457 もう一つの戦い 後編
うおっほん!
……えー、いつまでも恥ずかしがってはいられないので続きをば。エッ君の活躍もここからが本番だからね。
すれ違いざまにミルファに斬りつけられ、通り過ぎてからは後方よりネイトとエッ君の魔法や闘技の遠距離攻撃での追い討ちを受けることを繰り返したことによって、マーダーグリズリーは確実に弱っていった。
特に後足への攻撃の影響が顕著で、リアルの動物の熊さんと同じく二本しかなく前足と違って替えが効かないため、ダメージの蓄積はそのまま突進の速度や勢いの低下に繋がっていたのです。
ボク個人としては、お尻への攻撃が一番痛そうだったのだけれどね……。
そして、蓄積されたダメージはやがて限界を超えることになる。
「ギャオン!」
お尻へと命中した【アースボール】が着弾と同時に破片をまき散らして両の後足へも追加でダメージを与えていく。それが決め手となり敵の動きが目に見えて悪くなっていった。
「今です!ここから反撃に移りますよ!」
ネイトの掛け声が聞こえるや否や、エッ君がまるで何かに弾かれたかのような物凄いスピードでマーダーグリズリーへと突撃していく。
ちまちまと削りに徹していたことで、かなりのフラストレーションがたまっていたみたいね……。
突進攻撃を繰り返していた時からは到底及びもつかない速度へと減じてしまった、六つ足熊に追いつくのは容易いことだった。
しかもやつはまだ性懲りもなく戦意自体はなくしていなかったらしく、ミルファたちの方へと回頭しようとしていた。
が、こちらに向き直るよりも早くエッ君がそのどでかい図体を攻撃の射程範囲内へと収めていた。
「ゴ……、ゲガバッ!」
駆ける速度そのままに跳び上がったかと思えば、それ以上の速さでその横っ腹へと突っ込んでいたのだ。闘技の【流星脚】を使用したらしい。
いやもう突っ込んだというかめり込んだという方が適切な表現かしらん。ふかふかの毛皮に包まれた卵と、見ようによってはとてもなごむ光景かもしれない。
まあ、現実には攻撃を食らったマーダーグリズリーは、悶絶して口の端から泡を吹いていたのだけれど。
MPを消費するけれど、その代わりに防御力を無視するという凶悪な効果を持っているので、ある意味当然の結果というやつですね。
ちなみにこの頃のボクたちはというと、トレアが反撃の狼煙となる【弩弓】の一撃を額へと突き立てたところだった。
つまりボクたちは二手に別れながらも、奇しくも同じタイミングで反撃へと移行していたという訳だ。
ふっふっふ。実は狙っていた、なんてことはなくぶっちゃけただの偶然です。
ボクかネイトが全体の指揮を取っていたのであればまだしも、いくら模擬戦などでパーティー単位での戦闘経験をそれなりに積んでいたとはいえ、今のボクたちに二つに分けたグループ同士を適切に嚙合わせるだなんて技量はありませんよ。
第一、そんなことができるのならあんなに苦戦はしていないでしょう。
……まあ、自慢げに言うことではないんだけれどさ。
さて、こちらもまた反撃の狼煙に相応しい強烈な一撃を文字通り叩き込んだエッ君だったのだけれど、なんとこの子の攻撃はまだ終わってはいなかったのだ!
マーダーグリズリーがよろけて地面に倒れかけたのをいいことに、両脚プラス尻尾の連続回し蹴り?な【三連撃】と、尻尾サマーソルトの【昇竜撃】を続けて繰り出したのだ。
さらにさらに、
「エッ君、そのまま敵の注意を引いておいてください!」
というネイトの指令を受けて、さながら「鬼さんこちら」と言って挑発する逃げる側の子どもか、それとも「ねえ、今どんな気分?」と苛立つ顔つきで揶揄う煽り屋かといった風情で、ちょろちょろひょこひょことその周囲を回り始めたのだった。
まあね、敵の意識を集めるという意味では効果があったようだし、戦術的にはアリだと思うのですよ。
だけど、だけどね!うちのエッ君でば、いつの間にそんな性質の悪いことを覚えてしまっていたのでせうか!?
え?おおむねボクの影響だって?
黙らっしゃい。おやつ抜きにするよ。
これは後でリーヴやトレアも交えた家族会議案件なのでは?とボクが考えている間にも事態は進んでいて。
「ナイスサポートですわ、エッ君。これまでのお返しですわよ、【マルチアタック】!」
その隙に一気に距離を詰めていたミルファの双剣が無数に閃く。
周囲をうろちょろする卵ドラゴンにすっかり気を取られてしまっていたマーダーグリズリーに、それを迎え撃つどころか避けるだけの余裕もなく。
「ガアアアア!」
縦横無尽どころか斜めや曲線すらも描く剣閃になす術もなく、切り裂かれ深手を負っていくことになるのだった。
それでも『土卿エリア』山岳地帯東部に出現する魔物の中では随一の強さを誇ると言われているだけのことはあってか、沈めるまでには至らなかった。
というか、一般出現魔物の割にタフネス過ぎやしませんかねえ?
もしかすると『つがい』による強化が頑丈さに全振りされていたのかもしれない。または『OAW』のいつもの悪癖であるランダムイベントが密かに発生していたのかも。
うん。改めて考えてみると。後者である可能性が非常に高いような気がしてきたわ……。
この推測の結果についてはまた後で語るとして、終盤を迎えつつある戦いの方へと話を戻そうか。
いくら丈夫なマーダーグリズリーといえども、先の一連の連続攻撃には命の危険を覚えたらしく、負傷した後足を酷使することになると理解しながらも立ち上がることを選択したのだ。
これまでのような機敏な動きはできないとしても、四本の前足が自由になったのは大きかった。
ミルファたち三人が上手くタイミングを合わせて攻撃をしても、その四本に阻まれてしまい、胴体など主要な部分への攻撃を通すことができなくなってしまったのだった。
「くっ!ダメですわ!まるでこちらの動きを読んでいるかのように的確に防御されてしまいますの」
「ここで終わらせておきたかったところですが仕方ありません。リュカリュカたちが応援に来るまでは現状維持を最優先で!」
「せっかくここまで追いつめましたのに……!」
「だからこそ、です。後からやってきて美味しいところまで持っていかれたくはないでしょう。今は力を温存しておくときですよ」
……あれ?
それって応援というよりは、止めを刺すためのきっかけ待ちだったということなのでは?




