463 穴掘り、掘り掘り
徐々に秋も深まりを見せて過ごしやすくなってきた土曜日の朝。里っちゃんは勉強の秋で、雪っちゃんはスポーツの秋と、それぞれ青春を謳歌?しているもようです。
まあ、里っちゃんの場合は学生会活動が忙しくて後回しになっていた部分を一気に消化、吸収してしまおうということのようだけれど。テスト前の一夜漬けレベルの勉強法でしっかりと吸収までできてしまうとか、あの従姉妹様だけは本当に底が知れないです……。
そしてボクはというと、生活リズムが乱れないように平日と同じいつもの時間に朝食を食べると、自分の部屋へと舞い戻っていた。
勉強?ノンノン。『OAW』という異世界への旅を絶賛続行中なのであります。
だって昨晩はマーダーグリズリーのつがいという珍客による乱入もあって、暖炉カッコカリの下にとっても固い何かが埋められているのを発見したところで時間切れとなってしまっていたからね。
リアルの方では中間試験が迫ってきてはいるけれど、夏休み明けのテストの出来が良かったことから、今週末までは自由時間を確保することができていた。これを利用しない手はないというものなのです。
それでもお母さんからは、朝ご飯の最中にしっかりと小言を頂くことになっていたけれどねー……。
どうせ明後日の月曜から後には嫌でも向き合うことになるのだから、リアルのことは一旦置いておきまして。
むしろその時心残りなく勉強に集中するためにも、過去のドワーフたちが隠したらしい何かを見つけ出さないと。
「それにしても、ドワーフたちが隠したものって一体何だろうね?ものによってはどう報告するのかも考えておかないと」
状況的に長年『土卿王国』が研究し続けてきた『空を征く船』関連である可能性が高いのよね。
険しい山岳地帯が国土の大半を占めているこの国にとっては、安全で短時間に各地を行き来できるようになる空を飛ぶ技術は平地の多い他の国よりも需要が高い。
いっそ悲願だと言ってもいいくらいだ。
しかし、空を飛ぶことは簡単に軍事転用できてしまう、という危険性が付きまとっている。
特に今のジオグランド中央は、自国の民であり本来は守るべきはずのドワーフの里を壊滅させることも辞さない程に暴走傾向にある。降って湧いた力に目が眩むことは十分に考えられるのです。
「クンビーラの近くにあった地下施設みたいに、『浮遊島』への転移装置なら壊せばいいだけなんだけど」
「あれだって古代の優れた技術なのですから、破壊することを前提にするというのはどうかと思うのですが……」
ボクの呟きに休憩を終えたネイトが突っ込みを入れる。とはいえ、その顔には苦笑いが浮かんでおり、そうするより他の方法がないと理解しているようだ。
例え空飛ぶ島に乗り込んだところで、今のボクたちのレベルではそこを住処にしている死霊たちを倒すことはできないからね。結局のところ壊して――自動修復機能が付いている可能性が大なので、いずれは復活するかもしれないけれど――誰にも利用できないようにすることが一番なのだ。
付け加えると、街や町などに限定はされるものの『転移門』という形で似通った技術が存在していることも、ネイトが絶対的に反対しない理由の一つだと思う。
ボクとしても『転移門』が実用化されていなかったならば、きっと破壊することにもっと躊躇いを覚えるはずだ。
ただ、なんだかんだ言いながらも最終的にはやっぱり壊すことにすると思うけれど。過ぎた力は身を亡ぼす、ってね。
「二人とも気が早過ぎませんこと。まるで「宝箱を前に中身を夢想する冒険者」そのものですわね。まったく……。まだ何かがあると見つけてもいないどころか、その場所に入ることすらできていないのですから」
そんなボクたちにミルファが苦言を呈する。まあ、その大半は自分だけが穴掘り作業をしていることへの不満に対する愚痴みたいなものだね。
あ、ボクたちがさぼっているという訳じゃないよ。単に今は彼女の順番が回ってきていたというだけのことです。ネイトだって休憩が終わってからはこの穴掘りローテーションに参加していた。
ちなみに、宝箱うんぬんというのはこの世界特有の言い回しで、リアルで言うところの「捕らぬ狸の皮算用」に近い意味合いかな。
「はいはい。自分の順番の時間がなかなか終わらないからって、文句を言わないの」
「そ、そういうつもりでは!」
「落ち着いてください、ミルファ。リュカリュカのいつもの冗談ですよ」
ネイトさんや、その言い方だとまるで僕が普段から冗談ばかり言っているようではありませんかね?
「それに、ようやく終わりが見えてきたようですよ」
そんな台詞に促されるように掘り掘りしているミルファの足元を見てみると、赤茶色に腐食した金属製っぽい物の上面部がむき出しになりつつあった。
最終的に掘り返してみて分かったことだけれど、昨晩のログアウト直前でボクが突き当たった固い何かは、元暖炉カッコカリの下およそ五十センチの場所に埋まっていた。が、これがまた大きくて横およそ二メートル、縦およそ一メートルにわたって広がっていたのです。
ものの数分で発見できた割には、三人交代で長らく掘り進めなくてはいけなかった理由がこれだった。
「非常用通路出口、かあ……」
この金属は一体何じゃらほい?ということで、分かればラッキーくらいの軽い気持ちで〔鑑定〕を使用してみたところ、表示されたのがこれだった。
そういえばクンビーラ近くの地下施設への入り口を発見したのも〔鑑定〕技能を使用したからだったっけ。このゲーム、ヒントは出し渋ることが多いのに、たまにこうやって一足飛びに答えを出してきたりするよね……。
「だとすればさしずめこれは「通路の出口を塞ぐ扉」ということになりますのかしら?」
手にしたスコップで足元を突きながら、ミルファが浮かんできた考えを口にする。だけど、言った本人を含めてボクたち全員がそれには懐疑的となっていた。なにせ女の子とはいえ人一人が乗ってもびくともしない頑丈さな上に、今のところ隙間一つ見当たらないので。
そもそも、出口の先を暖炉に設定しているというのも、どう考えてもおかしいと思う訳です。
しかし、そんなボクたちの疑問に答えるものは何もなく、スコップの先端と当たった金属が、カンカンと硬質な音だけを響かせていた。




