468 こんな所にも!?
どういう理由があって緋晶玉がその存在を隠匿されたのかは不明だけど、一つだけはっきりしていることがある。
「これは下手に情報を広めることはできないよ」
こんな小さな欠片ですら、照明の魔道具を数百年間延々と稼働させられていたのだ。もしも地下遺跡の絵の一つにあったような採掘現場が残されていたとしたら大変なことになってしまう。
「不穏な予想はしたくはありませんが、割と確実に緋晶玉を巡って戦争が起きることになると思います……」
ネイトの言い方でさえ抑え気味な方で、恐らくは『三国戦争』並みかそれ以上の争いとなることだろう。
「もしくは緋晶玉の秘密にいち早く辿り着いたどこかの陣営が、残る国々を一方的に蹂躙して回るか、ですわね……」
魔力というのはいわゆる「純粋なエネルギー」というやつだから、燃料にもなれば劇物にもなり得るのです。
緋晶玉に溜め込まれている魔力を抽出して使うことができるようになれば、上級魔法の連発なんてことも可能となる。
もしかすると、中級魔法を使える人たちを多く集めることで無差別広範囲攻撃という手段に出るやからだっているかもしれない。
それが空を征く船のような手の届かない場所から放たれるとなれば、攻められた側は碌な反撃もできずに一方的に壊滅させられることになるだろう。
ちなみに、クンビーラの公主様たちに依頼の証拠品として彼らの御先祖様が刻んだと思われる石板共々渡してしまったけれど、そちらは力が失われていたのでギリギリセーフなのです。
たぶん、きっと、めいびー……。
「とりあえず危険物ということで、こっちの明かりも回収しておくよ」
向かいの壁に刺さっていた照明も引っこ抜いて、アイテムボックスに収納しておきます。
それによって単純に光量が半減して周囲が薄暗くなる。なんと言いますか、地下だとか遺跡だとかダンジョンだとかいう雰囲気が出てきた気がする。
不謹慎だと咎められそうなので、口にはしないけれど。
「とにかく奥に進もうか。のんびりし過ぎて先を越された、なんてことになったら情けないものがあるし」
「確かに、緋晶玉のことはここから出た後に考えても間に合いますでしょう。今はこの奥に何が隠されているのかを探ることを優先するべきですわね」
いくら隠された秘密の場所だとしても、緊急時に使用する非常用通路に罠を仕掛けるようなことはないだろう、と思いながらもネイトの〔警戒〕とボクの〔鑑定〕を併用しながら奥へ奥へと進んで行く。
実はとある筋、ぶっちゃけるとメイションで仲良くなったプレイヤーの一人からなのだけれど、その人からの情報によれば「専門の技能には及ばないが、複数の技能を組み合わせることでそれらしい効果を得ることができることもあるんだぜ」とのことで、その代表格の一つが、今ボクたちが使用している〔警戒〕と〔鑑定〕の併用による罠の在り処を探る作業だったりする訳です。
余談だけど、隊列としては急襲にも対応できるリーヴを先頭にして、その後ろにボクと明かりを持ったネイト、さらにトレアが続き最後尾にミルファとなっていた。
エッ君は初の地下探索となるトレアを安心させるため、彼女の背中に乗ってもらっているよ。
「こんな所に罠が仕掛けられているはずがないって甘く考えていた自分を叱ればいいのか、それとも、それでも一応用心に用心を重ねて技能を使っていこうと決めた自分を誉めればいいのか、とっても悩ましい……」
えー、結果としてはフラグを建ててしまったのかと後悔しそうなほど、いくつもの罠が仕掛けられていました。
「側面から矢が飛び出してくるものが七回に、釣り天井が落ちてくるものが四回ですか……。あ、そこの床も危ないみたいです」
「リーヴ、お願い。くれぐれも気を付けてね」
どこからの攻撃でも対処できるように剣と盾を構えたリーヴがネイトの指さしていた場所へと足を進める。すると側面から音もなく何かが飛び出し、ネイトの持つ明かりを受けて一瞬のきらめきを残したかと思うと、リーヴの頭上を通り過ぎて反対側の壁へと突き刺さったのだった。
「……えーと。今度は矢じゃなくて毒針が飛び出してくるものだったみたい」
まあ、毒の方は長い年月の間に干からびてしまって効果が失せてしまっているようだけれど。
「……こうなると定番の落とし穴がないのが不思議に思えてきますわね」
「んー……、多分落とし穴はないと思うよ」
「どうしてそう言い切れますの?」
「だって、引っ掛かったりしたら危ないでしょ」
と疑問に答えたものの、これでは説明になっていなかったようでミルファやネイトだけでなくうちの子たちも揃って首を傾げていた。
うん、かわいい。思わずスクショを撮ってしまったのも当然で、いわば自然の摂理というものでしょう。
おっと、うちの子自慢はまた日を改めて行うとしまして。
正直、ボク自身言葉が足りなかったと思っていたので、先ほどの落とし穴がない理由を詳しく解説していきましょうか。
「ミルファは今までに作動した罠がどうなったか覚えてる?」
「罠がどうなったか?……確か、飛んできた矢は全てリーヴの頭上を通り過ぎて行ったと記憶していますわ」
「うん、その通り。それじゃあ、天井が落ちてくる罠はどうだった?」
「ディラン様たちから聞いていた話とは違って、床まで落下することなくわたくしたちの目線よりも少し下くらいの位置で止まっていましたわよね」
これまた正解。場合によっては一回限りの使い捨ての仕掛けのこともあるらしい天井落下の罠だけれど、ここではしっかりと鎖が括りつけられていて、何度も繰り返し使用できるエコ?な仕様となっていた。
「ですが、それがどう関係していますの?」
「ヒントは高さ、そして身長だよ」
むしろここまで言ってしまうと、答え一歩手前だよね。
「……まさかドワーフたちは自分たちの低身長を逆手に取って?……そういうことなのですか?」
先に気が付いたのはネイトの方だった。
「多分、ね」
「例え罠が起動しても自分たちには危害が及ばないように計算し尽くされていたのですわね。ですから反対に巻き込まれる可能性がある落とし穴は存在しない。そういう理屈ですのね?」
「あくまでもボクの予想に過ぎないから、絶対とは言い切れないけどね」
もしかするとこの通路は単なる非常用の緊急避難のためのものではなく、自らを囮にして侵入者を引き込んでは排除する役目も持っていたのかもしれないね。
いやはや、何とも物騒なことで。




