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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十二章 山高く谷深い場所で

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465 まさかの正解

「ちょっ!?いきなり――」


 ――何をするだあ!?と抗議する暇もなく、


「静かに!何者かが近付いて来ています!」


 ネイトから衝撃の情報がもたらされる。そのあまりのタイミングの良さに、ボクは「ぐぬぬ……」と唸ることしかできなくなったのだった。


「それで、いかがいたしますの?逃げる?隠れる?……それとも戦いますの?」


 緊迫感のこもったミルファの声にハッと我に返る。いくらネイトの〔警戒〕技能が優秀だと言っても、その範囲がキロメートル単位に及んでいる訳じゃない。下手に逃げようとしても後姿を目撃されてしまう可能性は高い。

 そして接近して来ている何者かの情報が全くないので、安易に攻撃という選択を取るのも危険だ。

 結局のところ、取れる行動は一つしかなかった。


「二人とも、隠れるよ」


 幸い元畑区画の方はボクたちの背丈に迫る長さで野生化した植物が生い茂っている。お馬さんの身体があるトレアには窮屈かもしれないけれど、何とかやり過ごせるのではないかな。


「で、ですが、私たちは隠れられてもこの穴はどうすることもできないのではありませんか?」

「バレたらバレた時だってば」


 ネイトの心配も分からないではないよ。深さこそそれほどではないけれど、幅二メートル奥行き一メートルもの範囲の土が掘り返されているのだから、よっぽどのお間抜けさんでなければ発見されてしまうことだろう。


 だけど、わざわざこんな道から外れた集落跡にまで足を延ばしてきたほどだからね。あらかじめ詳しい情報を持っていて、それに沿ってこの場所を訪れたと考える方が自然な気がするのだ。

 つまり、発見されて当たり前ということです。


 刻一刻と時間もおしてきているので急いで移動を、と改めてみんなを誘導しようとした瞬間にそれは起きた。


 ガコン。


「はい?」


 何かが外れるような音がしたかと思うと、そんな間が抜けた……、コホン。えー、気の抜けた声を残してミルファの姿が消え失せてしまったのだ。


 突然の展開に何が起きたのかが分からず、ううん。正確には心を守るために一時的に頭が働くのを拒んでいたのだろうね。

 二度三度と(まばた)きをしてから再度その光景を目にしたことで、ようやくそのショッキングな状況を理解することができた。


「ミルファが穴に落ちちゃった!?」


 そう、彼女はずっと例の埋まっていた謎金属の上に乗ったままだったのだけれど、何が原因だったのかそれが開いてできた大穴に呑み込まれてしまっていたのだ。

 急いで覗き込んでみるも、すぐに光を通すことのない真っ暗闇が広がっているという、これまた何やら不可思議な仕掛けで奥が見えなくなっていたのだった。


「だけど、どうして突然に……?って、まさか開けマゴ(あれ)がキーワードだったの!?」


 いやいや、まさかそんな冗談じみたことはないでしょう。

 そう突っ込みながらも頭の片隅では冷静なもう一人の自分が「それ以外に考えられない」と冷静な判断を下す。

 だからこそ確認してみたくなってしまい、気が付けば対になる言葉をつい口にしてしまっていた。


「……閉じろマゴ」


 その短い単語に反応して、闇の中の片側から腐食して赤茶けた金属らしきものがせり上がってくるのが見える。


「いっけない!閉じたら二度と開かなくなるかもしれない!みんな急いで飛び込んで!」


 冷静に考えれば、一度開いたのだからもう一度開けることだってできたのではないかな。

 ミルファがいなくなった上に後を追いかけることができなくなるかもしれないと感じたことで、ボクは自分で思っていた以上に気が動転してしまっていたらしい。

 ここで追わなければ二度と彼女に会えなくなる。そんな強迫観念じみた気持ちに突き動かされるようにして、暗闇へと身を投じていた。


「ふぎゅ」

「むぎゅ」


 どん。

 とん。

 たん。


 誰がどの順番で着地したのか説明しなくても分かるような気もするけれど、一応解説しておこうか。

 まず、ボクとネイトだけれど、ものの見事に着地に失敗して頭から床に突っ伏すことになってしまった。弾力性のある謎素材が敷かれていたから良かったけれど、固い地面や床であれば――ゲームだからね――死にはしないものの大ダメージを受けるところだったわ。


 おかしいなあ……。ネイトはセリアンスロープで高い身体能力を有しているはずだし、ボクの〔軽業〕技能もそれなりに高い熟練度になっているはずなのだけれど、全く役に立たなかったよ。


 次にうちの子たちですが、トレアにリーヴ、最後のとりにエッ君の順番となります。

 女の子のトレアの着地音が一番大きかったけれど、こればかりは体の大きさが違うので仕方のないところだね。それでも全員足から綺麗に着地していたのだから、カッコ悪いボクたちとは雲泥の差となっていた。

 エッ君に至っては着地直前に宙返りを決めていたほどだ。


「な、にを悩んで、いるのかは、知りませんが、リュカリュカもネイトも、早く、どい、て、ください、まし!」


 身体の下からくぐもった声が聞こえてきたので、ネイトと二人で慌てて体を持ち上げると、謎素材の中にミルファが全身すっぽりと埋まっていた。


「おーう……。どうやらボクたちはミルファを下敷きにしてしまっていたようだね」

「状況が分かったのであれば、早く引っ張り出して欲しいところですわね!」


 追記。ミルファを引きずり出した跡は、まるでギャグマンガのように綺麗な人型をしていました、まる。

 しばらく経つと跡形もなく消えてしまったので、リアルで言うところの低反発素材のようなものなのかもしれない。

 現在ボクたちがいるのは通路の行き止まりのような場所であり、落ちてきた穴の真下にこの謎素材が敷かれていたのだった。


 余談だが、壁の一面には本来なら上り下りに使用するための梯子らしきものが設置されていた。とはいえ長い年月で風化して壊れてしまったようで、その残骸の一部を壁に残すだけとなっていた。要するに使い物にならないことに変わりはなかったということだね。

 でも、その割に出口の開閉だとか、謎の暗黒空間だとか一部の仕掛けだけはまだしっかりと作動していて、何だかちぐはぐな印象を持ってしまいますですよ。


「あの真っ黒な空間があるのでわかりませんでしたが、どうやらこの通路までの深さはそれほどではなかったようです」


 上からボクたちを見ることができないのはいい。だけど、反対にこちらからも上の様子が探れないのは困ったね。

 せめてボクたちと同じく、あの扉を開けることができるのかどうかくらいは知りたいところだったのだけれど……。


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