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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十四章 リアルの平凡かもしれない日常

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489/933

489 ダブルスコア

 騒ぎになりそうだった先ほどの状況から考えるに、里っちゃんと一緒に出歩くためにはしばらく時間を置いてほとぼりを冷ます必要がありそうだった。

 それにせっかく連れて来たのにすぐに出て行くのは忍びない。何よりクラスメイトたちの中にも彼女と話がしたいという人は多かった。

 結局ボクの昼からの担当時間は前倒しされ、引き続きこの場に残ることになったのだった。


 裏道や道なき道をたどってきたとは言っても、最終的に教室に入るためには普通に廊下を行き来するしかない。

 そのため、ボクたちの教室に美少女な他校の学生が入っていったということは、近隣のクラスにはすぐに知られてしまっていた。


「三峰さん、すっごく可愛い子がいるってもしかして……?」

「はいはい、大正解。あっちの集まりがそうだね。後で時間があれば売り上げにも貢献していってちょうだいね」

「あ、あの、三峰会長が来てるって本当なのか?」

「耳が早いね。その通りなんだけど、あの通り女子に取り囲まれているわよ」

「うあー……。あの中に割り込んでいく度胸はないな……」

「そんなあなたに朗報です。うちの出し物で高得点を取れば、自然と目立つことができるので、お話しできるチャンスが増えるかもね」

「会長をダシにするのはズルくないか!?」

「嫌なら無理には勧めないけど?」

「ぐぬぬ……。や、やる……」

「はい、お一人様高難易度にご案内ー」

「はい!よろこんでー!」


 ボクはというと、入口で里っちゃん目当てで集まってくる学生たちの応対をしていた。

 いや、ノリで振ったボクが言うのもなんだけど、最後の返しは何か違くないかな?


 そんな調子でおだてたり煽ったりしながら、集まってくる人の波を捌いていく。

 満員御礼、商売繁盛ですな、わっはっはー。

 ただ、物理的に人数の容量オーバーになってしまうため、定期的に里っちゃんに(たか)る学生たちの入れ替えをする必要があったのだけれどね。


 しかし、全てが想定通りで思った通りに進むとは限らないものでして。

 現在、教室内にいる人どころか入口から覗き込んでいる人まで全員が、無言で教室前面にある黒板を見つめていた。


「ねえ、優」

「うん。分かってた。里っちゃんにやらせたらこうなるだろうってことは予想できていたことだよね」


 そこには高得点ランキングが張り出されていて、その一番上には『R・M』というイニシャルが堂々と躍っていたのだ。


 ええ。もちろん我が麗しの従姉妹様のことですともさ!


 どうしてキレ気味なのかって?ただでさえ大差で一位に君臨していた河上先輩の記録を、ダブルスコアを付ける勢いで上回ったとなれば、キレたくもなってしまうというものだよ!

 見ていた人たちが唖然としてしまうのも当然だ。

 暫定一位ってレベルじゃないよね、むしろこれが永久に一位だよ!

 どうするのよ、永世名人の称号でもあげればいいの!?


「誰よ、里っちゃんにやらせたのは」

「最終的に許可を出したのは優でしょう。まあ、止められなかった私たちにも責任はあるけど」


 そうでした……。でもですね、言い訳をさせて貰えるなら、あのキラキラと好奇心に満ち満ちた目で見つめてくるのは卑怯だと思うのですよ。

 その上、反対しようものならこちらの罪悪感をゲシゲシと蹴りつけては肥大化させる、もの悲しい顔をするのは間違いなく反則だったと言い切れるね!


「三峰さん、ごめん。今まで彼女のことは大袈裟に話しているだけだろうと思って話半分に聞いていたけど、全部本当のことだったんだね……」

「まあ、ね……」


 異なる中学出身のクラスメイトの謝罪を込めた告白にも、薄ら笑いで曖昧に返すことしかできませんですよ。

 当の里っちゃんはというと、景品として交換した小さなコアラが付いたキーホルダーを見つめては、ニコニコとそれはもう機嫌良さげにしていた。『笑顔』で例の耳付きフードをトレードマークにして以来、何かとコアラが付いたものを収集するようになったそうです。

 そういえば彼女の部屋にコアラ関係のものが溢れるようになったのは中学以降だった気がする。


 話しを戻そう。そしてようやく得点の衝撃から立ち直った人たちがうかつにもその姿楽しそうな様子を見てしまい、今度は心を奪われるように硬直してしまうのでした。


「これはもう、里っちゃんを連れ出すしか解決の手段はなさそう」

「そうね……。元凶がいなくなればさすがに再起動できるでしょう」


 何とも酷い言い草ではあったけれど、事実なので仕方がない。世の中には取り繕ったところでどうにもならないことが数多くあるものなのです。

 近くにいたクラスメイトたちにこの場を抜けることを告げて回り、里っちゃんの手を引いてササッと教室から逃げ出す。


 無事に再開できるといいけれど。まあ、今は雪っちゃんがいるから何とかしてくれるだろう。

 問題は彼女が部活の出し物に出向いた後だ。手が必要になったらいつでも呼び出してもらえるように、長谷君に連絡を入れておこう。


「ごめんね、優ちゃん。久しぶりに皆と会って楽しくて、ちょっと張り切り過ぎちゃった」


 しゅんとした表情の里っちゃんの言葉を聞いてハッとなる。ボクたちがテンションを上げていたのと同様に、普段とは違うこのお祭りの陽気に彼女もまた浮かれてしまっていたのだ。


「それだけ楽しんでくれていたっていうことなんだから、謝る必要はないよ」


 ホスト側としてはむしろ、してやったりな嬉しい評価なのだから。


 余談だけど、あれで「ちょっと」なのだとしたら、本気でやる気になっていたら一体どれだけのとんでもない高得点になってしまったのかと考えてしまい、背筋を冷たいものが流れていったことは秘密です。

 恐るべし、里っちゃんくおりてー。


 その後はもうじきお昼ということで、匂いの関係から校内の各所――主に中庭や校庭などの屋外――に分散している食べ物屋台をはしごしたり、目に付いた出し物に飛び入り参加したりして、文化祭を満喫して回った。


 これまでに何度も説明しているように、この学校に通う学生は地元にあるボクたちと同じ中学校出身が半数近くを占めている。そして里っちゃんは生徒会長を務めた有名人でもある。

 当然のように行く先々では顔見知りや知り合いがいたので、それなりに話し込むことも多かった。

 そんな里っちゃんに釣られるようにして、大量のお客がやって来る、という繰り返しとなりましたとさ。


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