表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十一章 ドワーフの里で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

449/933

449 情報戦で対抗

「ジオグランドの山岳地帯は本当に険しいからねえ。地下道で繋がっているのも大きな街や重要な場所だけさ。点在する村々はずっと過酷な状況のままなんだよ。かく言う私も、ここに来るまでは難渋したよ」


 しみじみとした口調のおばあちゃんの言葉には、経験したことのある人だけが持つ重みのようなものが感じられた。

 リアルでも自動車などが入れない山間の場所になると、移動だけでもとんでもなく大変だったりするものだ。しかもこちらの世界には、野生動物とは比べ物にならないくらい凶暴で凶悪な魔物が生息している。

 生活必需品の買い出しですら文字通り命がけになってしまう。


 そんな環境下であればこそ、地形に左右されずに行き来することができる『空を征く船』は正しく天からの福音のように思えたことだろう。

 何度も設計図の偽物を掴まされても諦めなかったのも、里を挙げてドワーフたちが協力したのも、こうした不便で危険な状況を改善したいという想いが根底にあったからではないかと思えるね。


「わしらはこの土地が好きじゃ。だからここでの暮らしが豊かで快適になれば良いと願っておっただけなのじゃがのう……」

「兵器に転用しようなどと考えているやからがいるとは思ってもみなかったわい」


 長老さんたちの嘆き節に「見通しが甘かったね」と言いそうになってしまうが、これは情報が溢れているリアル社会で生きてきたからこそ、気が付くことができたのだと思い直す。

 疑おうにも、その材料がなければ疑うことすらできないという訳だね。


 そのリアルですら「我が家の常識は世間の非常識だった!?」という事例がいくつもあるのだから、「得ることができる情報」イコール「与えられた情報」となっていた彼らに、ボクと同じことを求めるのは無茶振りが過ぎるというものだろう。


 多分、ジオグランド中央は民衆や協力者であるドワーフたちに、善の面だけを話したり見せたりしていたのではないかな。もしくは、誰かが兵器への転用に気が付いたことで、今回の騒動へと繋がってしまったか。

 できるならば後者であって欲しいところだね。王家を中心に長年国の中央が民を騙していたとは思いたくないのです。


「とにかく、想像もできなかった強硬手段を取ってくる可能性があります。対立はしていてもどこか気心の知れていた今までの相手とは、まるで別の存在だと考えておくべきです」


 まずは危機的状況なのだと認識してもらうことが第一だ。


「そして次に具体的な対抗策ですが、こちらからも情報戦を仕掛けます。……と、その前に確認。ベルドグさん、ケンタウロスが住処にしていた南西部の荒野で何があったのか、裏は取れていますか?」

「ああ。集めていた大勢の冒険者たちを使って、ケンタウロスを始めとする魔物の殲滅戦を行ったようだぜ。リュカリュカの嬢ちゃんに探すように言われていた『孫たちへ』という伝言にも、それに参加するつもりだと書かれていたそうだ」


 ビンゴです!

 まあ、ドワーフの里へと押し寄せてきた魔物の群れはケンタウロスが約半分の百近い数を占めていた。それだけの大量な数となれば、一大生息地である南西の荒野から追い立ててくるより他はないだろうからね。

 できることならドワーフの里に辿り着くまでの魔物たちの経路を知りたいところだけれど、これに関しては冒険者任せではなくジオグランドの騎士や兵士が秘密裏に行った可能性が高いので、調査するのは難しいと思われます。


 余談だけど、記憶の中のディラン(おじいちゃん)と、『孫』という単語が上手く結びつかなかったらしく、ベルドグさんは何やら複雑な表情となっていたのだった。


 などと考えていたところ、音もなく入室してきた人がベルドグさんにメモ用紙くらいのサイズの紙片を渡しているのが見えた。


「……たった今挙がってきたからついでに報告しておくと、街から西に一キロほどの街道から少し離れた場所に、人がいた跡が残されていたとよ。それと、封鎖されているはずのサスの街に繋がる地下通路にも利用した形跡が見受けられたそうだ。もっとも、こちらは念入りに痕跡を消そうとしていたらしい」


 そんな隠された情報を見つけてしまうだなんて、実はかなりの凄腕なのでは?

 なぜにそんな人がこんな辺境とも言える土地で冒険者協会の職員などをしているのやら。


 それはともかく、残されていた痕跡は数名程度のものであり、大勢が詰めかけていた訳ではない、ということだった。

 うむむむむ……。ドワーフの里へ差し向けられた魔物の群れをいざ倒すとなれば、いくら訓練を受けた兵や騎士であってもそれなり以上の数が必要になるはず。

 そのため部隊を近づけていると思っていたのだけれど、これは予想が外れてしまったかな?


 まあ、いいか。

 向こうがどうなっているにしても、こちらのやることに変わりはない。


「話を情報戦のことに戻しますね。流してもらいたい噂は「南西の荒野には何かが隠されている」、この一つだけです」

「……んあ?それだけなのか?」

「ええ。後は、たくさんの冒険者を動員して生息している魔物の討伐を行ったという事実が、裏付けの代わりになってくれますから」


 かつての英雄であるおじいちゃんまで参加しているのだ。話題性は十分にあるので、こちらからことさら説明しなくても、噂を聞いた側が勝手に関連付けてくれることだろう。

 歴代の王が開発にこだわっていたという点も、追い風となるのではないかな。


「中には察しが悪い人もいるでしょうが、そういう人に詳しく説明してあげる必要はありませんので」


 ドワーフの里の窮状を訴える時と同じで、聞き手がそうだと思い込むだとか、自ら気が付くといった形の方がより強く信じ込むことになるからね。

 その上、向こうが行動に移るまでの間にどれだけ噂をばらまけるかという時間との勝負なところがある。割ける人の数にも限度があるので、余計な手間をかけている余裕はないのです。


「噂をばらまいて、最終的には国内にいる冒険者のできるだけ多くを南西の荒野に集めることが目標となります」

「冒険者がいなくなれば、各街の軍は魔物に備えるために身動きができなくなるという訳か!」


 ベルドグさん、正解です。

 中央の部隊は残ってしまうけれど、援軍を派遣できなくする意味は小さくないはずだよ。


「分かった。さっそく手配させよう」


 ベルドグさんはこれが自分たちの受け持つ仕事だと判断したのか、顔役の冒険者さんを伴って部屋から退室していくのだった。


〇どうして優れた密偵が冒険者協会の職員をしているのかというと?


簡単に言ってしまうと、「ドワーフの技術力は世界一イイイィィィ!!」なので、それを利用しようとする悪いやつらに対抗するため、です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ