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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十三章 暗い地面の下で

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473 侵入者たち

 ところで、あの軽鎧や衣服にはなんだか見覚えがあるような?


「おい、お前たちも何かないか探せ。そういうのは得意なのだろう」


 派手鎧の男性が振り返って背後の三人に言う。その声質の通り若く――と言ってもボクたちよりは年上なのだろうけれど――、なかなかに整った顔付きをしていることが見て取れる。

 が、そこには不安と恐怖による脅えの表情が張り付いてしまっており、せっかくの美青年な見た目を台無しにしてしまっていた。

 腰が引けているのも相変わらずだし、威勢よく最前線に出てきたものの、かえって邪魔になる典型的なタイプっぽいなあ。


 加えて、血筋だけは良いのか他者に命令することだけは慣れているようで。自分に従うのが当然で反抗するなどあり得ない、といった傲慢な思考を傲慢だとは思わなくなっている類のやからのようです。


 こういうのが上役にいると、下に付いている人たちは無駄に苦労をするものなのよね。

 無駄に里っちゃんに対抗心を燃やしていた中学時代の次の生徒会役員の子たちが、揃いも揃ってそういう気質を持っていたのだ。

 まあ、特に悪い噂は聞かないので、そちらの方は先生たちが上手く操っているのだろうと思う。


 対してこちらの男性は毛並みが良さそうだし、他人の意見を聞き入れる度量はなさそうだわね。

 そもそも、他人から意見されたことすらないかもしれない。今回も同様で、命令された三人は反抗することもなく小さく頷いていたのだった。


 フードを被ったローブ姿の人物が振り返った瞬間、ゾワリと言いようのない悪寒が背筋を走る。

 深めのフードにさえぎられて直接目が合うどころか顔すらも碌に見えなかったにもかかわらず、だ。


 この人は危険。リュカリュカとしての感覚だけでなく、リアルで十数年生きてきた優華としてのボクまでもが一緒になってひたすらに警報を鳴らしていた。

 薄汚れた衣装とも相まって、まるで死神のようだ。大きな鎌を持っていれば完璧だったね。

 どこからともなく「こんな時に何を暢気なことを考えているのか!?」という声が聞こえてきそうだけれど、こうでもしないと心が委縮してしまいそうになってしまうのですよ!


 そんな状態であったから、気が付いた時にはすでに手遅れとなってしまっていた。


「ディラン様!?」

「お師匠様!?」

「な、なにもにょだ!?」


 ミルファとネイトが大声を発してしまい、向こうに発見されてしまったのだ。

 噛んでる?そこは気が付かなかったことにしてあげるのが優しさってものですよ。


 冗談はさておき、まあ、二人が叫んでしまったのも無理からぬことだったと思う。

 何せ振り返った三人の内、残る二人はボクたちにもなじみの深い相手、おじいちゃんこと一等級冒険者のディランと、おばあちゃんこと七神教のクシア高司祭だったからだ。

 先にローブの人物に目を奪われていなければ、ボクだってきっとミルファたちと同じように叫んでいたことだろう。


 そのおじいちゃんたちだけれど、ボクたちの声に反応することなく緩慢な動きで周りを見回していた。

 これはもう間違いなくおかしな状況だ。おじいちゃんとはボクがこのゲームを始めた当初からの付き合いで、お互い軽口を言い合えるような間柄だし、おばあちゃんの方はまだ顔を合わせて話をした回数こそ少ないが、それでも「おばあちゃん」呼びを許して貰えるくらいには仲良くなれているはず。

 そんな二人がボクたちに何の反応も見せないという時点で、不自然だと断定できる。


 おかしいと言えば、ボクだけがローブの人物からのプレッシャーを感じ取っているらしい点もそうなのだけれど、これについては相談すらできる状況ではないので後回しにしておきます。


「その人たちに何をしたの!」


 不自然ということは必ず何か理由があるはず。

 そしてその原因となりそうな人物はこの場においてただ一人しかいなかった。派手鎧の男性に向けて強い口調で問い質すと、「ひっ!?」と小さな悲鳴を上げてよろめいている。そしてそんな彼を守るように慌てて動く兵士二人もどこか引きつったような表情を浮かべていた。


 ……おお!

 そういえばボクたちは扉の陰から首だけを出した状態のままだったね。あちらからすれば薄暗い中で生首が三個縦に並んでいるように見えたのかもしれない。


「見―たーなー。呪ってやるう……」


 悪戯心を刺激されてそんな台詞を口にしてみたところ、目に見えて怯えているのとまったくの無反応に二分された。


 前者は当然派手鎧の男プラス兵士二人で、男性に至っては目じりに涙すら浮かべている。ホラー系は不得手なのかもしれない。

 ……いやいや、それならこんな所に来るなよ、と言いたくなるね。

 はてさて、功名心を刺激されてしまったのか、それともここにはいない誰かに上手く乗せられてしまったのか。いずれにしても場違いな人物であることには変わりはなさそう。


 それに比べて、おじいちゃんアンドおばあちゃんにローブの人の方は、そんな騒ぎなど気にも留めずに観察を続けていた。

 そこには個人の意識のようなものが感じられず、与えられた命令を淡々とこなすだけの機械を連想させられた。


 ふと、そんな彼らの首に見慣れないものがあることに気が付く。


 首輪だ。


 それもチョーカーのような可愛らしいものではなく、がっつりと首全体を覆うような無骨で不気味な代物だった。

 ……まあ、おばあちゃんならともかく、おじいちゃんが可愛らしいチョーカーを付けていたら、それはそれでビックリだろうけれど。


 ああ、でも、同じ年齢の男性でもエルフだから見た目だけはナイスミドルもしくはそれよりも若い、クンビーラの冒険者協会支部長ことデュランさんなら似合うかもしれない。

 本人も割とノリがいい方だから率先して付けていたりして。


 可愛めのチョーカーが似合う男性談義はさておき、現在おじいちゃんたちが装着している首輪は不審そのものだった。

 ここは一つ詳しく調べてみねばなりますまい!


「〔鑑定〕光線発射!みーみみみ……!」

「ひいいいっ!?な、何が起きているんだ!?」


 ハッタリ満載なボクの台詞に半泣きで悲鳴を上げる派手鎧男性。

 どうでもいいけれどこの呼び方、一文字違うと『ハ〇鎧男性』と、とんでもなく危険なことになりそう。

 うん。本当にどうでもいいことだったわ。


 とかやっている間に〔鑑定〕完了です。

 えーと、なになに……。


 ナ、ナンダッテー!?


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