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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十三章 暗い地面の下で

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466 楽をする理由

 息を潜めて頭上の気配を探ること数分。ネイトが察知した連中が現れるどころか、あの扉が再び開かれる様子もなかった。


「ふう……。いつまでもこうしていても仕方がないね。そろそろ奥に進もうか」


 このまま来るかどうかも分からない相手を待ち伏せしているだけでは、時間を無駄に浪費するだけでなく先にこの地下へと入り込んだアドバンテージさえも失ってしまうことになりかねない。

 実はあちらは正規の出入り口の在り処を知っていた、なんて可能性も()きにしも(あら)ずなので。


「それにしても見事なほどに真っ暗ですわね。……まあ、地下なので当たり前と言えば当たり前なのですけれど」


 通路の先を見据えながら、誰に聞かせるでもない様子でミルファが独り言を口にする。その言葉の通り、通路はボクたちから少し離れた地点で闇に閉ざされていた。

 ただし、こちらは頭上の真っ暗暗黒空間とは違って、ごく普通に明かりがないためというだけのことらしい。

 試しに【ライトボール】の魔法を撃ち込んでもらうと、魔法の効果時間中は問題なくその周囲を見通すことができたのだった。


「本来であれば上の暗闇やここの明かりの方がおかしい訳ですからね」


 苦笑いをしながらミルファに同調するネイト。おかしいと言えば出口のキーワード認証の仕掛けや床の低反発素材も同じなのだけれど、それについては一旦気にしないことにしたみたい。


 今の会話で分かったと思うけれど、地上から落下してきた先である通路の行き止まりの壁――梯子の残骸があった面が突き当たり側で、こちらは側面となるね――にはリアルでおしゃれな庭園に置かれている外灯のような明かりが二つ向かい合うように灯されていた。

 恐らくは何らかの魔法によるものだろうという予想は立てられたのだけれど、ボクたちは誰一人として魔力を感知するといった技能を持っていないので詳しい原理などは全く分からないままの謎明かりです


「……この明かり、持っていけないかな?」

「また、突拍子もないことを言い出しましたわね……」


 ミルファさんや、いきなりであることは認めるけれど、そんなに嫌そうな調子で言わなくてもいいんじゃないのでせうか?

 あっ、あ!ネイトまで「やれやれだぜ」って顔をしているし!


「あのねえ、二人とも。単なる思いつきだけで言っている訳じゃないんだからね!」


 ちゃんとした理由だってあるのだよ、わとそん君!

 ……まあ、唐突に閃いたという部分はあるので思い付きだというのも事実なのだけれどさ。


「そもそも、明かりであればリュカリュカが〔生活魔法〕の【光源】を使えるようになっていたのではなくて?」


 いえす。『土卿王国』へと出発する前に、貯まっていた技能ポイントも使って一気に習得しちゃっていますとも!

 技能ポイントはもらえる機会に限りがある貴重品ではあるけれど、実際にクンビーラの地下施設では色々と重宝したこともあって、それほどもったいないという気持ちにはならなかった。


 それはともかくとして、せっかく話題を振ってくれたのだから明かりを持っていこうとした理由を説明してあげようではないですか。


「ミルファの言う通り【光源】の魔法は使えるようになっているよ。そして一回当たりのMP消費量も大したことはない。でもね、ボクたちはこの地下がどれだけの広さがあるのかも分かっていないんだよ。もしかすると空飛ぶ島へ転移できる魔法陣があったあの地下遺跡のように番人がいるかもしれない」


 あの時は施設の外と中の都合二回ボス戦をすることになったのだっけ。二回目は元より、一回目もあの外見と鳴き声はともかくとして間違いなく相当な難敵だった。

 仮にここが大陸統一国家時代に関する場所であるならば、同じように強力な番人や守護者が配置されている可能性は高いのです。


 リアルでもそうだけれど、接戦であればあるほど、ほんの少しの差によって最終的な勝敗が分けられるという事態は多々あるものなのだ。

 ボク自身は華麗で優雅な帰宅部だったので直接経験したことはないが、中学時代のクラスメイトたちの多くが部活動に励んでいたこともあって、チームメイト同士でのレギュラー争いから全国出場をかけての他校との試合に至るまで、似たような話はいくらでも耳にすることがあったという訳だね。


「ただでさえ今のボクたちは、つがいのマーダーグリズリーという強敵を相手にしたばかりだから。勝った高揚感で感じにくくなっているかもしれないけれど、残念ながらあの程度の休憩では疲労は取りきれていないはずだよ」


 今後に備える意味でも、楽ができるのであればそれに越したことはないのです。


「なるほどですわ。確かにそう言われれば一理どころか、二理も三理もありそうですわね」


 ミルファの言葉にネイトも神妙な顔で頷きを繰り返している。

 どうやら納得してくれたようだ。


「まあ、持ち歩く都合上、最低でも誰かの片手が塞がれてしまうことになるんだけどねー。それに、この明かりが引っこ抜けるかどうかもまだ分からないし」

 それを見計らってあっけらかんとデメリットを告げると、二人揃って力が抜けるように体を傾げる。

 うむ。本職のお笑いの人たちには到底及ばないにしても、なかなか良い反応だったよ。


 もっとも、ぱっと見では根元の部分が壁にズッポリと突き刺さっているだけのようなので、強引に引っ張ってやれば抜くことはできそうな気がする。

 刺さっている壁の方も、一見した限りでは土をしっかりと押し固めただけのようにしか見えないので。


 もしかすると、使用されていたそのまた昔には表面を何かで覆って補強していたのかもしれない。が、それらしい形跡もないので、あくまでもボクの予想にしか過ぎないです。


「それじゃあ、ボクたちが楽に探索するための第一歩として、この明かりが引っこ抜けるか試してみるとしましょうか!」

「その通りではあるのですが、その言い方だととっても外聞が悪いですわね!?」


 見ず知らずの人たちの身勝手な意見なんてどうでもよろしい。と言いたいところだけれど、ミルファは為政者の血筋なので、それらを完全に無視するようになるのは問題かもしれないねえ……。


 さて、問題の明かりですが、力自慢が多いうちの子たちに出張ってもらう必要もなく、ボクが軽く力を入れただけで壁から取り外すことができたのだった。


「あれ?ここに何かが押し込まれてる?」


 明かりの根元辺りに作られた小さな穴の奥に赤い物が見えたので、すっかり癖になりつつある〔鑑定〕を使ってみたところ。


『緋晶玉の欠片』


 また緋晶玉(おまえ)か!?


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― 新着の感想 ―
[一言] >また緋晶玉(おまえ)か!? これで大陸統一国家時代の遺物だと確定じゃないですかー。 これで、ここでも「ギャオッスー」で「声が小さい、もう一度ぉ」で「ダメだこりゃ、次いってみよう!」が出…
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