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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十二章 山高く谷深い場所で

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452 山間を巡る

 ドワーフの里を出発してから早三日目。ボクたちパーティー一行は今日も今日とて、ドワーフたちの集落跡を巡るために山道をてこてこと歩いていた。

 おじいちゃんにはベルドグさんたち経由でジオグランドの各冒険者協会に「これからハイキングだよ、ひゃっほい!」と伝言してもらうことにしたので、動き回っていることは伝えられていると思う。


 さてさて、そんな山道ですが当然のように道はよろしくなかった。

 西からケンタウロスやオーガなどの魔物の群れが誘導された影響なのか、それとも名前を知らないドラゴンさんがそれらを蹴散らしたせいなのか、魔物との遭遇率が低くなっていたのが救いだったね。


 また、長老さんたちが協力してくれたお陰で、なかなかに細やかな地図を手に入れることができていた。これによって日が暮れる頃には集落跡や山小屋といった安全地帯へと移動して、無事に夜を明かすことが可能となっていたので、快適とまではいかなくとも余計な苦労はしなくても済んでいた。


 まあ、その分プレイ時間が若干伸びてしまい、リアルの方の睡眠時間が少しばかり削られることになってしまったのだけれど。

 実を言うともう少しすれば中間テストもあるし、その後には文化祭も控えているだよね。

 そうなるとゲームをしている暇もなくなってしまうので、その前にこの一件を解決させておきたい。という訳でちょっとばかり無理をしているのだった。


 ついでにボクたちの持ち物などにも触れておこうか。

 山岳部を歩き回るということで厚手の服に厚手の毛布といった防寒用品に加え、長くて丈夫なロープだとか、救難信号に使える煙がもくもく出るという謎の小箱――中身は『煙幕草』という植物を干して固めたものらしい――などなど、これもあれもと色々と持たされてしまった。


 ただし、ドワーフの里へと足を運んだ理由の一つの装備品の新調はできなかった。

 おばあちゃんが上手く恫喝(どうかつ)、もとい言いくるめて……、でもなくて、説得することができなければ、ジオグランドの首都から派遣された部隊との戦闘になってしまう。

 買おうにも商品がなければいかんともしがたく、職人のドワーフさんたちが新しく作ろうにも素材がなかったのだからどうしようもない。

 いくら何でも、戦いが差し迫っているかもしれない人たちから武器や防具を取り上げることはできないからね。


 ああ、でも、テイムしたばかりなトレアの初期装備ではさすがに弱過ぎるということで、職人さんたちが急いで弓と矢、そして胸当てを作ってくれたのだった。

 ちなみに、スペック的にはボクたちが現状使用している装備品と比べても遜色ない出来栄えとなっておりました。


「あり合わせの材料でこれだけの物を作っちゃうなんて、ドワーフの職人恐るべし……」

「う、羨ましくなんてありませんですわよ!」

「ミルファ……、心の声がダダ洩れになっていますよ。トレアも気にしないで。パーティーの総合戦力が上がるのはわたしたちにとっても良いことなのだから」


 そんなやり取りを行ったのも、かれこれ数日前の話。

 ネイトの言った通り武器の性能が格段にパワーアップしたこともあってか、既にトレアはボクたちのパーティーにとっていなくてはいけない存在となっていたのだった。


「前方やや左手上空にライトニングバードです」

「了解。全員魔法で向こうの攻撃を妨害するよ。トレアは体勢が崩れたところを狙い撃って。エッ君は地上から近付いてくる魔物がいないか注意しておいて」


 ネイトが一早く〔警戒〕で敵の居場所を察知してボクがみんなに指示を出すと、あっという間に迎撃準備を整えられた。

 これも数日間の実戦の賜物だね。


 最初はトレアに妨害を任せて魔法で倒すという方法を取っていたのだが、相手は雷属性ということで特定の弱点を持っていないため、どうにも手間がかかってしまっていた。

 それならばとものは試しに役割を入れ替えてみたところ、これがきれいに決まったという訳。

 以降はエッ君を除いた全員の魔法で、ライトニングバードの移動を牽制または雷魔法での攻撃を妨害して、トレアの狙いすました一撃で撃ち落とす、という形で安定して倒すことができるようになったのでした。


 余談だけど、解体に関しては倒したと同時にアイテムが自動取得できる短縮設定に変更している。

 うん。倒した魔物がね、到底歩いてはいけないような谷間に落ちて行ってしまったのですよ……。

 さすがに獲得できるのが経験値だけというのは辛いものがあるので、身勝手だなとは思いながらも変更させて頂きましたです。


 それはさておき、今回もボクたちから各種属性魔法が乱れ飛んで翻弄されたライトニングバードに、本命のトレアが【弩弓】の闘技で強化された一撃を撃ち込み、こちらの被害はゼロで戦闘を終えることができたのだった。


「単独での遭遇ばかりだったこともあるけど、今のところは空を飛ぶ魔物にも対処できているね」

「そうですね。この辺りでは群れを作る空飛ぶ魔物はいないはずなので、今の調子を維持することができれば、上空からの備えは十分だと思います」

「後は、他の魔物と同時に現れないことを祈るばかりですわね」

「そればっかりは運次第のところがあるからなあ」


 そして、こんな風に暢気そうに会話ができているのも、実はトレアのお陰だったりするのだよね。

 ボクたちの傍らを歩く彼女の背中には現在エッ君とリーヴが乗っていて、周囲へと鋭い視線?を向けていた。

 このようにトレアの背中に交代で乗ることで疲労を軽減し、なおかつ魔物の接近を警戒することに専念できるため、不意打ちを受ける危険が激減したのだった。


「リュカリュカ、もう少し進んだ所に谷側へと下る脇道があるようですわ。地図だとそこからさらに別れた先に集落跡らしきものがあると書かれていますわね」

「集落跡らしきもの?なんだかあやふやな書き方だね?」

「これまで巡ってきた場所とは違って、ドワーフの里へと移住して以降は何にも利用されてこなかっただけなのでは?なんだかんだ言って、ドワーフの里からも離れていますから」


 近場から順に回ったとはいえ、かれこれ丸二日以上歩いているからね。直線距離に直してもそれなりに離れた場所にまで来ていた。


「ちなみに、集落跡の方へ行かずに真っ直ぐに行くとどうなるの?」

「下りきると小さな沢へと行き着くようでしてよ」

「あれ?近くに水場があるのに、休憩場所としても利用されていないってこと?ちょっとおかしくない?」

「昨晩わたくしたちが泊まった山小屋のある場所から近いからではありませんの?」


 確かにあの場所を出発してからまだ一時間も経っていないくらいだ。道からも外れているので、下手をすれば迷子になってしまうかもしれない。

 休憩場所として整備するには不適切だと思われたと言われれば、納得できないことはない。


「まあ、ここで悩んでいても仕方がないし、とにかくその場所に行ってみようか」


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