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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十四章 リアルの平凡かもしれない日常

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484/933

484 お断りします

 最初に言っておくと、冒険日記ことボクのプレイ報告の権利は、提出した時点で『OAW』運営に帰属することになっている。

 また、二次創作に関してはプレイヤーが特定されないように配慮した作品のみ許可ないしは見逃すという形がとられていた。


 そうした方面からの宣伝効果というのも侮れないものがあるからね。

 さらに実際問題として取り締まろうとしても人的にも物的にも限度というものがある。目くじら立てて厳しく締め付けるよりは、ある程度の許容を与えておく方が結果的に管理がし易かったりもするのだ。


 さて、ここで問題となるのが『テイマーちゃん』です。元となっているのは一プレイヤーが操るリュカリュカというキャラクターな訳だけれど、『冒険日記』が公式ページで公開されていることもあって、『笑顔』を含む一般のプレイヤーからは半ば公式キャラクターとして認知されているのだ。


 こうした事情から、取り扱いについて運営内部でも意見が分かれることになる。

 そして中の人(プレイヤー)のボクを含めて話し合いをした結果、普段よりは厳しく、あらかじめ作品内容を提出してもらうことを条件として、使用許可を出すことになったのだった。


 あ、もちろんアダルト方面は全面禁止です。何せプレイヤーが成人していないどころか十八歳未満だからね。

 ほんのりお色気については……、まあ、それぞれの作者さんの公序良俗の精神にお任せするという方向で。


 話を戻そうか。高校の文化祭で、しかも学生会が行うとなれば諸条件や諸注意については理解していることだろうと思う。

 簡単なストーリー展開などは運営に報告済み、もしかすると既に許可が下りているのかもしれない。ルール違反となる心配は無用と考えていいと思う。


 それらを踏まえてボクが出した結論はというと。


「絶対にお断りします!」


 だった。


「うわあ。一考もすることなくバッサリと……」

「これぞ一刀両断ね」


 さすがにここまできっぱりと拒絶するとは思ってもいなかったのか、先輩たちも驚いた口調で感想を呟いていた。

 周りですらそんな様子であるのだから、断られた本人の驚きは相当なものだったのだろう。頭の方が理解を拒んでいるかのように、田端会長はキョトンとした表情になっていた。


 だけど、せめて半開きになったお口は閉じた方がいいと思います。せっかくの可愛い顔が台無しになってしまいそうなので。

 まあ、誰のせいかと問われればボクのせいな訳ですが。


「河上先輩、時間も押してきたので今度改めて遊びに来させてもらいます」


 実際、ボクがこの教室へとやって来てから、かれこれ三十分が過ぎようとしていた。特に用もなく校舎内に居残っている学生たちを追い出すための先生たちの見回りが始まってもおかしくない時間帯となっている。


「え?ああ、うん。そうね。そろそろいい時間になってしまっているから仕方ないか。私の方からも顔を出しに行くから」

「了解です。木之崎先輩もまた」

「ええ。またね」

「それでは、お騒がせしました。失礼しまーす」


 最期はわざと軽い調子で言い残して、フリーズしたままの田端会長を横目にボクは三年生の教室から出ると、怒られない程度の速度ですぐさまその場から離脱したのでした。


 だって、断った理由とか問われても答えようがないですから!


 それに夏の公式イベントの際に、一時的にではあるけれど『テイマーちゃん(リュカリュカ)』と『コアラちゃん(ユーカリ)』は顔を晒してしまっている。

 そしてその時の映像を見た雪っちゃんに、彼女たちがボクと里っちゃんであることを見抜かれてしまった。


 つまりは、他にもそう感じている人が身近にいるかもしれないということであり、ボクが『テイマーちゃん』の役をやろうものならば、そうした疑惑が一気に確信となってしまう可能性が高いのだ。

 だからと言って、「私が『テイマーちゃん』です」とカミングアウトするのは(もっ)ての(ほか)だからね。


 よって、あの場からさっさと逃亡しておき、疑問自体を発生させないようにするのが一番だったのです。


 後は、諦め悪くしつこくお願いしてきた場合だけれど、そうなった時にはそれこそ先生たちに相談すれば何とかなるでしょう。

 授業や勉強ならばともかく文化祭での余興的なものだから、学校側の立場からすればやりたくない者を無理矢理やらせるような真似はしないでしょう。

 仮にそうなった時には再度理由を尋ねられることになるだろうが、その際には「しつこく勧誘されることに嫌気がさした」とでも言っておけばいい。


 腹黒い(ブラックぽんぽん)

 いえいえ、このくらいは序の口というやつですから。なんならブラック里っちゃんが出現した時の話を……。


 ご、ごめん。やっぱりそれはなしで!

 思い出しただけで寒気がするどころか凍えそうになってしまうから!


 話しを戻すと、そんな事態へと進展したならば、きっと断るための建前ではなく本当に理由の通りの気持ちになってしまっているだろうからね。

 うん。だから嘘をついている訳ではないのです。


 田端会長、ボクを失望させるようなことはしないでくださいね。


 いや、心の中でそう思っただけなのですが……。


「あの子ったら三峰さんが私たちの教室から出て行ってから少し経ったところで正気を取り戻したんだけど、突然ガタガタと震え出したかと思ったらすぐに「失礼しました!」って叫んでいなくなっちゃったのよ」

「いきなりのことだったから、今度は私たちの方が呆然としてしまったわ」


 翌日の昼休みにそう教えてくれたのは、河上先輩と木野崎先輩だった。

 場所?当然のようにボクたちの教室ですね!


 うん。まあ、近日中にはやって来るだろうとは予想していたけれど、まさか次の日の昼休みになるとは想定外だったよ。

 しかも木之崎先輩まで一緒だとは……。

 その木之崎先輩いわく、「これでも我慢させた方」なのだとか。


「河上先輩、もしかして朝一で突撃してくるつもりだったんですか……」

「ソ、ソンナコトナイヨ?」

「はあ……。まあ、このおバカは放っておいて、もしもまたしつこく何か言ってくるようなことがあったら相談してね。私たちもできる限り力になるから」


 本当にボクは人に恵まれているね。優しい言葉にうるっときてしまいながら、感謝の気持ちを込めてしっかりと二人の先輩には頭を下げたのだった。


 余談だけど、田端会長はそれ以降強引な勧誘をしてくることはなく、それどころか学生会役員総出で迷惑をかけてしまったお詫びに訪れてくれた。

 何やら別の意味で目を付けられてしまったような気がしないでもないが、とりあえずは気にしないことにした。


 それと肝心の演劇での『テイマーちゃん』役は、責任をもって会長が務めることになったそうです。


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