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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十二章 山高く谷深い場所で

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456 もう一つの戦い 前編

 解体を短縮設定にしていたため、倒したマーダーグリーはすぐさま光の粒子となって消えてさってしまった。

 余韻も何もあったものではないけれど、今はその方が良かったのかも。だって、まだミルファたちは戦いの最中だったからね。


 その残っていたマーダーグリズリーだけど、ボクたちにもう一体が倒されたことを知って激怒し、狂乱化することになった。

 どうやらやっぱり二体はつがいの関係だったらしい。でも、それなら別れたりせずに一緒に行動すれば良かったのに。

 まあ、マーダーグリズリーにとってはそれこそ後の祭りというやつなのだろうけれど。


 もしかすると、ボクたちがパーティーを分けて行動していたことでそうした行動を誘発することができたのかもしれないね。

 つがいの魔物の一番の難点は互いのピンチを庇いだてしたり、逆に絶妙なタイミングで攻撃を追加したりといった高度な連携にある。今回のボクたちのようにパーティーを分けることは地力の強さを要求されるという苦しい面もあるが、そうした厄介な部分を阻止できるのは大きな利点と言えるのではないかな。


 とはいえ、これがつがいの魔物全てに該当する性質なのか、それともボクたちが遭遇した二体にだけ当てはまるものであるのかは判別がついていない。実際にそれを検証するためには三桁から四桁の戦闘の実例が必要になってくると思う。


 はい。今のボクたちにそんな手間暇をかけている時間もなければ余裕もありません。

 よって、この件は報告ついでに詳し目に『冒険日記』に書こうと思います。仮に大々的に広めてはいけないことであれば運営がチェックした時点で削除してくれるだろうし、そうなれば個人的な知り合いのプレイヤーたちとメイションで出会った際の話題にすればいいだけのことなので。


 さて、ここまででもうお分かりかと思うけれど、残ったマーダーグリズリーとの戦いもボクたちの勝利で幕を閉じることになる。

 ミルファたち三人の時点でも一応は互角の状況に持ち込んでいたからね。そこにボクたちが参戦すれば当然、こちらの圧倒的有利となるというものですよ。


 だから「北見たかった……」ではなく!「来た、見た、勝った」と簡潔すぎるでしょう報告をしたどこぞの有名人にならって「勝ちました」で終わらせても良かったのだけれど……。

 実はミルファとネイトだけでなく、最近活躍機会がめっきり減ってちょっぴり影が薄い状態となっていたエッ君もかなりの活躍を見せていたのよね。


 という訳で、全国三億六千万人のエッ君ファンの皆様のために、もう一つの対マーダーグリズリー戦の回想いってみよう!



 時間は少し遡りまして、ボクがマーダーグリズリーにふっ飛ばされてコロコロしていた頃のこと。

 ミルファたちは交差する瞬間とその後の背後からの遠距離攻撃による狙い撃ちの二つに絞ることで、徐々に敵のHPを奪うことに成功していた。


「止められないのであれば、動いていても当たる攻撃をすれば良いのです。逆転の発想というやつですね」

「なんだかリュカリュカが得意そうな考え方ですわね。わたくしたちも着実にあの子に毒されているような気がしてきましたの」

「そういうことは言わないでください!」


 ネイトさんや、それってばどういう意味なのでしょうかね。一度しっかりと話し合いをした方がいいのかな?

 あ、ミルファは後でメイド服の刑(おしおき)決定だから。


 そんな軽口を叩きあってはいたけれど、彼女たちもそれほど余裕があるという訳ではなかったのよね。

 個体差はあってもマーダーグリズリーは頭の鼻先から尻尾までの全長が四メートルを下回ることはないとされている。

 それだけの巨体が猛スピードで襲い掛かってくるのだ。リアルで言えばさながら闘牛用の暴れ牛、いいや、横幅を考えれば自動車が相手と言ってもいいだろう。

 ほんの少しかすっただけでも大ダメージとなってしまう、そんなギリギリの状況下だった。


 特に交差する瞬間を狙うことになるミルファの心労はいかほどのものだったことか。下手な当て方をすれば攻撃どころか逆にこちらのダメージになりかねないのだから。

 さらに、ここに武器の耐久度までが加わってくることになる。何も考えずに振り回していると、いつかのボクのようにあっという間に武器をダメにしてしまったことだろう。


 ネイトやエッ君もただ避ければいいというものではなかった。ミルファほどシビアな回避を要求されないとしても、後方から追撃するための闘技や魔法の準備態勢を維持しておかなくてはいけなかったのだ。


 そんな一瞬の隙が全てを瓦解させてしまうようなギリギリの緊張感の中、三人がしっかりと自分の役目を果たすことで、少しずつではあるものの一方的にダメージを与え続けるという、最良とも言えそうな結果を残していた。


 格下に見ていた相手に良いようにあしらわれ続けたことで、六つ足熊さんがむきになって突進にこだわり続けていたこともミルファたちの追い風になったみたい。

 ……いや、もしかするとそうなるように仕向けていたのかもしれないね。



 そう思って後ほどネイトに確認してみたところ……、


「ええ。確かにそうなるように狙っていた部分はありました。もっとも、そうなったのはあの個体の性格が大きく関係していたように思いますけれど。長期戦になるのは最初の段階から分かっていたことですので、攻撃よりも回避の方を重要視していただけとも言えますから」


 とのこと。

 うーん……。偶然と言えなくはないけれど、意識して行動したことによって望んだ未来を引き寄せることができた、と言えなくもない気がする。

 というかそちらの方がカッコイイので、そういうことにしておこうと思います!


「でも、攻撃を後回しにするのって口で言うほど簡単なことじゃないよね?」


 いつ終わるか分からないというプレッシャーというのは、時に想像を絶する苦しみをもたらすものでもあるからね。

 単なるお手伝いでしかなかったはずのボクですら、中学時代に生徒会室に山のように積まれていた背筋が寒くなってしまったものだ。

 まあ、その原因は里っちゃんたちにあったため、あれはある種の自業自得というものだった訳ですが。

 ともあれ、どうしてそんな危険な作戦を取ったのか、ついでに聞いてみることにした。


「そうでもありませんよ。時間稼ぎさえしていれば何とかなると分かっていましたので」

「え?」

「あれだけ盛大に啖呵を切ったのですから、リュカリュカたちは必ず助けに来てくれるはずでしたからね」


 ……ネイトさん、それは殺し文句ですよ。


 ふおおお!顔が、顔が熱いです!


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