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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十一章 ドワーフの里で

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450 ここではないどこか?

 ベルドグさんたち冒険者組の途中退室に、ボクたち三人は唖然としてしまっていた。

 あ、話す内容をボクに一任していることもあってすっかり影が薄くなっていたけれど、ミルファもネイトも会議には参加しています。


「ええと、まだ途中だったんだけど……」


 確かに情報戦を仕掛けるのは、どこの町や村にいてもおかしくない冒険者たちが適任だった訳ですが、ここから先が一番大事な部分なのに。


「気にする必要はないよ。あれは自分たちの役割を見定めた上で聞く必要はないと判断しただけのことだからねえ」

「うむ。高司祭殿のおっしゃる通りじゃな」

「あいつらが何も言わずに後を託したことには、少しばかり驚かされたがのう」


 そんなボクたちに対して、大人たちはなんだか訳知り顔で話している。

 うーん……。なんだか単に一番の面倒事から逃げられただけのような気がしないでもない? 漫画で言うところの「ここは俺に任せて、お前たちは先に行け!」をやられたかのような……。

 あれって実際のところは、「この先の面倒事は全部お前たちに任せたからな!」の意訳ではないかと勘繰ってしまうのはボクだけでせうか?


 深入りし過ぎるとジオグランド対冒険者協会という構図になってしまいかねないので、一旦距離を置くことにしたのかもしれない、と好意的に解釈しておくとしようか。

 支部ごとに随分と様相が違っている感のある『冒険者協会』だが、あれでも『七神教』と同じく超国家的な組織だからね。色々と細やかな決まりごとが存在しているのだろう。

 まあ、中には好き勝手している所もあれば、土地土地の権力者と癒着している所もあるようなので、必ずしも守られているとは言い難いみたいだけどさ。


「さて、それじゃあ続きを聞かせてもらおうかねえ」


 おばあちゃんに促されて、ハッと我に返る。

 いけない、いけない。まだ肝心なことが残っているのだから。


「今回の一連の嫌がらせと攻撃ですが、改めて考えてみると変なんですよね」

「どういうことじゃな?」

「だって、『ドワーフの里』と言えば知らない人はいないくらいの物作りのメッカですよ。日々仲間たちと切磋琢磨しているドワーフたちによる製作物は常に一級品。ジオグランド王国からしてみればまさに金の生る木、金の卵を産む鶏、ここ掘れワンワンと隠し財宝の匂いを嗅ぎつけるワンコちゃんに等しい存在のはずです。……いくら敵対意識を持つ一派が含まれているとはいえ、そんな相手に何の話し合いも持ちかけようともしないで潰そうとするのはおかしくありませんか?」

「それは、わしらを切り捨てた以上の利益が期待できると信じ込んでいるからじゃろう。他ならぬお前さん自身がそう言っておったではないか」


 うん。確かに似たような事は言ったね。

 大陸中のドワーフたちを敵に回してでも、他国に戦争の口実を与えることになってでも、『空を征く船』を完成させることができれば、それらのリスクを上回るハイリターンを得ることができると考えているのではないか、とね。


「その決断が早過ぎるように思うんですよ。普通は最後通告などを出して従わせようとするものじゃないですか?いくら自治権を持つとはいっても、ドワーフの里は土卿王国の治世の下にある訳だし、力関係で言えばあちらの方が確実に上なんですから」


 地力の差を考えれば、ドワーフの里は保持しながら『空を征く船』の完成を目指すことだって十分に可能なはずで、そうした方がはるかにお得だと思うのです。


「それをさせないほどに、わしらドワーフを忌み嫌っておる者が中央にいるということか」

「それも一つだと思いますけど、それ以上にドワーフの里に何かがあると確信するに至った物があったんじゃないでしょうか。……例えば、昔々の王様の名前が書かれた偽造のしようがない古文書とか」


 それが本当に真実に基づいたものなのかどうか?まで議論していたら話が進まなくなるので、今は置いておくことにするよ。


「しかし、わしらは嘘などついておらんぞ!先代からも先々代の長老たちからも、ここには何も隠されていないと言われてきたのじゃ!」

「落ち着いて。長老さんたちを疑っているという訳じゃありませんから。ただ一点だけ聞かせてください。『ドワーフの里』は最初からこの場所にあったんですか?」


 直前の台詞を聞いたことで答えに確信を持ちながら、ボクはその質問を口にする。


「いいや、違う。この街はその昔、ジオグランドがわしらの祖先を迎え入れるために整備した場所じゃと言われておる。もっとも、そうして多くの同胞が共に暮らすことができるようになったことで『里』と呼ばれるようになった、という(いわ)れはあるがのう」


 後半部分はともかく、やはり前半部分は読み通りだったようだね。


「だが、それが一体どうしたというんじゃ?」

「仮にあちらの根拠が古文書のようなものだとすると、そこに記されているのはその昔に暮らしていたという、ここではないどこかだとは考えられませんか」


 長老さんたちは大きく目を見開いた後、互いの顔を見合わせていた。あ、これさっきの台詞といい、心当たりがあるっていう流れだ。


「かつて我らドワーフは家族や一族で小さな集落を方々に形成して暮らしていたという。そしてその時分には今では失われてしまった門外不出の秘伝の技術を継承していた所もあったという話じゃ」


 失われた?

 ……え?ドワーフといえばどんな技術でも大切にするというイメージを持っていたのだけれど?


「これは驚いた。まさかドワーフが自らの培ってきた技を捨てたとはねえ。そんな話はこっちの大陸に渡って来てからはもちろん、向こうの大陸にいた頃にも聞いたことがなかったよ」


 おばあちゃんの語り口から、ボクの持つイメージが間違っていないことを確認できたね。


「全ては当人たちだけが知ることじゃよ。何を思ってその技術を捨て去ったのかはわしらにはさっぱり分からん」

「わしら以前の世代の者たちも皆、首をひねっておったからのう」


 子孫にあたるかもしれない長老さんたちでさえ、真相に想いを馳せることはできないようだ。

 その事からも、やっぱりこれは異常なことなのだとはっきり理解させられる。


「技術を捨ててしまった理由は一旦置いておくとして。そうした技術があったと知っていた人なら、そこに何かが残されているかもしれないと考えても不思議はなさそうかな」


 問題は、このことをジオグランド中央がどこまで理解しているのか?だね。

 それによって取るべき行動が変わってきそうだ。


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