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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十三章 暗い地面の下で

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470 幻影とスイッチ

 結局、仕掛けを発見することができたのはタイムアップ直前のことだった。見つけたのはトレアで、アシストはエッ君ということになるのかな。


 その時、ネイトはたまたま気になる部分があって、手にしていた明かりを下においてペタペタと両手で壁を触っていたのだそうだ。

 で、その明かりをエッ君が蹴っ飛ばしてしまい、床の真ん中あたりにまで転がしてしまった。

 そしてエッ君代わりに明かりを拾いに近付いたトレアが、何もないはずの床に不自然な影が伸びているのを発見した、というのが一連の流れとなります。


「多分ですが、魔法を用いて何もないように見える幻を生み出しているのではないでしょうか」


 お昼を挟んでログインし直したボクを待ち受けていたのは、ネイトのそんな台詞だった。そうするとその幻発生の魔道具にも緋晶玉が使用されている可能性が高そう。


 これはだけ短期間に何度も使用されているところを見ると、この地下全体では相当数の緋晶玉が用いられているのではないだろうか。

 きっとそれだけでも尋常ではない量の魔力が確保できるはず。だとすれば悪用されないためにも、手っ取り早くこの場所を埋めてしまうことも考えるべきかもしれない。


 そんな思考の海に沈んでいたボクの意識を引きずり上げたのはミルファの声だった。


「ですが、影が見えてしまうというのはお粗末でしたわね」


 台詞の割に彼女の表情に嘲りや侮りの様子は見られない。どちらかといえば訝しんでいる?


「どうかしたの?」

「……ここまで違和感なく幻で覆っていますのに、影だけ見えてしまうのは少々不自然ではなくて?」

「つまり、罠かもしれないと思っちゃった訳か」

「ええ。そういうことですわ」


 油断したところにガブリ!とかブスリ!というのは罠の応用方法の中でもよくある部類だものねえ。

 あちらこちらを探し回ってようやく仕掛けを見つけたとなれば、条件反射で飛び付いてしまう人もいるだろう。

 実際にボクたちだって――特に精神面での――疲労の度合いはかなりのもので、もう少し発見が遅ければうかつにも手を伸ばしてしまっていた可能性は否定できないです。


「リュカリュカの〔鑑定〕ではいかが?何か分かりましたかしら?」

「んー……。残念ながらネイトの仮説が正解だったことしか読めないね……」


 もしかするとこの幻には、仕掛けを〔鑑定〕されることを防ぐ役割もあるのかもしれない。


「罠である確率が上がった気がしますわ」

「でも、逆にその裏をかいている可能性もあるよね」


 疑心暗鬼を煽るだとか、今のボクたちのように意見が割れるのを目的としていた線も考えられる。

 ……うん。考えれば考えるほどにドツボにはまるような気がしてきた。


「よし!どんな仕掛けなのかは分からないけど、とりあえず触ってみよう!」

「危険ですよ!?」

「危ないのは承知の上。それでもここは手を伸ばしてみるべきだと思う」


 虎穴に入らずんば虎子を得ず、なのです。

 ところで、虎の子どもを捕まえて何をする気だったんでしょうかね?


「それに、こうしている間にも競争相手は先に進んでいるかもしれないし」


 ボクのこの言葉が決め手となって、仕掛けに触れてみることになった。その代わり、


「絶対に離れませんから」


 念のため避難しておいて欲しいという要望は受け付けられませんでした。プレイヤーとNPCの違いを説明する訳にもいかないところが説得のネックとなってしまった形だわね。

 ただ、ミルファもネイトも、メイションへと出入りできること等から薄々はボクの存在が普通ではないと勘付いている節が見受けられていたのだけれど。

 いずれはきちんと説明するべきなのか、悩みどころであります。


 それはともかく、二人が梃子(てこ)でも動きそうにもないとなると、当然うちの子たちもすぐ近くに居座ったままとなってしまった。

 信頼というより心配で目が離せないという雰囲気の方が強いのは、ご主人様として異議を申し立てたいところなのですが?


「それじゃあ、探ってみるよ」


 前置きしてから幻が展開されている場所へと手を伸ばしていく。「箱の中身はなあに?」と手で触った感触だけで答えを当てる、お笑い系クイズ番組の参加者の気分だわ……。

 そんな調子でドギマギしていると、


「お?……うわあ……!」


 ある一定のところを境に、差し込まれた手が全く見えなくなってしまう。


「だ、大丈夫ですの?」

「うん。しっかりと手の感覚は残っているよ。単に見えなくなっているだけだね」


 さっきまでの不安はどこへやらで、リアルではなかなか体験できないことだから状況を忘れて楽しんでしまいそうになる。


「おっと、真面目に探さないと」


 ワキワキと指を動かしながら、そろりそろりと幻で囲まれた空間の中を手探りで……、ってよく考えたら顔を突っ込めば中が見えるのではないだろうか?

  閃いたと同時に体を前のめりにして幻影の中へ。ほほー。思った通り良く見えますですぞ。


 背後からの呼びかけに「だいじょうぶー」と軽い調子で返しながら探索続行。

 幻の内側だけでなく外までぼんやりと見えるとか、便利な構造だねえ。


 視線をさ迷わせた結果、床に二つスイッチらしきものを発見。

 恐らくは片方がこの幻の発生させるもので、もう片方が隠し扉を開くためのものだろうね。という訳で時間もないので、さっさと動かしましょうか。


 まあ、後から振り返ってみると色々とうかつだったり()き過ぎたりしていたと思う。

 でもさ、ネイトとミルファの二人揃って両側からステレオでお説教をしなくてもいいのではないでしょうかね!?


「リュカリュカ!ちゃんと聞いていますか?仕掛け以外に何もなかったから無事だったものの、あそこに致死性の罠が仕掛けられていたとしてもおかしくはなかったのですからね!もっと用心しておかないと、いつかは取り返しのつかないことになってしまいます!」

「大体、こちらに一言の断りも入れずに扉を開くなど非常識ですわね!向こう側には有毒なガスが充満しているとか、魔物が巣を作っている可能性だってありましたのよ!そうした事態への心構えができていなければ、どんなに百戦錬磨の冒険者でもあっという間に命を落としてしまいますわ!」


 うちの子たちはというと、そんなボクたちのことなど見えていないかのように全員が開いた扉から中を伺っていた。

 しっかりと危機管理ができているようで何よりだね!


 ひえええ……。

 誰か、助けて……。


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