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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十三章 暗い地面の下で

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479 気になることは?(雑談回)

 リアルでは長々と続いていた残暑がようやく落ち着き始め、日増しに秋が深まっていた。ことに関係があるのかは定かではないが、毎日のように『異次元都市メイション』内にある酒場や食事処は多くのプレイヤーでにぎわっていた。


 そんな店の一つ『休肝日』では、オーナーであり『情報屋』の異名を持つフローレンス・T・オトロが、給仕のフローラに扮して今日も今日とて客たちの噂を集めて回っていた。



「お待たせしましたー。エールが四つにカツうどんが二つ、ミソカツうどんが一つに、シェフの気まぐれ肉肉しいセットが一つです」


「おー、きたきた」


「ありがと、フローラちゃん。これはチップね」


「わあ、ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」


「……フローラちゃん、かわええ」


「おい、こいつ割と目がマジなんだが……」


「誰に迷惑をかけている訳でもないんだし、別にいいんじゃない。あの子が可愛いのは確かなんだし」


「そうそう。リアルだろうがVRだろうがプレイヤーだろうがNPCだろうが、可愛いは正義よ」


「あー……。まあ、それはそうなんだが……。こいつの場合、そのうち誰かに本当に迷惑を掛けそうな気がしないでもないんだよな」


「その時はこう言えばいいさ。「いつかはやるかもしれないと思っていました」ってな」


「お前らなあ……。俺が罪を犯すのを前提で話をするなよ」


「そのくらいヤバイ顔になっていたと自覚してくれ」


「うっそ!?マジで!?」


「まじまじ。あれは子どもとか健全な青少年とかには見せられないわー。規制対象だわー」


「そこまで!?」


「いくらキャラクタークリエイトで見かけを良くしても、どす黒い内面って滲み出てくるものなんだな……」


「むしろ外面を良くしていたから、内側の醜さが際立っているというか?」


「ちょっ!?目を逸らしながら言うの止めてくれないかな!?」


「ああ、悪い。直視すると目が腐りそうだったもので」


「余計に酷くなった!?」


「まあ、本当のことはこのくらいにしておいてだな」


「本当のことって言った!?今、本当のことって言わなかった!?」


「うるさいよ」


「あ、ごめんなさい」


「うむ。しっかり飼いならされているようだな!」


「そういうのはもういいから。それで、何の話をしようとしていたの?」


「ああ、『テイマーちゃん』の日記が更新されてたな、って」


「俺も読んだ。また何だか色々とイベントが発生しまくっていたぞ」


「『土卿王国』の陰謀に始まり、ネイトちゃんの先生の師匠の登場にマーダーグリズリーのつがいとの戦闘もあって、その上なんだかよく分からない地下遺跡の探索だっけか?主だったものだけでも本当に盛りだくさんだな……」


「レアイベホイホイは伊達ではなかった」


「何故だろう、全く羨ましくない」


「まあ、『OAW』のレアイベントは一癖も二癖もあるやつばっかりだから嬉しくないって、テイマーちゃん本人も言ってたからなあ」


「羨ましいかどうかは置いておくとして、どれが一番気になった?ちなみに俺はマーダーグリズリーのつがいとの戦闘」


「検証系の板のいくつかで、つがいの割に弱過ぎるんじゃないかって騒ぎになってるやつか」


「弱過ぎるって、元々つがいの強さは個体ごとの差が大きいと前から言われていたはずだろう?」


「半分くらいは有名人へのやっかみじゃないの」


「そういうことなんだろうな。ただ、マーダーグリズリーという種族であることを加味すると、『テイマーちゃん』たちが戦った相手が弱い部類になることには間違いないらしい。だから、ランダムイベントが発生したのはともかく、出現する敵の強さを運営が調整したんじゃないかと言い始めるやつまでいるそうだ」


(かぐわ)しいのが湧いてるんだなー」


「運営は敵だとか、運営陰謀説を訴えるやつはどのゲームでも一定数は居るものだから」


「そういうやつに限って辞めずにずっとプレイしていたりするんだから不思議だ」


「おかしな言動はスルーが一番よ」


「だな。という訳で話を変えると、俺が一番気になったのはネイトちゃんの先生の師匠が、あのクシア高司祭だったこと」


「でも、それらしい話は出ていたんだろ?」


「会話の中でほんの少し触れた程度かな。クシア高司祭が大陸の各地で弟子を取っていたという話は有名だから、もしかして?と思っていた人はいたみたいだけど」


「……『テイマーちゃん』、そんな偉い人をファンキーなおばあちゃん呼ばわりしたんだよな?」


「怖いものなしかよ……」


「でも、許可を貰えているんだよなあ……」


「むしろ高司祭の方からこれからもそう呼んでくれと言ってきたらしい」


「実は私、『水卿公国』の都で『七神教』の儀式が行われたことがあったんだけど、その警備のクエストを受けていた時にクシア高司祭と会ったことがあるのよね」


「え?マジで?」


「まじまじ。でも、すっごい厳しい雰囲気で色々と周りの人たちに指図してて、ファンキーさの欠片も感じられなかった」


「もしかするとツンデレみたいなもの?ある程度仲良くなるとか、興味を持ってもらえないと、本性を見せてもらえないとか」


「ファンキー仕様のツンデレ老婆……。属性盛り過ぎじゃね?」


「あくまでも推測の話だよ。本当かどうかは知らん。もしかすると、こいつの方がレアケースだったのかもしれないし」


「どっちにしても、あの有名NPCをおばあちゃんと呼ぶ勇気は俺にはないわ」


「それが普通の反応だよな」


「まあ、『テイマーちゃん』はブラックドラゴンを目の前にしても退かなかった剛の者だから」


「そういう言い方をされると、マッチョな豪傑みたい」


「『テイマーさん』と呼ぶべき?」


「外見は『笑顔』の『コアラちゃん』とそっくりで、すっげえ美人の女の子なんだけどな。ハルバード振り回すけど」


「それを言うなら『コアラちゃん』の方だって相当だぞ。二メートル近い長さの刀を易々と扱うんだからさ」


「最近のじょしこーせーはおっかないぜ……」


「いやいや、性別と年代が近いっていうだけで、あの二人と同類項にまとめられるのは色んな意味で厳しいから止めてあげなさい」


「俺たちなら、イケメンなプロスポーツ選手と一緒にされるようなものか。……確かにこれはきついな」


「……鬱だ、死にたい」


「お前はメンタル弱過ぎな」



 私も彼女たちとは一緒にされたくはないかも。などと思いながら客たちの四方山話(よもやまばなし)に耳を傾け続けるフローレンスなのであった。


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