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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十一章 ドワーフの里で

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448 対策を考えよう

「いくつか考えられる対策はありますけれど、まずはドワーフの里の窮状を訴えることが第一だと思います。幸い、クシア高司祭のお陰で『転移門』は再起動することができています。このことはジオグランド中央も知らないはずのことなので、使わない手はないでしょう」


 おばあちゃんを見ると、ニヤリと悪戯っぽく笑っていた。

 不利な状況からの逆転劇とか好んでいそうだものね。


「まだほとんどの住民が採取ツアーに出てしまっていることも、そこまでしないと生活が成り立たなくなっていると思わせる材料にできるはずです」

「それは、俺たちに他所の街で嘘を吐けと言っているのか?」

「違います。現状を淡々と語ればいいだけで、その捉え方を相手任せにするということです」


 実際のところ、流通が遮断されて材料が足りないために採取に向かったという点は事実なのだから。

 ただし、ドワーフたちが皆喜々として採取ツアーに出かけた、という部分だけは伏せる必要があるけれど。


 まだ微妙に納得しきれていない感じの五等級冒険者さんだったが、口を閉じたということで少なくとも反対する気はないようだ。

 個人的には緊急事態にあってもしっかりと倫理観を維持し続けることができていることに好感が持てる。それでいて場に合わせる柔軟性も持ち合わせているのだから、冒険者たちの顔役になっているというのも納得だね。


 もっとも、にらみを利かせるという意味合いもあるのか相当な強面だけど。

 額と頬に大きな傷跡もあるし、街中でいきなり声を掛けられたら間違いなく身構えてしまいそうな外見のお人です。


「魔物の群れとドラゴンについてはどうする?」

「ありのまま話してしまっても問題ないんじゃないですかね。ケンタウロスもオーガもこの辺りは生息域から外れているはずですし、西から押し寄せてきたと言えば原因にピンと来る人も多いと思います」


 続いて投げ掛けられたベルドグさんからの質問には、既に思い描いていた言葉でもって答える。

 大規模な討伐戦を行ったのであればそれだけ情報が拡散しているはずで、国内外の冒険者がかき集められていたという話もあった。それこそその戦いに参加していたという人たちも多いのではないだろうか。

 そんな人たちに直接会って罪悪感や、ジオグランド中央への不信感を抱かせることができれば、少なくとも今後は敵に回ることを防ぐことができると思う。


「住民の大半が材料確保のために採取に出ていたところを、狙いすましたかのように西から現れた本来いるはずのないケンタウロスやオーガを中心にした魔物の群れが襲ってきた。運良く通りがかったらしいドラゴンのお陰で倒すことはできたものの、それがなければドワーフの里は魔物に蹂躙されていたかもしれない。……これなら嘘をついていることにはならないと思いますけれど、どうでしょうか?」


 組み上げたストーリーを提示して、五等級冒険者に尋ねてみる。

 実行するのはドワーフの里からの依頼を受ける冒険者たち――協会の職員も動くけれど、そちらは密偵の技能を活かした噂の流布が中心らしい――であるので、彼の納得が絶対に必要なものとなるのだ。


「……仕方ねえ。これ以上は俺の我が儘になってしまいそうだしな」


 折れてくれたことに感謝の意を示して一礼すると、長老さんたちも「よろしく頼む」と頭を下げていた。


「だけど、これだけじゃあ何も解決しないよねえ」


 と、これまで聞き役に徹していたおばあちゃんが口を開く。


「はい。ここまでは下準備というか、あちらが強硬手段を打てるようになるまでの時間稼ぎです」

「強硬手段だと!?」


 答えた途端、あちらこちらから驚きの声が上がる。

 いやいや、長老さんたちは分かるけれど、顔役の冒険者さんまでなぜ驚くかな。もしかして、あれで終わりだと思っていた?


「防衛戦力を奪っておいて、魔物の群れをぶつけてくるくらいですよ。最悪ドワーフの里がなくなってしまってもいい、と考えている人間が居るかもしれないと予想しておくべきでしょう」


 極端だとは思うけれど、街が瓦礫の山になってしまったとしても「それはそれで探索に好都合だ」なんて判断する冷徹なやつがいたとしても不思議じゃない。


「しかし、そんなことをすれば大陸中のドワーフたちの怒りを買うことになるぞ!?それに乗じて他の国だって黙ってはいないはずだ!」

「それでも勝ちの目が見えると判断したということでしょう」

「なっ……!?」


 努めて冷静に言い放つと、帯びていた熱を一気に奪い去られてしまったかのように絶句してしまう彼。

 まあ、ある意味常識を覆されているようなものだから、その反応もあながち仕方がないというものです。


 ドワーフにそっぽを向かれたら、いくら大国と言えども立ち行かなくなるものであり、『三国戦争』は三つ巴の戦いであったからこそ痛み分けに終わったのだ。

 この二つの大前提があったからこそ、ドワーフの里はこれまでジオグランド中央と渡り合うことができていたのだ。言い換えるならば、守られていたということなのだろう。


 だが、しかし!

 ボクたちが追っている『浮遊島』を始めとして大陸統一国家時代の遺産には、それらの常識を覆してしまえるだけのとんでもない力を秘めていたりするのです。

 特に土卿王国が長年心血を注いで研究を続けてきたという『空を征く船』が完成し、本格的に製造されて多数が運用されることにでもなれば、これまでの世界のパワーバランスなど呆気なく崩れ去ってしまうだろう。


「お城や街だけでなく、砦や要塞も地上からの攻撃を念頭に置いて守りを固めているでしょう。そこに空から攻め込まれでもしたら、手も足も出ないまま負けることになりますよ」


 空飛ぶ魔物に対抗するために建造された対空特化の砦もあるという話だけれど、そんなものは極々一部だけに過ぎないからね。

 侵攻する分には迂回すれば問題ない訳だし、仮に重要人物が立て籠もったとしても、対抗策を打ち出すことができずにジリ貧になってお終いになってしまうだろう。


「ま、まさか、そんな恐ろしいことになってしまうというのか……」


 ざっと説明したところで見回してみると、ボクたち三人とおばあちゃんを除く一同が真っ青な顔になっていた。

 この調子だとどうやら、兵器として利用される展開を想像していなかったみたいですな。

 あえて触れないようにジオグランド中央側の歴代の担当者が誘導していたのかもしれない。


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