478 暴走の果てに
緋晶玉というのは天然の蓄魔石であり、要するに魔力の塊だ。
そこに思いっきり過剰積み込みをさせた魔法をぶつけることで強制的に暴発を引き起こし、さらに周りの緋晶玉にも連鎖的に暴発を広げていった。
これが、あの時のボクがやらかしたことになる。
いやあ、一歩間違えば地下空間が全て陥没してしまいかねない危険な行為だわね。
まあ、間違わなくてもその場にいたボクたちは無事ではすまなかっただろうけれど。『OAW』のプレイを開始してから初のバッドエンド、ゲームオーバーということになりそうです。
盛大な自爆に巻き込んでしまったミルファとネイトには悪いことをしてしまった。
とはいえ、正面からは元より背後からこっそり仕掛けても、あのローブの人物に勝てる見込みはなかったように思えるからなあ……。
最期に「おのれ、きさまらああああ!!」と恨み節が聞こえたような気がしたので、彼の人の目的は緋晶玉を手に入れることだったとみて間違いはないだろう。
次はもっとうまく立ち回らないとね。リセットでどこまで巻き戻されることやら。
トレアとの出会いがなかったことになるのは辛すぎるので、できればドワーフの里に到着以降にしてもらいたいところなのですが。
あれ?そういえばボクは『帰還の首飾り』をしたままだったから、ゲームオーバーにはならずに最寄りの安全地帯に強制転移させられるのではなかったかしらん?
その割にはいつまで経っても景色が変化しない……?
「……ュカ、リュカリュカ」
そんなことを考えていたからだろうか。不意に体を揺すられているような感触と、ボクの名前を呼ぶ声が聞こえてくるような気がした。
「……起きて、起きて下さい、リュカリュカ!」
「いつまで寝ていますの!いい加減に目を覚ましなさい!」
あわわわわ……。声が段々と大きくなるだけじゃなく、揺さぶられる力もどんどんと強くなってきているよ!?
このままだと振動に酔って気持ち悪くなってしまいそう。
「おおおおお起きてる!起きてるるからから、ゆゆゆ揺さぶるのを止めててて!」
わざとじゃないです。わざとじゃないのよ?
揺すられていたから、こんな面白台詞になってしまっただけなのです。多分。
「リュカリュカ!」
「起きたのですね!」
「うん。おはよ。……ふにゅ!?」
喜びの感情に満ち溢れた声に促されるように返事をして、薄っすらと目を開けたところで鋭い痛みを感じる。
あ、別にどこかを怪我をしていたという訳ではなく。
間が悪かったというか、場所が悪かったというか、ちょうどボクの顔に直射日光が当たっていて、目を開けたところでばっちりくっきりお日様を直視してしまったのだった。
それでもなんだか随分と長い時間、瞼を閉じたままだったような気分になってしまう。時間について意識してしまったのが運の尽きで、不意に体が重く感じられるようになった。
「うへえ……。なんだか力が入らないんだけど?」
「ほぼ丸一昼夜眠ったままでしたから、そうなるのも当然かと」
「ああ、それだけ眠っていたなら仕方がないかあ。……って、丸一昼夜!?」
は?え?どういうこと?
なにがどうやってこうなったの?
「落ち着いてください。今は体力を取り戻すことを優先しましょう」
「何も食べていませんでしたから、空腹度が増えて飢餓状態になっていると考えられますわ。消化に良い物を用意しますから、少しお待ちになっていて」
言われてステータスを開いてみると、その通り空腹度はレッドゾーンに突入しており、しっかりと『飢餓状態』と表示されていた。
「ふおお……。自覚したらどんどんとお腹が空いてきたよ。ごはん、ごはんをぷりーず……」
「はいはい。今ミルファが準備していますから、もう少し我慢してください」
「はーい」
子どもに言い聞かせるような口調だったこともあって、思わずネイトママ!と呼んでしまいそうになったのは秘密です。
ちなみにミルファだけど、ボクたちと一緒に旅をしていく中で簡単な料理であれば失敗しない程度の腕前にはなっていた。
「ふぶっ!?ソイソースとウスターソースを間違えてしまいましたわ!?」
……前言撤回。まだまだ修行が足りないようで。
失敗作はスタッフが責任もって処理しました、とだけ記述しておきます。
「ふう。ごちそう様でした。……それじゃあ、どういう状況にいるのか教えてくれるかな?」
ミルファが作ってくれたソイソース仕立てのお団子入りスープを完食して、ようやく人心地がついたところで、現状を整理するための話し合い開始です。
「まず、あの地下で何がどうなったのかについてですが、申し訳ありませんがわたしもミルファも何も分かっていません。あの人物が現れた辺りで記憶が途切れてしまっているようなのです」
ネイトの説明にミルファも首を縦に振っている。
おじいちゃんたちがローブの人物に敗北した――かもしれない――ことを受け止めることができなかったため、意識を飛ばすことで心の調子を保つ緊急のセーフティ機能が働いた、といったところかな。
今ならボクも含めて心身ともに落ち着いているので、受け止めることができるだろう。
「……ということで、ほぼほぼ無意識に自爆のような真似をしでかしちゃったのよ。ごめんね」
「謝る必要はありませんわ。悔しいですけれど、戦っても勝てる見込みはなかったでしょうから」
「それよりも、リュカリュカが意識をなくす直前に見たという床に幾筋も走った線が気になります。もしかすると、わたしたちが生きてこの場所にいる原因がそれだったのではないでしょうか」
ネイトの予想によれば、その線は魔法陣、それも転移のための代物だったのではないかということだった。
「緋晶玉を連鎖暴発させたことで大量の魔力が放出された結果、欠損か何かの理由で放置されていた転移の魔法陣が一時的に稼働したと考えられます」
どこかの森らしき場所に転移させられたのも、欠損の影響だと考えれば一応の辻褄は合う。
余談だけど今ボクたちが居るのは、運良く転移させられた地点のすぐ側にあった小屋の中です。ネイトいわく樵か狩人が休息を取るための小屋だろうとのこと。
生き延びることができたのは喜ぶべきことなのだろうけれど、はてさて、一体ボクたちはどこに移動させられたのでしょうかね?
という訳で、今回はあえて色々な謎を残したままということになりました。
毎度毎度、悪事を自白する犯人ばかりではないということだよ、ほーむず君。
気になって夜も眠れない!だからお昼寝がはかどる!
という人は、感想を書いたりポイントやブックマークをぽちーとしてくれたりすれば、どこかで簡単な説明を入れることがあるかもしれません。




