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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十三章 暗い地面の下で

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471 少しずつ見えてきた

 リアルでは開けて翌日、再度ログインです。

 え?ついさっき始めたばかりだったって?


 ふ、ふふ……。ミルファとネイトによる長時間にわたるステレオお説教に心が折れてしまったのですよ。

 昨日はあの後すぐにログアウトして、ふて寝をしたリュカリュカこと優華ちゃんでございますよ!

 なお、お母様から「だらだらしているくらいなら勉強しなさい」と言われてふて寝はできなかったもよう。


 さて、予想通り通路の突き当たりの壁に開いた扉から中の様子を伺ってみたところ、そこは何やら入り組んだ空間となっていた。

 ああ、入り組んだと言っても迷路状になっているという訳じゃないよ。作り自体は簡単で、そこそこの大きさ広さのある場所を間仕切りによっていくつもの小部屋にしていたのです。


 余談だけど、天井にはいくつもの照明が取り付けられていた。その内の半数ほどはさすがに燃料切れとなってしまったのか、ただのオブジェクトとなり果ててしまっていたのだけれど、今でもそうした光景がはっきり見える程度には十分な光量を提供してくれていたのだった。


「どこの小部屋も同じような造りになっていますわね」


 一通り見て回って感じたことをミルファが代表して口にする。小部屋はどこも六畳から八畳ほどの広さで奥に炉か何か火をくべる場所があるだけの簡素なものだった。一部の部屋には机や椅子だったものだろう残骸が残されていたけれど、特別視するほどのことではないだろうね。

 それよりもこの光景、どこかで見たことがあるような気がする……?


「鍛冶や作業用のスペース、ということでしょうか?」


 ああ、そうか!

 メイションにある生産のためのレンタルスペースとそっくりなんだね!


 説明しよう!『生産用レンタルスペース』とはその名前の通り生産を行うための簡易施設で、規定量のデナーを支払うことによって生産の設備を一定時間借りることができるのだ!

 必要になる基礎的な道具類も一緒に貸し出してくれる――ボクの〔調薬〕の場合であれば『基礎調薬セット』になるね――ので、特に生産初心者のプレイヤーによる利用が多いそうです。

 さすがに原材料になるアイテムは自前で揃えないといけないけれどね。


 それと、熟練(ベテラン)プレイヤーがあまり利用しない理由が実はもう一つある。あくまで簡易の施設であるため、ハイレベルな原材料を加工するには力不足となってしまうのだ。

 鍛冶を例に挙げると、炉の温度が低すぎて原料の金属系アイテムを融解させることができない、ということになる訳ですね。


 そのため、クリエイター系プレイヤーは技能熟練度が上がると、各自のワールドに独自の専用生産施設を作り上げるという展開となることが定番なのだとか。

 むしろ、それをゲームの第一目標としている生産系プレイヤーも多いらしい。


 一方で、割高を超えたぼったくりな金額を支払わなくてはいけないにもかかわらず、メイションに()わざわざそうした高等技能対応の専用設備を作ってしまったプレイヤーもそれなりにいるのだそうだ。

 プレイヤー本人には相応の時間が必要となるが、メイションにいる間は本編世界の時間が停止していることを利用して、あっという間に大量のアイテムを製作できる――ように見せかける――ことができる等のメリットがあるので、需要は高いらしいです。


 牙龍槌杖を製作してくれたスミスさんもその一人だね。

 彼の場合は「仲間たちと共同で出資した」とかで一人頭に換算すると大した金額ではなかったという話だったけれど、そこはそれ、彼らは生産系のトッププレイヤーたちですから。

 ボクからすれば目玉が飛び出して行方不明になりつつ外れた顎が地面にめり込んで地球を貫通する、といった往年のギャグマンガ的な反応をしてもおかしくはないだけの大金だった可能性もあるのよね……。


 そんな彼らだけれど、牙龍槌杖のことが評判になったとかでプレイヤーたちからの依頼が殺到して、あっという間に収支がプラスへと転じたのだそうで。

 ボクのような新米プレイヤー向けの作品だったにもかかわらずその反応とか、グロウアームズ効果恐るべし……!


 そういったあちらの状況はさておきまして。


「おおまかに用途は予想ができましたけれど、それならば地上に作れば良かったのでなくて?ドワーフたちの集落だったのですから、誰も疑問には思わなかったのではなくて?」

「うーん……。いくつか理由は考えられるけれど、一つはこの空間が元から存在していたから、かな。ほら、よく見て。間仕切りだの炉や煙突だのはかなり傷んでいるのに、周囲の壁面の石材にはそういった様子が全然ないよ」

「すすなどで汚れているところはありますが、リュカリュカの言う通り不自然なほどにしっかりとしていますね」

「確かに、強く押せば崩壊してしまいそうな間仕切り部分とは比べ物になりませんわね」


 ミルファさん?単なる例えだとは思うけれど、絶対に崩さないでね?


「ところで、他にはどのような理由が思い付きましたの?」


 ちょっぴり頬を引きつらせていると、言い方がまずかったことを察したのかミルファがあからさまに話題を変えてくる。

 こちらとしても長々と嫌味たらしく引きずるつもりはなかったので乗ることにしますよ。


「単純に隠したいものがあったからだと思うよ」

「隠したいもの?」

「これだね」


 頭上に???《ハテナマーク》を浮かべる二人にアイテムボックスから非常用通路の行き止まりに突き刺してあった明かりを取り出し、そこにはめられていた赤い欠片を見せた。


「こんなものにまで使用されていたんだから、ここのドワーフたちは緋晶玉に大量の魔力が込められていることに気が付いていたはずだよ」


 だけど、その事実は現代のドワーフの里には伝わっていない。恐らくはこの集落の人たちだけが知る秘密として隠し通していたのだろうね。


「多分ここは緋晶玉を燃料とかに用いていた隠し工房だったんじゃないかな」


 公にするには危険過ぎると判断されていたのか、それとも単純に自分たちの優位性を保つためだったのか。両方という可能性も高そうよね。

 あの大きな建物跡は、ボクたちが予想した通り他所から来た人のための宿泊施設だったのかもしれない。


 いずれにしても、この地が他の集落に比べて栄えていた背景には、緋晶玉の利用があったと断定して良さそうですな。


スミスたちへの注文が殺到しているのは、グロウアームズへと変化した武器を作ったことはもちろんですが、それ以上に「テイマーちゃんの武器を作った」ということが影響しています。


リュカリュカは無自覚鈍感系主人公、かもしれない。

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