。


「というか、解体できないからアイテムが取れない!もったいない!」


 ブレードラビットは基本ドロップアイテムとして、『茶色兎の毛皮』と『兎肉』の二つが取れるようになっているから、トゥースラットよりもお得だったのだ!

 特にお肉!これは冒険者協会で売ってもいいんだけど、逗留している『猟犬のあくび亭』の料理長から、少し割増しで買い取ってくれるというお言葉を頂いていたのだ。


「美味しいウサギ肉料理を振る舞ってくれるって言ってたのにー!!」


 こうなると分かっていたなら。解体を短縮設定に変更しておいたのに……。悲しみのこもったボクの叫びは青空の彼方へと消えていったのでした。


 前方左手にこんもりとした林が見えたのはそんな時だった。


「エッ君、方向微調整!あの林に逃げ込むよ!」


 上手く木立を使って分散させることができれば、各個撃破していくこともできるかもしれない。「分かった!」と軽くジャンプしたエッ君は、着地と同時に向きを林の方へと変更していた。

 卵に足と尻尾が生えているという体形なのに、本当に器用な子だと思う。まあ、それを言うならボクと同じ速さで走っていること自体脅威なんだけどさ。


「ちょっとは足止めになってよ。【アクアボール】!」

 追ってくる群れの速度を少しでも衰えさせるため、先頭よりも少し前に水の球を着弾させる。


「ブブ!?」

「グー!?」


 これまた可愛くない悲鳴を上げながら転んだり失速したりしては後続とぶつかる巨大ウサギたち。この隙に林の中へと逃げ込む。


「はっはっは!掛かったようだな小娘!さあ、観念して――」

「【ウィンドボール】!」

「ぶわっはあ!?」


 一息つく間もなく偉そうな口調で何か言っていたおじさんを風の球で吹っ飛ばす。

 直後、助けてくれようとした人だったのかしらと背筋に冷たい汗が流れたけれど、なんだか不穏なことを口走っていたような気がするので、結果オーライということにしておく。


「ここで迎え撃つよ!」


 木立で林の外が見えなくなった辺りで足を止め、迎撃態勢に移る。

 逃げ続けていたことで欲求不満(フラストレーション)が高まっていたのか、エッ君もすっかりやる気になっていた。

 さっきの混乱具合から、一度にまとまってやってくることはないと思う。数匹相手の戦いなら何度も経験したので、倒すことができるはず!


 と、ここにきてもやっぱり油断していたのだと思う。数の暴力というのはそれほどに恐ろしいものだった。

 確かに一度に襲い掛かってくるのは最大でも六匹までと、十分に対処することができる数ではあったのだけど、それが休む暇もなく続けざまとなると話は変わってくる。

 ボクたちは徐々に徐々に押し込まれていったのだった。


「エッ君!?……きゃうっ!?」


 そして攻撃直後の隙を突かれたエッ君が弾き飛ばされたのが見えたかと思うと、ボクにも横合いから強い衝撃が襲ってきた。

 ゴロゴロと地面を転がり、気が付けば手にしていた短槍もなくなっていた。


「うっ……、くう」


 よろよろと立ち上がりながらエッ君の姿を探す。


 ……いた!


 体の小ささが役に立ったのか、背丈のある下草に紛れたことで上手く隠れることができているようだ。

 とはいえ、状態はよろしくない。ボクですら六割程度までHPは減少しており、エッ君に至っては八割方が削られていた。

 急いで回復アイテムを使わないと危険な状態だ。


 だけど、回復系のアイテムは対象に振りかけないと効果が発揮されないため、エッ君の元へと近付かなくてはいけない。

 武器を落とし、MPの残量も少なくなっている今のボクには至難の業だと言えた。


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