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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十二章 山高く谷深い場所で

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453/933

453 規模が大きい?

 せっかくなので休憩がてら水辺に寄ったところで、メジャートロウトなる魔物が襲い掛かってきたので撃退するというアクシデントに見舞われつつも、ボクたちは無事に当の集落跡らしき場所へと辿り着いていた。


 ちなみに、メジャートロウトはとっても変なお魚でした。

 日の当たり方によっては虹色に輝く鱗を持っているところまでは良かったのだけど、その体形が真四角な立方体に頭や(ひれ)を付けたという何とも珍妙なものだったのだ。

 後から名前を調べて気が付いたのだけど、どうやら測りの(ます)と魚のますをかけたものだったみたい。

 反射的に「ダジャレかい!?」と突っ込んでしまったボクは悪くないはず。


 話を目的地へと戻そうか。その場所は一見すると何でもない荒れ地のようだったけれど、よくよく目を凝らして調べてみると人の手が入っていた跡がそこかしこに見つけることができた。

 まあ、ボクの場合は怪しい所を片っ端から〔鑑定〕して回った訳ですがね!


「こっちの規則的に置かれている石は、家の土台にした物だったみたいだよ。後、そっちで半分野生化している植物たちは、実とか根っこが食用にできる物だったようだね」

「そうなりますと……。こちらの方が集落の中心で、あちらは隣接する畑だったということになりますかしら」

「その認識で問題ないと思います。……ですが、これはもう集落というよりは村といった方が差支えのない規模ですね。広さだけで言えばわたしが生まれ育った村と同じくらいはありそうです」


 ネイトの村の規模は分からないけれど、確かにこれまで巡ってきた集落跡とは明らかに異なっていた。

 まず建物跡の数が違う。それまでが多くても十数軒程度だったのが、こちらは少なく見積もっても五十軒以上はありそうなのだ。そこに畑だったと思われる区画も隣接しているのだから、全体の広さは推して知るべし、という状態だ。

 さらに中心部には広場だったと思われる開けた場所もあるし、その近辺には他の家々よりも大きかったのではないかという建物跡がいくつも発見できた。


「もしかすると、かつてはここがこの辺り一帯の中心地だったのかもしれないね。この建物跡なんていくつもの部屋が並んでいるようにも見えるから、他所からやって来た人のための宿泊施設だったのかも」


 もしくはそうした機能を兼ね備えた、村長のようなまとめ役の家だったとも考えられる。

 まあ、いずれにしても、


「それだけ栄えた場所ですのに、まるで意図的に忘れ去ったかのようですわね。リュカリュカの言ではありませんが、これはどう考えても怪しいのではありませんこと」


 だよね。そういう結論に達するよね。


「それじゃあ手分けして、だと魔物が接近してくると危ないから、二組に分かれて探ることにしようか」


 〔警戒〕の技能を持つボクとネイトがそれぞれの組にいれば、そうそうは奇襲されることもないだろう。という訳でボクとリーヴとトレアで一組、ネイトとミルファとエッ君で一組となって探索を開始する。


「闇雲に探し回るには範囲が広すぎるから、まずは中心だったと思われる広場とその周囲の大きい建物跡を目標にしよう」


 理由?大事なものを隠すなら、一番偉い人の目が届きやすい所にするかなと思ったもので。

 逆に誰の目にもつかないへんぴな場所という可能性もあるのだけれど……、それだと該当箇所が多過ぎて探しようがない気がするのよね。


 定期的に〔警戒〕を行いながら、何か怪しい代物はないか探し回る。あっという間に体中が土まみれとなってしまったよ。

 特に頑丈に組まれていた隅などを除いて壁の大半すら崩れてしまっていたため、視線を向ける先は必然的に地面ばかりとなるからだ。


「トレアは無理して屈みこまなくてもいいからね」


 彼女は下半身がお馬さんボディーだから、どうしても真下を探ることには不向きとなってしまう。


「離れた場所や高い目線で見て初めて分かることもあるだろうから、そういうことをイメージしながら探してみて」


 そう言ってあげると、トレアは嬉しそうにコクコクと首を振って、あちらこちらへと目を向け始めたのだった。新参者だという引け目は感じなくなっているようだけど、やっぱりこういう時に一人だけ役に立てていないというのは地味にプレッシャーだったようだ。

 他の子たちもそうだけれど、もっとよく見てあげておかないといけないなあ……。


 おっと、今は地面の方もよく見ていかないと。

 こういう時には〔鑑定〕で怪しい場所も発見できれば楽ちんなのだけど。世の中そう簡単にはいかないようにできているのか、試しに技能を使用してみても『地面。かつては建物の床の下だったのかもしれない』としか表示されなかったのだった。


 二手に分かれて探索を始めて三十分ほどが過ぎた頃だろうか。

 半ば惰性になりつつあった〔警戒〕に反応が現れた。


「ネイト!〔警戒〕で南の方に反応あり!詳しい場所を調べて!」


 ボクの熟練度では大まかな方向しか判明しなかったので、すぐさまネイトに応援を頼む。


「分かりました!……南におよそ五十、どんどん近付いてきてる!?……数は二体?気を付けて!マーダーグリズリーの『つがい』である可能性があります!」


 ちょっ!?それ最悪で最凶な一番遭遇したくないやつ!?

 ただでさえ強いマーダーグリズリーが一度に二体な上につがいですと!?


 『つがい』というのは、群れとリーダーの関係のような魔物の特殊な状態の一つだと言われている。

 オスメス一体ずつと数の上では群れに及びもつかないけれど、その分様々な行動に補正が付いているのではないかという噂がプレイヤー間ではまことしやかにささやかれていたりします。

 ただし、運営による正式な発表はないため、あくまでも対戦する羽目になったプレイヤーたちの実感に基づいた言い分という扱いになっていた。


 また、プレイヤーごとの感想もまちまちで、「巧みな連携に翻弄されてろくに反撃する余裕もなく負けた」という意見があったかと思えば、「二体同時に現れたのとほとんど変わりなく、そんなにピンチにならずに倒せた」という報告があったりと、個体差が大きい仕様となっているのではないか、とも推測されていた。


「と、とにかく合流を――」

「ダメです!あちらが近付いてくる方が早い!」


 元畑に繁茂する植物をなぎ倒しながら現れた二体に、ボクたちは万全とは言い難い状態で立ち向かうことになったのだった。


次回からは戦闘に突入だー。

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